韓国大統領選 朴槿恵氏、初の女性大統領誕生
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2012年12月23日(日)付
安倍外交―中韓との修復の転機に
自民党の安倍総裁が、韓国との関係修復に動き出した。
額賀福志郎元財務相を特使として派遣し、次期大統領に決まった朴槿恵(パククネ)氏への親書を託す意向を表明した。
さらに、自民党の衆院選政策集では、2月22日を「竹島の日」として祝う政府主催の式典を催すと記していたが、来年は見送る方針だ。
北朝鮮のミサイル発射や、尖閣諸島をめぐる中国との対立を抱えるなか、竹島問題で悪化した日韓関係の改善は日本外交にとって急務である。
首相就任を前に、安倍氏が打開に向けて行動を起こしたことは評価したい。
とりわけ竹島の日の3日後には、韓国の大統領就任式を控えている。政府式典を強行すれば、緊張がさらに高まるところだった。見送りは妥当な判断といえよう。
早期に首脳会談を実現できるよう環境整備を図るべきだ。
安倍氏はさらに、中国との関係についても「戦略的互恵関係の原点に戻れるように努力していきたい」と語り、改善に意欲を示している。
総裁選、衆院選を通じ、安倍氏は靖国神社への参拝や、尖閣への公務員常駐に言及するなど、近隣外交に絡んで強硬な発言が目立った。
それが、最近は靖国参拝について明言を避け、尖閣への公務員常駐も「中国と交渉していくうえでの選択肢」とするなど姿勢を軟化させている。この点に注目したい。
6年前の首相就任の直後、安倍氏は中韓両国を訪問し、小泉政権下で冷え切っていた両国との関係改善に努めた。意欲を示していた靖国参拝も在任中は見送った。
今回も、そうした現実的な対応を望む。
もちろん、竹島も尖閣も日本の領土である。
だが、いたずらに対立を深めるような選択は事態をこじらせるだけだ。粘り強い外交努力を積み重ねてこそ国際社会に理解が広がり、日本の立場を強めることにつながる。
安倍氏はかねて、河野談話や村山談話の見直しを主張している。しかし、そんなことをすれば中韓のみならず、欧米からの視線も厳しくなるだろう。改めて再考を求めたい。
前回の安倍政権当時と比べ、東アジア情勢は複雑さを増した。日中韓が友好を保つことの意味も重くなった。
3国の指導者が交代するいまこそ、もつれた糸を解きほぐす転機とすべきである。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121222/plc12122203240002-n1.htmより、
産経新聞【主張】韓国に総裁特使 対中と対北で連携深めよ
2012.12.22 03:23 (1/2ページ)
自民党の安倍晋三総裁が韓国に特使を派遣し、次期大統領の与党セヌリ党の朴槿恵氏に親書を送ることを決めた。
互いに政権就任前の特使外交は異例だが、両国の政権交代を機に関係修復をめざす迅速な試みとして評価したい。
中国は尖閣諸島への攻勢を強め、北朝鮮は「衛星」と称する長距離弾道ミサイル発射を強行して国際社会を恫喝(どうかつ)した。東アジアの脅威の高まりに対し、日韓は米国とともに連携を強化して対処する必要がある。
安倍氏は21日、「韓国初の女性大統領で大変期待している。日韓関係を発展、改善させていきたいという思いを込めて訪問してもらう」と述べた。日韓議員連盟幹事長として韓国に知己も多い同党の額賀福志郎元財務相を特使に派遣し、早期首脳会談を呼びかける総裁親書を伝えるという。
小渕優子、竹下亘両衆院議員らも同行予定だ。自民党として派閥横断的に関係修復へ総力を挙げることに意義があるといえよう。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121222/plc12122203240002-n2.htmより、
2012.12.22 03:23 (2/2ページ)
北は日米韓の制止を無視してミサイルを発射したが、国連安保理での対北制裁論議では、中国が北をかばって「議論が成り立っていない」(国連筋)という。韓国も東シナ海の暗礁をめぐって中国と係争中だ。
日韓関係は李明博現政権と日本の民主党政権下で険悪化したが、両国が対立したままでは中国や北を利するだけだ。東アジアの平和と安定も損なうことになる。
同時に忘れてならないのは、日韓関係を最悪ともいえる状態に追いやった李大統領による島根県・竹島への上陸と「天皇の謝罪」を要求した発言だ。
自民党は衆院選で、2月22日の「竹島の日」に政府主催の記念式典を行うと約束したが、安倍氏は来年に関し「総合的状況を踏まえて考えていきたい」と述べた。3日後の25日に韓国大統領就任式があり、安倍氏が訪韓して首脳会談を実現することも念頭に慎重な言い回しになったようだ。
朴氏は慰安婦問題などを念頭に「正しい歴史認識を土台に東アジアの和解、平和が拡大するよう努力する」としている。日韓間には竹島以外にも慰安婦問題や、外国人参政権などの懸案がある。これらの問題で軽々に譲歩してはならない。双方が主張すべきは明確に主張した上で、戦略的な協力関係を構築することが重要だ。
http://mainichi.jp/opinion/news/20121222k0000m070101000c.htmlより、
社説:安倍外交とアジア 地域安定を日本主導で
毎日新聞 2012年12月22日 02時32分
安倍外交がさっそく始動した。まずは日韓関係の立て直しだ。
安倍晋三自民党総裁は朴槿恵(パク・クネ)氏が韓国の次期大統領に選出されたのを受けて、日韓議員連盟幹事長の額賀福志郎元財務相を特使としてソウルに派遣する考えを示した。自民党の衆院選政策集にある竹島の日(2月22日)の政府主催式典開催はとりやめる方針だ。さっそく関係改善のメッセージを出したのである。
李明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島上陸で悪化した日韓関係の修復には、双方の指導者が交代する今が最大のチャンスである。安倍氏は来年2月25日の朴大統領就任式に出席する方向で調整しているが、竹島の日はその3日前にあたる。政府主催の式典は日韓両国の新体制が出だしから対立構図を抱え込むことになりかねない。見送りは賢明な判断である。額賀氏の特使派遣も政治家同士のパイプ強化につなげたい姿勢の表れだろう。
竹島を実効支配している韓国が李大統領の上陸のようにことさらそれを誇示すれば、日本の対韓感情を再び悪化させ、日本側は厳しく対応せざるを得ない。安倍次期政権は韓国側の出方を注視しつつ、日本からことを荒立てない静かな外交を展開していく構えとみられる。こうしたサインに韓国も応えてほしい。
北朝鮮の事実上の長距離弾道ミサイル発射を受け、朴氏は「しっかりした安保と信頼の外交」が重要だと語っている。それには米国を軸にした日米韓の連携が不可欠である。安倍氏が日韓関係の改善に道筋をつけた上で年明けに訪米すれば、3国の結束強化にも役立つはずだ。
日本は竹島以外にも中国と尖閣諸島、ロシアと北方四島の問題を抱えている。日中対立が長期化するとみられている中、韓国、ロシアとも厳しく対峙(たいじ)する二正面、三正面外交は日本の国家としての体力を大きく損なう。日韓、日露関係を良い方向に転換させることは腰を据えた対中外交のためにも必須の条件だ。
むろん、竹島が歴史的にも国際法上も日本固有の領土であることは今後も国際社会に向かって主張し続けるべきである。旧日本軍の元従軍慰安婦問題でも日本のこれまでの取り組みを説明していく努力がいる。日韓の認識の違いは容易には埋まらないが、これらの問題で日韓関係全体が壊れることのないよう双方の新指導者の大局的な外交判断を望みたい。
東アジアの安保環境は極めて不安定である。だが日本が強固な日米同盟を踏まえて日韓の絆を太くし、中国ともこの地域の秩序維持に向け戦略的な話し合いができれば、平和で安定した東アジアへの転換は可能であろう。安倍外交に求められるのはそのための主導的な役割だ。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2012年12月21日(金)付
韓国新大統領―日韓関係、ともに前へ
韓国に初めての女性大統領が誕生する。与党セヌリ党の朴槿恵(パククネ)氏だ。大統領選で民主統合党の文在寅(ムンジェイン)氏を下した。
父親の朴正熙(パクチョンヒ)・元大統領は強権政治の一方で、朝鮮戦争で荒廃した国を立て直した。その娘という圧倒的な知名度がある。国会議員や党トップとしての手堅い政治実績も評価された。
有権者が求めたのは「安定の中での変化」だった。
サムスン電子の躍進などで元気に見える韓国だが、いま大きな岐路に立っている。
現職の李明博(イミョンバク)大統領は、経済成長を重視し、サムスンや現代といった財閥に配慮した政策を取った。だが、成長の果実は国民に行き渡らなかった。
強すぎる財閥のために中小企業は不公正な競争にさらされ、低賃金の非正規雇用が多い。大卒者も厳しい就職難だ。
日本を上回る早さで少子高齢化が進むが、年金をはじめとする社会保障はぜいじゃくだ。格差感は強まる一方だった。
朴氏は現政権と距離を置き、財閥偏重を正して生活の質の向上を図る「経済民主化」や福祉の拡充を訴え、選挙戦では中道路線を取った。
就任後は、成長を保ちつつ、輸出に過度に依存するいびつな経済構造を改め、国内の底上げを図ることが急務となる。輸出のためのウォン安を正せば、輸入品が安くなり、国民は生活改善を実感できるようになる。
北朝鮮との関係では、李氏の強硬路線は改善に結びつかなかったとの判断から、対話路線を掲げる。02年に平壌を訪れ、故金正日(キムジョンイル)総書記と会談した経験もある。北朝鮮が弾道ミサイル発射などで揺さぶりを強めているいま、日米と外交の歩調を合わせることが重要だ。
日本との関係は今年、李氏の竹島上陸や天皇訪韓に関する発言で大きく冷え込んだ。日韓で新政権が誕生する今こそ、改善に踏み出すべきだ。
むろん、楽観はできない。朴氏も領土や歴史の問題では日本に厳しい姿勢を示してきた。きのうの会見でも、「正しい歴史認識が土台」と語っている。
韓国では、次の首相になる自民党の安倍晋三総裁の歴史認識などに懸念が出ている。
だが、日韓が協力することが大切なことは、苦難の歴史を通して、両国の人々はわかっている。互いに刺激し合うような行動は控えるべきだ。
安倍氏は、日米同盟の重視を前面に押し出している。同じく米国と同盟を結ぶ韓国もあわせ3カ国の連携は、東アジア安定の基本になる。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121220/kor12122003250003-n1.htmより、
産経新聞【主張】朴韓国新大統領 過去より未来を見すえよ
2012.12.20 03:24
韓国に新しい大統領が誕生した。しかも初の女性大統領だ。女性の最高指導者は日本はもちろん米国にもまだ登場していない。北朝鮮の脅威の下でも「女性がやれる」という選択は韓国政治の新たな進展である。祝賀と敬意を表したい。
朴槿恵新大統領は1960~70年代の18年間、大統領など指導者を務めた軍人出身の朴正煕氏の長女である。まだ20代だったころ、母の陸英修女史は74年、北朝鮮がらみの狙撃事件(文世光事件)で死亡し、父も79年、側近に暗殺されるという政治的悲劇を2度も経験している。
政治に身を投じた後、よく「親の七光」がいわれたが、国会議員として野党時代を含めすでに15年の経歴を持つ。韓国の政治家の中では最も経験豊かな保守本流の安定感ある政治家だ。
新大統領の課題は、まず国内的には国民の生活格差解消など最大の公約である経済民主化のほか、敗れた文在寅候補支持の革新系など社会的不満勢力をいかになだめるかである。荷は軽くない。
選挙結果からも分かるように、韓国では与野党、保革がほぼ伯仲しており、対立はいつも激しい。政治の安定に苦労が予想される。女性ながら、「原則固持の毅然(きぜん)とした指導者」というイメージの朴氏だが、選挙中にも指摘された、「(意思の)疎通と和合の政治」がいっそう求められる。
一方、対外的には保守本流として日米韓の3カ国協力体制のさらなる強化が期待される。中国については「あくまで米韓同盟の基礎の上での関係強化」を主張し、過度な対中傾斜は考えられない。北朝鮮に対しては安全保障上の確固たる備えを強調している。長距離ミサイル発射では制裁論だ。
対日関係では選挙期間中も「過去より未来」を強調していた。新政権として李明博政権とは異なる対応を期待したい。
父親の朴大統領は65年、世論の反対を押し切って日韓国交正常化を実現した。この決断が今日の韓国の発展につながったことを、彼女はよく知っている。
もちろん、韓国の大統領として領土問題や歴史問題で日本に譲歩するなどということはありえない。ただ、現実と未来のために対立は棚上げし、相手の立場も考慮しながら協力関係を発展させるという父の時代の知恵はぜひ参考にしてほしい。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012122002000121.htmlより、
東京新聞【社説】韓国女性大統領 隣人の大切さ知る人だ
2012年12月20日
韓国大統領選で与党セヌリ党の朴槿恵候補(60)が当選確実となった。国民は格差社会の是正を願う。経済成長と富の再分配をどう両立させるかが課題だ。
朴氏は韓国で初の女性大統領になる。北朝鮮と対峙(たいじ)する韓国軍の統帥権を女性に委ねるのはどうかと、懸念も聞かれた。だが、国会議員五期、党代表も務めた強いリーダーシップを示し、保守層、中高年齢層を中心に厚い支持を集めて激戦を勝ち抜いた。
父は韓国発展の基礎を築いた故朴正熙元大統領。豊かにはなったが、少子高齢化が急速に進み福祉制度はまだ不十分な祖国のかじ取りを担う。
◆経済民主化が争点に
選挙戦では与野党とも「経済民主化」をスローガンに、公正な経済活動、福祉や教育の充実を公約に掲げた。対抗馬の野党、民主統合党の文在寅候補(59)は大企業の活動を規制すると訴えた。
スマートフォンに高画質テレビ。韓国製品は世界各国で日本製をしのぐ。自動車も欧米市場で激しく追い上げる。「グローバル化」を掲げた李明博大統領の政策によって、国際的な地位は飛躍的に高まった。
ところが、繁栄の果実はオーナー一族が実権を握る財閥(チェボル)と呼ばれる大企業が手にした。電子機器を中核として八十の系列企業を持つサムスングループの売上高は、国内総生産(GDP)の約20%を占める。
中小・零細企業の経営は悪化した。年金、福祉政策はまだ十分整備されず、高齢者の自殺がこの十年で倍増した。大学進学率は八割近いが、若年層の失業率は、就職を目的に留年する人を含めると10%を超えるといわれる。
朴氏は李大統領の競争原理を重視する政策とは一線を画し、福祉や教育予算を大幅に増やす中道路線を前面に出した。これで保守、既得権層の代弁者という批判をかわすことに成功した。
◆苦難乗り越えた強さ
朴氏は演説で「国民すべてを家族と思い、母親の気持ちで職務をする」と述べ、優しさも印象づけようとした。
二十代で父母を亡くした。母陸英修氏は一九七四年、式典出席中に会場にいた男が撃った銃弾で死去した。大学生だったが、大統領府に入って執務を手伝い、父の視察にも同行してファーストレディー役を務めた。
五年後、今度は父が側近に撃たれて世を去る。血に染まった父のワイシャツとネクタイを、泣きながら洗ったという。
その後、公の場に姿を見せず隠遁(いんとん)に近い生活を続けたが、韓国が金融危機に陥った九七年に政治活動を始めた。二〇〇六年には遊説中に刃物を持った暴漢に襲われ、頬に深い傷を負った。
それでも大統領にまで上り詰めたのは、自叙伝「絶望は私を鍛え、希望は私を動かす」の題名通り、不屈の精神力ゆえだろう。
隣国として気になるのは、今年夏から冷却化している日韓関係への取り組みだ。選挙前の記者会見では「日本は重要な友好国だ」と明言したが、島根県・竹島(韓国名・独島)の領有権や、戦時中の従軍慰安婦への賠償については譲歩する姿勢は見せなかった。
父朴正熙氏は一九六五年、国内の強い反対を押し切り日韓国交正常化を果たした。植民地支配の個人賠償を求めず、日本からの五億ドルの請求権資金を活用し経済発展の基礎を築いた。
歴史の清算を求めず民主化運動を弾圧したと批判もされるが、強い権力を持つ政府が国造りを主導する「開発独裁」型発展のモデルになった。
父の姿を見て政治家を志した朴氏は、隣人同士である日韓関係の大切さを十分に理解している人だと思う。一方、次期首相に就任する安倍晋三自民党総裁は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ、歴史認識や教育で日本の価値観を強く打ち出す。
両国は歴史をめぐる論争を繰り返しながら、経済や文化交流で成果を積み上げてきた。二人は面識がある。今後、首脳会談で再会するときには、率直に意見を述べ合い、協力をさらに深める道を確かめてほしい。
核開発と長距離弾道ミサイル開発を続ける北朝鮮への対応でも、連携すべきことは多い。
◆アジアの先例にしたい
当初は女性大統領の誕生を願う熱気はあまりなかった。朴氏は欧米の政治家とは異なり、ジェンダー(社会的な性差)の壁を乗り越え女性の権利向上に尽くした人ではないと、みられているからだ。
それでも韓国では今後、政界だけでなく各分野で女性の活躍が広がっていくだろう。日本をはじめアジアの国々でも、朴氏の活動する姿が女性の社会参加を促すきっかけになればと願う。
http://mainichi.jp/opinion/news/20121220k0000m070088000c.htmlより、
社説:朴槿恵氏当選 日韓関係改善の機会に
毎日新聞 2012年12月20日 02時33分
韓国大統領選挙は与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)候補が当選した。保守陣営からの政権奪還を期した最大野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)候補は、若い世代の支持が多い無所属候補の出馬辞退と支援に乗って互角の形勢に持ち込んだが、及ばなかった。
国際社会の関心は「韓国初の女性大統領」に集まっている。男尊女卑という因習の退潮や少子高齢化など共通の流れに乗っている日韓は、ともに女性の役割拡大が不可欠な状況だ。朴槿恵氏の存在感が両国の女性たちの活躍を後押ししてくれるなら大いに慶賀すべきことである。
一方、日韓関係には不安な側面もある。友好的に見えた李明博(イ・ミョンバク)大統領が任期末になって日本との領有権紛争が続く竹島に突然上陸し、歴史問題で天皇陛下の謝罪に言及するなど対立をあおる形になった。
もちろん不適切な言動だったが、根本的な問題は李大統領個人というより、摩擦に関する日韓の認識のギャップが解消されず、わだかまりが残り続けている点にある。
従って解決は容易でないが、双方の政治指導者交代を機に、深刻な衝突を回避する工夫は可能だろう。
朴槿恵氏は今後、大統領当選者として政権運営の準備に入る。事実上大統領同然の影響力を行使し、外国の要人とも会える。来年2月末の大統領就任までの期間を利用して、日本側が関係改善の道筋をつけることができれば上出来だ。日韓関係の仕切り直しに向けた下地を作っておくだけでも大きな意味があろう。機会は活用すべきである。
もっとも朴槿恵氏にはかつて日本との国交正常化をテコに高度経済成長を実現した父、朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領のような権力はない。小差だった今回の選挙結果から「国民和合」は読み取れないし、近年の韓国世論は一方的な対日非難に傾く例が目立つ。経済的には日本より中国との関係が深まり、日本重視の雰囲気は弱まりつつある。つまり朴槿恵氏にとって対日配慮は安全なカードではない。
しかし日本を取り巻く安保環境は尖閣問題で揺らいでいる。北朝鮮指導部も事実上の長距離弾道ミサイル発射実験の成功を誇り、穏健路線を選ぶ気配はない。言うまでもなく日米韓が結束を固めるべき状況だ。
日本もこの際、韓国との関係改善に努めねばならないが、韓国も不毛な摩擦を繰り返さないですむように対処してほしい。結局それが韓国の利益にもなることを、朴槿恵氏なら理解してくれるのではないか。
安保を含む重層的な関係の中で、日韓両国には共存共栄を目指して冷静な競争を続ける以外の選択肢はないだろう。人的交流と相互認識の高まり、そして希望の共鳴を願う。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121214/kor12121403160002-n1.htmより、
産経新聞【主張】韓国大統領選 国際常識持った指導者を
2012.12.14 03:15 (1/2ページ)
韓国の大統領選挙が19日に迫った。その結果は今後の東アジア情勢や日韓関係にかなり影響を与えることが予想される。地域の平和、安定、発展のため日本として関心を持たざるを得ない。
世論調査では与党セヌリ党の朴槿恵候補支持が野党、民主統合党の文在寅候補をわずかに上回っている。だが、長距離ミサイル発射後の北朝鮮情勢を含め、最終局面で何らかの変動も考えられ、結果は予断を許さない。
両候補を比較した場合、親北朝鮮的で左翼勢力の影響が強かった盧武鉉前政権を受け継ぐ文候補より、故朴正煕大統領の長女で保守勢力をバックにした朴候補が指導者としては安定的にみえる。とくに対北朝鮮姿勢や外交における日米韓協力体制の維持という意味では、朴候補の方が安心できる。
今の韓国は昔の韓国とは違う。国内総生産(GDP)で世界15位(昨年)に位置し、貿易額は2年連続で1兆ドルを超える。文化やスポーツをはじめ各分野で国際的に注目される国になっている。
韓国を訪れた外国人観光客は今年、1千万人を突破した。家電製品や五輪の金メダル数をはじめ、日本を上回る分野も少なくない。韓国は今や、「援助される国から援助する国になった」ことを内外に誇っている。
韓国と、その指導者にこれから必要なのは国際感覚だ。「世界の中の韓国」の新しい指導者には、国際社会を安心させる予測可能な政治・外交を期待したい。民生を差し置き、ひたすら核とミサイルに執着する北朝鮮の金正恩体制にどう対処するのか。これまで以上に賢明な判断が求められる。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121214/kor12121403160002-n2.htmより、
2012.12.14 03:15 (2/2ページ)
新しい指導者の下、韓国社会にも国際的基準に沿った発想が必要だ。例えば、国際慣例を無視してソウルの日本大使館前に設置された無許可の反日・慰安婦記念像や、ロンドン五輪でのサッカー選手の反日宣伝など、韓国世論はその国際マナー違反をきちんとたしなめるべきだろう。
次期大統領にとり、李明博政権下で最悪となった日韓関係の再構築は大きな課題だ。朴候補は「過去の問題はあるが未来が重要」と言い、文候補は「未来のためにはまず過去清算」と言っている。
新しい日韓関係に相変わらず「未来より過去」と言うのは困る。国際社会とともに歩む指導者をぜひ選んでほしい。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012112902000128.htmlより、
東京新聞【社説】韓国大統領選 「対日強硬」は変わるか
2012年11月29日
韓国大統領選がスタートした。島根県・竹島(韓国名・独島)領有権をめぐる対立などで日韓関係は冷え込んでいるが、次の大統領はどう立て直すつもりなのか、隣国の選挙戦も注視したい。
李明博大統領が八月に竹島に突然上陸し領土論争に火がついた。日本が解決済みとみなす従軍慰安婦問題でも、韓国側は女性に対する人権侵害だと、日本政府による謝罪と補償を求める。
日韓関係は冷却したまま小康状態にある。外相や財務相の会談など政府間対話は続き、自治体や民間の交流も徐々に回復している。韓国では中国のように、過激な反日デモや日本製品の不買運動は起きていない。
大統領選の主な争点は経済政策と格差是正など内政だが、底流には戦後の日韓関係をどう位置付け、評価するのかという韓国内の「歴史論争」がある。
韓国は一九六五年、日本と国交正常化をし、有償、無償計五億ドルの請求権資金を道路やダム、製鉄所などインフラ整備に充てた。植民地支配で受けた被害の個人補償は求めず、竹島領有も密約により棚上げした。決断したのは当時の朴正熙大統領。与党セヌリ党、朴槿恵候補の父である。
対抗馬の野党、民主統合党の文在寅候補は保守勢力が経済成長を優先した結果、民主主義、人権向上が遅れたと言う。いま大企業だけが繁栄し貧富の差が拡大するのは、軍事政権が進めた開発独裁の産物であり、朴候補は父の負の遺産を引き継いでいると批判する。
両候補とも竹島の国際司法裁判所(ICJ)提訴を拒否し、慰安婦問題の解決を求めて譲る様子はない。だが、どちらが大統領になるかによって、中長期的な対日外交は異なるとみられる。
文氏は「新しい秩序のもとで関係を築く」と言う。「歴史の見直し」を掲げた盧武鉉前大統領の側近であり、慰安婦問題や教科書記述で妥協する余地は少なそうだ。
朴氏は「日本は重要な友好国だ」と明言している。父の業績を全面否定はできないから、歴史の問題を提起しつつも、日中韓自由貿易協定(FTA)推進など経済協力に力を入れるのではないか。
日韓両国には北朝鮮の核、ミサイルへの対応をはじめ、先端技術開発、さらに少子高齢化や若年層の就職難といった共通の課題がある。未来志向という大きな枠組みの中で、歴史問題を冷静に扱う努力がそれぞれに求められる。