近聞遠見:キャッチフレーズこそ 岩見隆夫氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130105ddm004070003000c.htmlより、
近聞遠見:キャッチフレーズこそ
毎日新聞 2013年01月05日 東京朝刊

 年初、何が気になるかと問われれば、安倍新政権のキャッチフレーズである。短い言葉に、新リーダーの決意が凝縮されるからだ。

 まず、歴史のひとコマから。1939(昭和14)年、ヒトラー独首相との宥和(ゆうわ)政策を進めるチェンバレン英首相に対し、野党を代表するアーサー・グリーンウッド議員の議会質問がさえない。この時、与党の保守党席から、

 「アーサー、スピーク・フォー・イングランド(英国のために語れ)」

 と声が飛んだ。グリーンウッドは声援に触発され、対独開戦を政府に迫る歴史的な名演説を行った−−。

 安倍晋三首相は、この話を引き合いに、

 <初当選して以来、わたしは常に「闘う政治家」でありたいと願っている。それはやみくもに闘うことではない。「スピーク・フォー・ジャパン」という国民の声に耳をすますことなのだ>

 と訴えた。6年半前、第1次組閣前に著した「美しい国へ」(文春新書)のなかだ。

 言やよし、である。だが、何をどう闘うか。それを簡潔に国民に伝え、同意を求めるのがキャッチフレーズと言っていい。

 今回、安倍が自民党総裁に選ばれたころからの発言量は相当のボリュームだ。しかし、内外政策が各論的に語られても、トータルとしてこれでいく、という安倍政治の神髄が伝わってこない。

 月刊誌「文芸春秋」1月号に発表した政権構想には<新しい国へ>の表題がついているが、パンチに欠ける。美しい、新しい、は淡泊な形容詞で、何かを力強く感じ取るのは難しい。

 先輩はどうしたか。30年前の82年11月、中曽根康弘は首相に就任すると、翌83年早々、韓国ついで米国を訪問、<不沈空母>発言で意表をつき、初の施政方針演説で<戦後政治の総決算>を提唱した。歴代のキャッチフレーズのなかで、もっとも点数が高い。

 <総決算>が効いていた。説明がなくても、決意とスケールが伝わる。中曽根はのちに回顧録のなかで、何を決算しようとしたかについて、

 「三つの部分からなる」

 と語った。一つは安全保障面における吉田(茂)方式の是正、二つは行政改革による高度成長肥大化の削減、三つが教育の大改革だった、と。

 中曽根から18代あとの第2次安倍政権、論客たちの評価は両極化しつつある。辛辣(しんらつ)な発言で定評のある浜矩子同志社大教授が、

 「浦島太郎政権。50〜60年前の体質、ものの言い方だ」(NHK<日曜討論>)

 と酷評すれば、野田佳彦前首相の後見役だった藤井裕久元財務相は、

 「安倍氏の誤りは二つ、経済のインフレ政策と日本至上主義の国家観にある。どちらも日本をつぶす、戦争への道を歩んでいると思う」(毎日新聞<論点>)

 と切り捨てる。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130105ddm004070003000c2.htmlより、
一方、「岸信介証言録」の著書もある原彬久(よしひさ)東京国際大名誉教授は、

 「安倍氏がイデオロギー色を排してスケールの大きな現実直視の合理主義者になれるかどうかが鍵」(同)

 と激励調。谷内正太郎元外務事務次官(外交担当内閣官房参与)は、

 「座標軸が非常にしっかりしている。ぶれない、という意味で信念の政治家だ」(同)

 と高く買う。

 ここは、今月末の初の施政方針演説で、<闘う政治家>がどんなフレーズを語るか、注目することにしよう。

 一部メディアでは、安倍による<右傾化>の批判が目立つが、気にすることはない、と私は思う。右・左、タカ・ハトの仕分けで、国益を論じる時代はとっくに過ぎているからだ。リベラルについて、安倍は、

 「これほど意味が理解されずに使われている言葉もない」

 と敵意をみせているが、そう力むこともない。リベラル派を称する人たちとも、胸襟をひらいたほうがいい。

 本をめくる暇があったら、93歳の大先輩、園田天光光元衆院議員の新著「へこたれない心」(学研パブリッシング)でも目を通したらどうだろう。園田は46年、戦後初の衆院選に餓死防衛同盟を結成して出馬、当選した女傑だ。のちに厚相、外相を務める園田直と結婚、<白亜の恋>と騒がれた。

 いままた、物心両面の餓死状態が迫っているとも言える。

 <何事にもへこたれないでいると、大難を小難に変えることができる。それにはいくつかのコツがある>

 と園田は書く。大難を避けることこそ政治の要諦、参考になるかもしれない。(敬称略)=第1土曜日掲載

岩見隆夫ホームページ http://mainichi.jp/opinion/column/iwami/

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