時代の風:第2次安倍内閣に望む 中西寛氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130113ddm002070100000c.htmlより、
時代の風:第2次安倍内閣に望む=京都大教授・中西寛
毎日新聞 2013年01月13日 東京朝刊

 ◇果断さと慎重な判断を−−中西寛(ひろし)
 昨年末の衆院総選挙において自民党が大勝し、自公連立による第2次安倍晋三内閣の発足をみて新年を迎えることになった。この点では、早期の解散を表明した野田佳彦前首相の英断を評価したい。民主党にとっては越年しての解散の方が有利であったかもしれないが、あえて年内解散に踏み切ったことで政治的混迷を長引かせず、国民が新たな気持ちで新年を迎え、予算編成も新政権下で行えるタイミングに間に合わせた。

 巷間(こうかん)言われるように今回の選挙結果は、熱狂なき地滑りであった。比例投票での自公両党の得票率は大敗した前回とほぼ変わらず、低投票率であったことも考えれば現政権への強い支持があったとは言えない。そもそも安倍氏が自民党総裁に返り咲くことも去年の夏ごろは予想されていなかった。税と社会保障の改革に関する自公民3党の合意にもかかわらず、谷垣禎一自民党前総裁(現法相)が参院で他の野党が提出した首相問責決議を支持する不可解な決断を行ったことで総裁選不出馬に追い込まれ、しかも、党員投票で支持を集めた石破茂氏(現自民党幹事長)に対する議員の反感が強かったことが安倍氏復活を可能にしたのである。

 国民に広がった民主党政権への幻滅からすれば、民主敗北、自公の政権復帰は確実だったが、それ以上の自公大勝となったのには、第三極が複数に分裂し、安定した地盤を固めていた自公に有利となったことに加え、安倍氏が日銀へのインフレターゲットの要求や円安政策を掲げ、市場がそれに反応して急速な円安と株上昇をみたことがあったと考えられる。

 安倍新政権は、特に今夏の参院選まではデフレ脱却を政策の中心に据えていく姿勢を示している。景気回復を掲げることにもちろん異論はないし、経済財政諮問会議を復活させるのもよいだろう。そもそも民主党政権が経済財政諮問会議を休眠状態に追い込んだこと自体に正当性がなかった。しかし積極財政、金融緩和、成長戦略という新政権の方針は、かつての自民党政権の経済政策と比べて新味があるものではない。新しいのはアクセルをこれまで以上に踏み込むことである。

 これは評価の難しい選択である。確かに、バブル崩壊以後の経済政策は成長と安定(たとえば財政再建)のバランスをとることを重視し、結果としていずれの目標も十分に実現できなかった。従来にない発想で果断に一方に踏み込んだ政策を採ることが望ましいかもしれない。世界的にみても従来の経済政策への批判が強まっており、かつて異端とみられていた選択肢が検討されている。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130113ddm002070100000c2.htmlより、
 とはいえこれは一つの賭けである。アクセルのかけすぎによってブレーキが利かなくなるかもしれないリスクはある。具体的には国債の大量発行で買い手がなくなり、金利が上昇する可能性や、インフレが制御不能になるリスクである。

 こうしたリスクにちゅうちょすることなく、果断さが試みられるべき時なのかもしれない。しかし賭けをしなければならないにせよ、その実行にあたっては慎重に細部を詰めることは重要である。1930年代の大不況に際して当時としては異端だった拡張的な政策が試みられた時にも、ケインズらによって経済学的な裏づけは準備されていた。60年代に日本が所得倍増政策を実行するまでには、長期にわたって多くの専門家が経済計画を検討して経済全体のバランスを理解していた。最後に決断したのは政治家だが、それなりの熟慮もあったのである。

 この点で、しばしば「参院選まで」というレトリックがなされ、短期的即効性が求められていることが気になる。過去のねじれ国会の経験からして、ねじれ国会が決められない政治につながりやすいことは確かである。しかし野党の分裂状況を考えれば、与党が過半数をもたずとも何とかなる可能性が高い。特に衆院で3分の2の多数を持っており、世論の内閣への支持が一定程度あれば野党も反対を貫くのは困難であろう。むしろ国民にとっての政治的リスクは、参院選後に行われる政策や経済運営、閣僚のスキャンダルなどで政権の支持率が低迷し、与党は選挙に訴えずに強行採決を連発し、野党が不信任や問責決議で抵抗する状況に陥ることであろう。

 また、「再生」のスローガンも安易に聞こえる。円安は全体として製造業の利益になるだろうが、日本経済にしめる製造業の比率は縮小しており、サービス業よりも小さくなっている。生産人口の縮小を考えても、製品輸出大国日本の「再生」はたとえ実現しても長続きしそうにない。

 政権が適切な判断を経て行った決断なら、国民もその帰結を甘受するほかない。しかし目先の利害にとらわれつつ焦って行われる決定はしばしば危うい。新政権が果断さと慎慮を兼ね備えることを期待したい。=毎週日曜日に掲載

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