記者の目:死刑求刑事件 武本光政氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130117k0000m070180000c.htmlより、
記者の目:死刑求刑事件=武本光政
毎日新聞 2013年01月17日 01時53分

 山梨県都留市のキャンプ場で2003年10月に男性3人の遺体が見つかった事件で、このうち2人を殺害したとして殺人罪などに問われた元建設会社社長、阿佐吉広被告(63)の死刑が今月8日付で確定した。04年1月に甲府地裁で開かれた初公判から昨年12月11日の最高裁判決まで約9年。阿佐死刑囚が一貫して殺害への関与を否認する中、裁判所が一定程度慎重に審理を進めた姿勢はうかがえる。それでもなお、私は半世紀以上前に最高裁判事が死刑事件に臨む姿勢を説いた言葉を思い起こさずにはいられない。

 ◇執行されれば生命は戻せない
 「再審の制度も賠償の制度も科学も権力も、一旦死刑に処した生命を生還させることはできないのである。そして人間のなす裁判には過誤なきを期し難い。それ故死刑を言い渡す事件においては、裁判官は可能な限度の慎重な審理を尽くすべきである」

 1949年7月、旧国鉄三鷹駅構内で無人電車が脱線し、6人が死亡した三鷹事件。最高裁大法廷は55年6月、無罪を訴える元国鉄職員を死刑とした高裁判決を支持したが、小谷勝重裁判官はこれに反対し、審理不尽を理由に高裁に差し戻すよう訴えた。裁判官の全員一致が不文律とされる死刑判決で、反対意見が付くのは極めて異例だ。近年、足利事件や布川事件、東電女性社員殺害事件といった重大事件で再審無罪が相次ぐ中、「究極の刑罰」の当否を問う裁判の在り方を考えたい。

 阿佐死刑囚は00年5月、反抗的な態度を取ったとして作業員2人の首を絞めて殺害したと認定された。被害者の体を押さえるなどしたとして、いずれも死刑囚の会社の部下だった元暴力団組長(02年に病死)と元受刑者の男性(56)=懲役9年確定、仮釈放中=が共犯に問われた。これに対し、死刑囚は「殺害現場のキャンプ場には行っていない」と主張。だが、元受刑者▽被害者を車で現場に連れて行った元部下の男性2人(逮捕監禁罪で執行猶予付き有罪確定)▽キャンプ場元管理人の男性(69)−−の4人が1審で「キャンプ場に来た」と証言し、地裁は極刑を言い渡す。

 ◇有罪根拠の証言2審以降に変更
 ところが、2審段階で元管理人が「本当は現場で死刑囚と会っていない。検察側に『会ったことにしてくれ』と言われた」と弁護側に説明し、その調書が東京高裁に提出された。11年12月には、殺害の状況を最も詳細に語っていた元受刑者も「現場に来ていなかった」とする陳述書を最高裁に出した。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130117k0000m070180000c2.htmlより、
 結論として裁判所は「新供述」の信用性を認めず、弁護側の控訴・上告を棄却した。書面より、うそをつけば偽証罪が適用される法廷での証言を重視したのだろう。確かに、元受刑者の新供述には不可解な点がある。検察側が昨年3月に刑務所で事情聴取した際、元受刑者は「警察官や検察官、裁判官に正直に話してきた」との供述調書に署名。一方で昨年7月、弁護側に「キャンプ場で見た事実はない。間違った証言で死刑が確定するのはあってはならないとの思いが大きくなった」との陳述書も送っている。

 私は、刑務所での面会などを通じ、元受刑者には、性格的に相手の話に合わせてしまいやすい一面があるのではないかという印象を抱いた。だからこそ、供述・証言を誘導されたことがなかったか、「密室」ではなく、法廷で裁判官がもう一度確認する選択もあったのではないかと思う。

 刑務所内での言動には当然制約もある。面会室のアクリル板越しに、刑務官を気にして言葉を選んでいた彼の姿を今も覚えている。弁護側との面会でも同様だったという。私への手紙に「(事件についての)話をしたら面会を短縮されるのではないかと思った」とつづったこともある。付け加えると、検察側は面会室とは別の部屋で刑務官の立ち会いなく事情聴取する。

 昨年12月20日に開かれた国連総会で、死刑を存続する国に執行の停止を求める決議が採択された。07年以降4回目で、賛成は過去最多の111カ国。「誤審で執行されれば取り返しがつかない」と決議は指摘した。反対した41カ国の中で先進国は日米両国だけだ。ただ、米国では00年代以降、州政府が殺人事件における取り調べの全面可視化を法制化したり、無罪を訴える死刑囚らにDNAの再鑑定を受ける権利を保障する法律を制定したりして誤判防止に向けた取り組みを進めたという。

 日本が国際的な流れから距離を置き、あくまで死刑制度を存続させるのであれば、まずは、「可能な限度の慎重な審理」を確保するための仕組み作りを急ぐべきだ。

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