記者の目:東京都知事選を取材して 清水健二氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20121221k0000m070132000c.htmlより、
記者の目:東京都知事選を取材して=清水健二(社会部)
毎日新聞 2012年12月21日 01時00分

 13年8カ月ぶりに交代する「首都の顔」を選ぶ東京都知事選は、猪瀬直樹氏(66)の歴史的圧勝で終わった。大まかに総括すれば、同日実施の衆院選で有権者の関心が分散する中、猪瀬氏が知名度と副知事としての実績で広く支持を集めたと言えるだろう。これが今回の民意であったことに異論は全くない。だが、しばしば「空中戦」と評される都知事選のありようはこれでいいのか、都庁担当記者として違和感がぬぐえずにいる。

 ◇候補者の条件は「名前で100万票」
 「都知事選は特別だ」。この言葉を何人もの関係者から聞いた。都内の有権者数は約1078万人。500万人超とされる無党派層を抱え、今の日本では、最も多くの票を取らないと勝てない選挙だ。候補者選びに関し「名前だけで100万票取れないと始まらない」と話す国会議員もいた。

 95年に選挙活動をほとんどしなかった青島幸男氏、19人が乱立した99年には「後出しジャンケン」で最後に出馬表明した石原慎太郎氏が当選して以降、都知事選は政策論争よりも知名度やイメージ勝負の色合いが一層濃くなった。今回も各候補の活動は、大半が繁華街での街頭演説や練り歩き。住宅地を歩き回ったり、ミニ集会で有権者の声にじっくり耳を傾けたりする機会は、ほぼ皆無だった。さらに衆院選と重なったことで、テレビで候補者同士が討論する場もわずかしかなかった。

 宮城県知事を93年から3期12年務め、07年の都知事選にも立候補した慶応大教授の浅野史郎さん(64)に、ある言葉を教わった。「選挙を通じて知事になる」。元神奈川県知事の故・長洲一二(かずじ)さんの著書の引用で、選挙で何を訴え、誰とどう戦ったかが、当選してからの知事の基本姿勢を決める、という意味だそうだ。浅野さんの場合、ゼネコン汚職で前県知事が逮捕されたことへの怒りが、開かれた県政を目指すベースになったという。

 不特定多数へのアピールに重点が置かれてしまう都知事選は、訴えがどうしても威勢と聞こえが良いスローガン的なものになりがちだ。石原前知事が掲げたのは「国と戦う東京」や「東京の国際競争力向上」であり、猪瀬氏もこれを引き継いだ。

 ◇直視すべき課題、議論されぬまま
 猪瀬氏の当選は、そうした姿勢が評価され、五輪招致や羽田空港国際化、地下鉄の経営一元化といった拡大志向の政策が支持されたからだろう。だが東京を足元から見た時、直視せねばならない課題は、別にあるように思える。

http://mainichi.jp/opinion/news/20121221k0000m070132000c2.htmlより、
 一つは防災。23区内を中心に約1万6000ヘクタールに及ぶ木造住宅密集地域は、首都直下地震に備える上での最大のネックだ。都は東日本大震災後、うち7000ヘクタールを整備地域に指定して不燃化を進めようとしているが、高齢者に長年住み慣れた家を壊して移転に同意してもらうという困難な作業が待ち受ける。

 もう一つは急激な高齢化。00年に約190万人だった都内の高齢者人口は15年に300万人を超すと見込まれ、高度成長期に整備された都営団地のゴーストタウン化や孤立死の増加が懸念される。生活保護世帯数の増加や貧困層の拡大にもつながる問題だ。

 石原前知事が豊かな財政を背景に「攻めの都政」を続けられたのは、比較的好況だった時期と重なったこともあって人口や企業の東京一極集中が進んだという「幸運」も一因にある。だが都税収入は07年度をピークに減り始め、人口もあと8年で減少に転じると予測される。日本全体と同様、東京も確実に「縮む社会」に突入していく。

 猪瀬氏が副知事在職中に手掛けたプロジェクトの一つに、財政破綻して人口流出が進む北海道夕張市への職員派遣がある。私が北海道で勤務していた11年冬、猪瀬氏も現地を訪れ、雪かきに加わった。都職員から転身した鈴木直道市長(31)は「夕張の問題は人ごとではなく、将来の日本の問題でもある」と語る。一方的な「支援」ではない対等な「連携」だとする夕張との交流の中で、都は未来の東京が抱えるであろう問題への対応策を見つけねばならない。

 首都とはいえ、東京も一地方自治体であることに変わりない。知事選は本来、候補者が地域の実情に改めて向き合い、有権者の思いを受け取る場であるべきだ。その過程では「国と戦う」だけでは進まない、地道な対策が必要な課題も浮かんでくるだろう。

 「名前だけで100万票」の空中戦を続ければ、有権者の関心は薄まり、都政はやがて失速する。その悪循環を断つために、私たちメディアもまず、猪瀬新知事の都政運営をしっかり伝えていきたい。

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