週のはじめに考える 「統合の東欧、分裂の西欧」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012122402000111.htmlより、
東京新聞【社説】週のはじめに考える 統合の東欧 分裂の西欧
2012年12月24日

 ユーロ危機に明け暮れ、ノーベル平和賞で幕を閉じる、欧州にとってはまさに激動の一年でした。立ち直りのきっかけはつかめたのでしょうか。
 毎年この季節になると思い起こされる東欧の情景があります。
 一九八九年のクリスマス。一面雪のルーマニア首都ブカレストです。ベルリンの壁崩壊を含み、東欧諸国に吹き荒れたドミノ現象のような共産体制崩壊の末に起きたチャウシェスク大統領の処刑劇は、半世紀近くに及んだ東西冷戦体制の終焉(しゅうえん)を私たちの脳裏に深く刻み込みました。

◆ユーロ危機は終わるか
 共産体制の桎梏(しっこく)を解かれた東欧諸国の歩みは、急進的な市場経済化、民族紛争の嵐、対テロ戦争と続く激動のなか、決して平坦(へいたん)な道ではありませんでしたが、二十年余りの間に、欧州回帰という大きな成果をもたらしました。
 ユーゴスラビア紛争に揺れたバルカン諸国でも、ボスニアやコソボ一部地域で独立後なお緊張が続くものの、欧州連合(EU)という大きな統合プロセスの中で共存を模索する体制が定着しました。
 統一後のドイツでは、メルケル首相、ガウク連邦大統領がともに政治的に旧東独出身であることは、もはや格別のことでもない限り話題にもなりません。
 東欧が推し進めてきた「欧州統合」の流れに対して、これを迎え入れた西欧諸国の間に「欧州分裂」の兆しともいえる現象が相次いでいるのは、皮肉としか言いようがありません。
 国際社会を揺さぶったギリシャのEU離脱懸念は当面遠ざかったかに見えますが、根本的な解決は先送りされているのが実情です。
 フェアホイゲン元EU拡大委員は十月の来日時の記者会見で「危機はほどなく過去のものとなる」との見通しを示しました。

◆英EU離脱論への警告
 金融危機の真の原因は欧米の金融機関の無責任な振る舞いにあった。EUが合意した欧州安定メカニズム(ESM)、そして銀行同盟に至るユーロ救済策が実現した支援規模には十分な対応能力がある、というのです。
 しかし、今後いずれかの時点で直面しなければならないリスボン条約の改正問題は回避されたままです。緊縮財政に軋(きし)むギリシャ国民の生活現場、流動化するイタリアの政治動向など、懸念材料にも事欠きません。さらに、今後深刻化しそうなのが英国をめぐる脱EU論議です。
 ユーロ救済策として独仏主導で合意された財政条約に「主権維持」の立場から英国が参加拒否したのは、ちょうど一年前でした。以来、英国とEUの関係は急激に冷却化。保守党内の対EU強硬路線に押され、キャメロン首相はEU脱退の是非を問う国民投票の実施も迫られる情勢です。
 「EU脱退は英国の政治的な衰退、経済的打撃を招き、真の長期的国益を甚だしく損なう」。先月、ブレア元英首相が王立国際問題研究所で行った演説は、脱退論が現実味を帯びつつあることを物語っています。
 「平和や不戦の理念を思い浮かべがちなEUだが、発足後六十年以上、存在意義は変わった」とブレア氏は言います。「中国、インドなど、英国の二十倍の人口を持つような国を相手に国益を守っていかなくてはならない。英国の力を梃子(てこ)で大きくするには、EUという重石(おもし)が欠かせない。理想主義とはなんの関係もない。支配力が問われる政治的現実論なのだ」
 最大の同盟国である米国の軸足がアジアに移るなか、欧州における英国の役割低下が起きかねない事情も影響しているでしょう。
 鍵を握るのはやはりドイツです。来年予定される総選挙を前に今月初め開かれたキリスト教民主同盟(CDU)の党大会。98%という圧倒的支持を得て党首に七選されたメルケル首相は、選出後の演説で「この政権は統一後最も成功した政権」と自負を示し、「金融危機終結に特効薬はない。時間はかかるが、危機を脱出したユーロはより強くなっているだろう」との持論を繰り返しました。

◆社会市場経済のモデル
 メルケル首相が頻繁に引用する言葉に「経済は人間性への奉仕者であるべきだ」という、戦後一貫する社会市場経済の哲学を象徴するフレーズがあります。金融危機に繋(つな)がった金融至上主義的な考え方とは一線を画そうとする欧州ドイツ型モデルの一端がここにあります。米国型に近い英国型モデルとともに、今後欧州の進むべき選択肢の大きな柱となるでしょう。
 分裂と統合の交錯は欧州の宿命ともいえます。収拾のきっかけは、統合を進めない限り、グローバル社会に埋没してしまいかねない危機感を欧州全体が共有できた時に来るのかもしれません。

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