エジプト新憲法 「国造りに国民の参加を」
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit2より、
朝日新聞 社説 2012年12月28日(金)付
エジプト新憲法―国造りに国民の参加を
エジプトの新憲法が国民投票で承認された。強権体制の崩壊を受けて始まった政治プロセスの重要な一歩である。新しい国造りにつなげて欲しい。
しかし、イスラム派の与党と世俗・リベラル派の野党との間では、新憲法をめぐって対立が激化した。ムルシ大統領が、国民投票前に大統領権限の強化を発表したことで、混乱はさらに深まった。
こうした政治の分裂には、不安を抱かざるをえない。
新憲法はイスラム勢力が多数を占める委員会によって起草された。イスラムの理念に基づく家族の尊重や孤児・貧困者などの弱者救済、社会連帯を国造りに組み込んでいる。警察権限の制限や、大統領任期を最長2期8年にするなど、旧政権の独裁の反省も盛り込まれた。
一方で、「預言者への中傷を禁じる」という宗教的な条項もある。言論の自由や少数派キリスト教徒の権利の抑圧につながりかねない懸念もある。
なにより気になるのは、投票率が33%と低かったことだ。3分の2が賛成したが、全有権者の2割にすぎない。
これではイスラム派が支持する新憲法が、広く国民に受け入れられたとは言えない。同時に、反対派の主張も有権者に広がらなかった。
国民の関心の薄さは、新憲法案の起草から国民投票までの期間が短かったことも原因だ。与党も反対派も、新憲法について国民の間に議論を広げるような働きかけは不十分だった。
旧ムバラク政権時代から続く問題でもある。大統領と与党の取り巻きだけで政治を行い、野党を弾圧した。一般の国民は政治の外に置かれていた。
2年前に革命で強権体制が倒れた後も、各政党や政治勢力は、それぞれの支持者をデモや集会に動員して、力を誇示する手法が続く。
テレビが連日、双方の激しいデモの様子を伝えても、国民の多くは政治の動きを自分たちとは遠いものと考え、投票にも参加しない。
今後、新憲法に従って、上下両院の選挙が実施される。国民が政治に参加する重要な機会だ。イスラム派と世俗・リベラル派の対立が深まるだけでは不毛である。
各政治勢力は、新憲法に基づく国のあり方について、国民的な議論を広げて欲しい。国民に選挙への参加を促し、政治の主役としての自覚を育てる。そうすることではじめて、言論の自由を守る意識も含め、民主主義は国民のものとなる。