「人質司法」 虚偽自白の温床なくせ

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012122502000134.htmlより、
東京新聞【社説】新しい刑事司法 冤罪防止を最優先に
2012年12月25日

 法制審議会の特別部会は、新時代の刑事司法制度について、年明けから中間取りまとめに入る。取り調べの可視化や全面的な証拠開示などは必須である。冤罪(えんざい)防止の観点を最優先に考えるべきだ。
 「再審無罪」が相次いで起きているのは、現在の刑事司法制度が深刻な“病根”を抱えているからに他ならない。
 二〇一〇年の足利事件、一一年の布川事件、今年の東京電力の女性社員殺害事件…。三年連続で無期懲役が確定した人が、やり直しの裁判で「無罪」となった。
 現代社会で冤罪事件がなくならないのは、重大事態だ。
 “病根”の在りかは、再審裁判の過程などではっきりしている。長時間にわたる密室の取り調べで、捜査員が自白を強要したり、自白をしない限り、身柄を拘束し続ける「人質司法」の捜査手法がまかり通っているからだ。
 裁判で検察側が被告に有利な証拠を隠したりする、現行の証拠開示の在り方にも大きな問題が潜む。とくに布川事件や東電女性殺害事件で、それがはっきりした。
 後者の場合は、被害者の体内に残っていた精液や爪にあった付着物をDNA型鑑定したところ、被告とは別人のものだと判明した。検察は裁判所に促されても「鑑定書はない」などと不誠実な姿勢だったのは非難に値する。
 税金を使って、大勢の捜査員を動員し、集めた膨大な証拠は、すべて開示すべきである。全証拠リストも必要で、弁護側はそれを手掛かりに、無罪を訴える被告に有利な証拠を発見しやすくなる。
 取り調べの全面的な録画録音(可視化)は、待ったなしに導入すべきである。しかも、逮捕時からの録画ではなくて、任意で取り調べている段階からの可視化が必要だ。捜査員が自白を強いるのは、任意段階にも起きるからだ。
 四人が誤認逮捕されたパソコンの遠隔操作事件では、警察庁などが「自白の誘導や強要はなかった」とする検証結果を公表した。だが、誤認逮捕された少年は「否認したら、少年院に入ると言われた」などと説明したという。こうした水掛け論にしないためにも、可視化は不可欠なのだ。
 米国の刑事裁判は、一審が無罪なら検察官は上訴できない。「疑わしきは被告人の利益に」の大原則を徹底するためにも、日本でも導入の可否を真剣に検討してはどうか。「新時代」の名にふさわしい大胆な改革を求める。

http://mainichi.jp/opinion/news/20121225k0000m070089000c.htmlより、
社説:誤認逮捕検証 捜査の基本に立ち返れ
毎日新聞 2012年12月25日 02時30分

 遠隔操作されたパソコン(PC)による犯罪予告で男性4人が誤認逮捕された問題で、警視庁、大阪府警、神奈川・三重両県警が捜査についての検証結果を公表した。
 大阪や三重のケースでは、男性らは一貫して容疑を否認した。だが、神奈川県警が逮捕した大学生の少年(19)は、当初否認していたものの途中で容疑を認め動機も具体的に供述していた。なぜ、やってもいないのに自白したのか。取り調べで強制や誘導があったのではないか。
 同県警の検証は、そうした疑問に答えていない。少年は県警の聞き取りに対し「否認をしていたら『院(少年院)』に入ることになるぞ」「検察官送致になると裁判になり、大勢が見に来る。実名報道されてしまう」「自分で無罪を証明してみろ」などと言われたと話した。事実ならば誤った前提で少年をおびえさせた不当な取り調べだ。「無罪証明」の要求に至っては、検察など捜査側に有罪立証の責任を課した刑事司法のルールに真っ向から反する。
 だが、取調官は発言を否定した。検証は両者の言い分を併記し、結論として一部に「不適切」な取り調べがあったとしただけだ。どちらの主張に信ぴょう性があるのか突っ込んで検討した跡は見えず、内部検証の限界と指摘せざるを得ない。
 警察庁は4都府県警の検証を踏まえ、遠隔操作の可能性に対する認識不足を反省点としてまず挙げ、サイバー犯罪への知識底上げなどを全国に通達した。それ自体は当然だ。
 ただし、4人の誤認逮捕から得られる最大の教訓は別にある。「自白」を得るだけでなく供述の信用性を吟味し、特に供述が揺れ動く場合は捜査側にとってマイナスの材料も含め裏付け捜査を尽くすことだ。サイバー犯罪以外にも共通するいわば捜査の基本である。過去の冤罪(えんざい)事件などでも指摘されたこうした教訓が生かされなかった事実は極めて重い。
 また、捜査は任意が原則だが4人全員が逮捕された。事件認知から逮捕まで1カ月近くを費やした大阪府警以外は、数日しかかけていない。
 一般人が逮捕され職場や学校に知られれば、それだけで居場所を失うおそれがあるのが現実だ。検証は「逮捕時における検討不足」を反省点として掲げたが、身体を拘束する強い権限を行使しているとの自覚が伝わってこないのは残念だ。
 再発防止を警察の反省だけには任せられない。法制審議会では、身体不拘束を法律で明文規定したり、取り調べの可視化(録音・録画)を今回のような裁判員裁判の対象でない事件にも広げたりすべきだとの意見も出されている。事件を教訓に、法制度の仕組みも議論すべきだ。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012102702000132.htmlより、
東京新聞【社説】「人質司法」 虚偽自白の温床なくせ
2012年10月27日

 自白をしないと身柄拘束を続ける捜査手法は、法曹界で「人質司法」と呼ばれる。パソコンの遠隔操作による誤認逮捕事件でも、この疑惑が浮かんだ。拘置や保釈制度は早く改善されるべきだ。
 パソコンで小学校の襲撃予告を書き込んだ差出人は「鬼殺銃蔵」だった。逮捕された大学生の少年は、「鬼殺は日本酒名で、銃蔵は不吉な数字の十三から」「楽しそうな小学生を見て、脅かしてやろうと思った」との趣旨の上申書を書いた。
 犯人でもないのに、どうして、迫真の内容になったのか。捜査官による自白の誘導があったとしか思えない。
 検察は保護観察処分の取り消しを家庭裁判所に要請したものの、自白の経緯の検証結果は、少年事件であることを理由に公表しないとしてきた。少年のプライバシーは保護されるのは当然として、焦点は捜査当局の過ちである。検証結果はむしろ公表されるべきだ。
 とくに捜査官に「認めないと少年院に行く」「否認すると(拘束期間が)長くなる」と言われたと伝えられる。捜査当局は否定するが、もし事実ならば、まさに「人質司法」そのものではないか。
 初公判前の保釈率は、否認のケースは自白のケースと比べて半分ほどだといわれる。重大事件でなくても、数カ月以上、保釈されないこともある。
 大阪地検の郵便不正事件に巻き込まれた厚生労働省の村木厚子さんは、無実であるのに、百六十日以上も拘置された。部下だった係長は罪を認めたため、起訴後にすぐに保釈されたのと対照的だ。
 否認すれば、長く拘置される実態は、被疑者・被告人の自由と引き換えに、虚偽の自白を生む温床となる。無実の人はその間に仕事を失うなど、社会生活上でさまざまな深刻な打撃をこうむる。
 そもそも、無罪推定を受けているのだから、自分の無実を証明するため、速やかに保釈されるのが基本でないだろうか。裁判所が拘置すべきかどうか、きちんと判断しているのか極めて疑わしい。
 日弁連では拘置の代替手段として、「住居等制限命令制度」の創設を提案している。逃亡や証拠隠滅を防ぐため、住居の特定や事件関係者との接触禁止などを裁判所が命令する仕組みだ。
 法制審議会の特別部会で、新しい刑事司法について議論されている。冤罪(えんざい)が絶えない現状を考えれば、この新制度も真剣に検討する時期に来ている。

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