木語:護憲が危険思想の国 金子秀敏氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130110ddm003070090000c.htmlより、
木語:護憲が危険思想の国=金子秀敏
毎日新聞 2013年01月10日 東京朝刊

 <moku−go>

 新年早々、中国で言論弾圧が起きた。共産党の言論封殺は珍しくないが、今回は党内抗争のにおいがする。ひょっとすると天安門事件のような事件になるかもしれない。

 香港メディアは、言論弾圧の黒幕は党中央にいると書いている。政治局常務委員の一人で、党中央書記局を握る劉雲山(りゅううんざん)・常務書記(副総書記に相当)のことだろう。前は中央宣伝部長だった。党宣伝部は言論や思想の統制が仕事だ。

 狙い撃ちされたのは、有力な改革派メディアの「南方週末(なんぽうしゅうまつ)」紙(広東)と「炎黄春秋(えんこうしゅんじゅう)」誌(北京)だ。

 「南方」は1月4日紙面に「中国の夢、憲政の夢」という新年社説を用意した。「炎黄」も「憲法は政治体制改革の共通認識」という新年のメッセージをホームページにのせようとした。どちらも「憲政」「護憲」による穏健な改革論である。

 だが広東省の党宣伝部長が「南方」紙に介入し、「憲政の夢」を「中華民族の偉大な復興の夢」という文章に書き直した。政府のネット管理当局は「炎黄」の文章がネットで流れる直前にホームページを削除した。

 中国の保守派は「中華人民共和国憲法」が嫌いであることがよくわかる。なぜなら、憲法33条は「国家は人権を尊重し保障する」、37条は「公民の人身の自由は侵犯を受けず」としている。憲法を守ったら共産党独裁の統治は成り立たない。共産党の指導部が「共和国」を好まず、古代帝国的な「中華」が好きなのは、憲法の制約がないからだ。

 憲法を改正して基本的人権を実現しようとしたノーベル平和賞受賞者の劉暁波(りゅうぎょうは)氏は危険な思想家と見なされ、いまも獄中にある。

 穏健改革派は、現行憲法の枠内の人権実現を求めている。「炎黄」を拠点に論陣を張り、去年の暮れに「改革の共通認識フォーラム」を開いて護憲による人権擁護のアピールを出した。「南方」「炎黄」の動きはその影響だ。

 その程度の動きに、なぜ保守派はむきになるのか。習近平(しゅうきんぺい)総書記が昨年11月、広東省を歴訪したからだ。総書記就任直後、トウ小平(とうしょうへい)氏が1992年に歩いた「南巡」の道をたどった。南巡は、当時の江沢民総書記ら保守派を批判し改革を推進するためだった。

 習氏の新南巡を追い風と見た在野の改革派が憲政擁護に立ち上がった。反対に党内の保守派は思想統制強化に乗り出した。今回の改革派メディアに対する弾圧の裏に、改革開放路線に傾いた習総書記に反対する劉氏の意向があるとすれば、事件の根は深い。(専門編集委員)

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