記者の目:サハリン残留者帰国事業 明珍美紀氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130111k0000m070121000c.htmlより、
記者の目:サハリン残留者帰国事業=明珍美紀
毎日新聞 2013年01月11日 00時20分

 敗戦後、ロシア・サハリン(樺太)に残された日本人の帰国事業が一つの区切りを迎える。事業を担ってきたNPO法人「日本サハリン同胞交流協会」(東京)が、役員の高齢化などを理由に3月、活動を終えるためだ。だが、永住帰国者が直面している2世、3世の就労、教育問題などは解決しておらず、国の手厚い支援が必要だ。

 ◇帰国者に手厚い支援策を
 「日本はどこへ行ってもハラショー」。東京の羽田空港の出発ロビー。昨年9月にあった交流協会による最後の集団一時帰国事業(第44次)で、最高齢の斉藤ミヨさん(85)は目頭を押さえた。「ハラショー」はロシア語で「素晴らしい」の意味だ。付き添いを含めた一行45人は各地に住む親類や知人と会い、東京見物をしたり、温泉地に足を延ばしたり。それぞれ母国の風景を胸に焼き付けて北海道の稚内から船で戻って行った。

 ◇89年に会結成し国費負担を実現
 サハリン残留日本人の帰国運動は、会長の小川岟一(よういち)さん(81)や副会長の笹原茂さん(74)ら旧樺太出身者らが89年末に「樺太同胞一時帰国促進の会」(交流協会の前身)を結成して始まった。それまで交流ツアーなどでサハリンを訪れ、相当数の日本人が住んでいることを確認していた。
 「里帰りを実現させたい」と小川さんは肉親捜しや煩雑な書類手続きを一手に引き受けた。国に働きかけて中国残留孤児と同じく、往復旅費は国費負担(後に滞在費も)となった。全国から支援のカンパが寄せられ、集団一時帰国事業は90年5月にスタートし、第1陣12人が祖国の土を踏んだ。翌月下旬から、国による初の現地調査も実施された。それを機に名乗り出た日本人は400人を超えた。
 私は駆け出し時代に第1陣を取材してサハリンの問題と出合った。そのとき気になったのは、里帰りした12人のうち9人が女性だったことだ。
 旧ソ連軍の侵攻で1945年8月15日の終戦後も続いた死闘。ようやく戦争が終わってもすぐに引き揚げとはならなかった。「朝鮮やロシアの人と結婚しなければ自分の家族が食べていけない。そんな事情があったからサハリンに残った人の大半は女性だった」。帰国者の一人はこう打ち明けた。
 サハリンには日本に強制連行され、戦後置き去りになった韓国・朝鮮人が4万人以上いたといわれる。日本政府の支出による韓国への集団一時帰国が始まったのは89年だった。国による「棄民」の歴史が残る島に、望郷の念を募らせる日本の女性たちが数多くいたことに衝撃を受けた。

 ◇2、3世の就労や教育問題が深刻http://mainichi.jp/opinion/news/20130111k0000m070121000c2.htmlより、
 交流協会ではその後、国の委託を受けて、サハリンからシベリアを経てカザフスタンなど旧ソ連各地に送られた人々を含めた一時帰国、永住帰国の支援に着手した。01年からは中国帰国者と同様に国の援護対象になった。交流協会のサポートでこれまで家族を含め約300人が日本への永住を選んだ。いま、浮上しているのが2世、3世の就労や教育の問題だ。
 本人の場合、生活面では年金などが支給されるが2世は対象外。仕事がなければ生活保護を受けることになる。集団一時帰国第1陣のメンバーで、00年に永住帰国した近藤孝子さん(81)=東京都三鷹市=は「ロシア社会で育った者にとって日本語の習得は難しく、就職の道はさらに険しい」と案じる。
 帰国者の9割近くが住む北海道に、中国帰国者支援・交流センター(札幌市)があり、無料で日本語を学ぶことができる。それでも2世のなかには言葉の壁で就職できず、サハリンに戻った人たちがいた。孫の世代となると、教育資金や進路問題が立ちはだかる。「現状では大学に進学した子どもの生活保護は打ち切られることが多い。早くこうした制度を見直してほしい」と小川さんは訴える。
 「このまま支援をやめるわけにはいかない」。交流協会の会員有志が先月、新たなNPO法人「日本サハリン協会」を設立した。理事長を務める元アナウンサーの斎藤弘美さん(56)は「サハリンや旧ソ連各地には100人前後の日本人がいて、故国とのつながりを望んでいる。一時帰国は規模を縮小しても続けていく」と話す。
 戦後68年を迎え、戦争に人生を翻弄(ほんろう)された人々への関心は薄まっている。だが、彼らとその子孫が安心して暮らすための聞き取り調査や支援の充実が求められる。問題の深刻さを知る当事者が残る今でなければ解決は困難だろう。
 昨年末に誕生した新政権には、積み残された戦後処理の問題があることを十分に認識してほしい。(水と緑の地球環境本部)

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