改憲発議要件の緩和を先行すべきではない 小林節氏
http://www.nnn.co.jp/rondan/ryoudan/index.htmlより、
一刀両断 -小林 節-
改憲発議要件の緩和を先行すべきではない
日本海新聞 2012/12/25の紙面より
私自身は改憲論者である。大学の教壇に立って30年以上、憲法改正を主張して来た。
そういう意味では、改憲を党是とする自民党が政権を奪還し、その他の党でも改憲勢力が議席を増やしたことを私個人はうれしく思っている。
しかし同時に、今、党派を超えて改憲派が、改憲手続きを定めた96条をまず改正して、改憲の手続き「条件」を緩和しようという主張を強めていることには、私は反対である。
憲法とは、国民大衆(主権者)が国家権力者(政治家と公務員)に託した権力を乱用させないために課した制約で、それによって国民大衆の人権を護(まも)るための法である。だからこそ、憲法は最高法であるとされ、権力者によって簡単には改正されないように、一般に、改憲の条件は法律改正の条件よりも厳しく設定されているものである。
現行憲法上、法律は、3分の1以上の議員が出席した議会で2分の1以上の多数により改正できる。それに比して、憲法は、各院それぞれの定数(現員)の3分の2以上で改正を発議できて、その上で、国民投票で投票数の2分の1以上の多数により改正される。
現行憲法の9条は、「戦争」を放棄し「戦力」を禁止している。にもかかわらず、わが国は、現実に、法律と予算に裏付けられて、自衛「戦争」を想定した自衛「戦力」を保持している。これは、違憲だと主張する人にとっては説明は簡単だが、合憲だと主張する人にとっては困難が伴う。だから、世界史の現実が自衛隊を必要とすると考える多数派は改憲を追求することになる。しかし、現実には、衆参各院の3分の2以上の賛成が得られず、これまで改憲運動は頓挫してきた。
そこで、多数派は、「憲法を守って国が滅んでは困る」と改憲の障害になっている条件の緩和を追求し始めた。
しかし、現実に、何をどう改正するかが語られずに、改正手続きの緩和だけが提案された場合に、それは、時の権力者が主権者国民に対して憲法改正のフリーハンド(白紙委任)を求めることに等しい。そして、そのような提案に国民の過半数が納得するとは思えないし、それは、そもそも憲法の憲法(最高法)たるゆえんを否定することになってしまう。
だから、改憲論者は、国民を説得する苦労から逃げてはならず、そのためにも、何よりも具体的で「説得力」のある改憲案を提示することが肝要である。
(慶大教授・弁護士)