安倍首相外遊 「緊張解くアジア外交を」

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年1月19日(土)付
東南アジア歴訪―「価値観」を語るなら

 安倍首相が、就任後初の外遊となる東南アジア歴訪を終えて帰国した。
 アルジェリア人質事件の対応を理由に日程を短縮。東南アジア諸国連合(ASEAN)との友好協力40周年を記念するスピーチも中止になった。
 それでも、東・南シナ海で軍事的圧力を強める中国をめぐる協力関係を築き、成長著しいこの地域の経済活力を取り込むという目的に照らせば、一定の成果はあったといえるだろう。
 だが、首相が掲げる「価値観外交」にふさわしい第一歩になったとは、とてもいえない。
 首相はジャカルタでの記者会見で、ASEAN外交の原則として「自由、民主主義、基本的人権など普遍的価値の定着と拡大に努力していく」と語った。
 ところが、実際の言動はどうか。例えば、最初の訪問国ベトナムは、中国と同じ共産党一党独裁体制が続いている。最近も政府批判のブロガーが相次いで逮捕され、報道の自由も制限されている。
 国際NGOによる言論の自由度調査でも、他のASEAN各国同様、例年下位を低迷する。
 首相は、ベトナム首脳と「戦略的パートナーシップ」をうたい上げたものの、こうした点を改めるよう求めた形跡はない。
 一方、民主党政権を引き継ぐ形でベトナムへの原発輸出の推進を誓った。
 原発事故の検証は道半ばである。新たな原発政策も定まっていない。にもかかわらず、他国への輸出には前のめりだ。
 ベトナム南部で進む原発の導入可能性調査は、日本政府が費用を丸抱えする。日本原電と随意契約したベトナム政府は調査結果を発表しない方針だ。メディアの取材や研究者の現地調査もほとんど認めない。
 透明性からほど遠い原発輸出の推進は「普遍的価値に立脚した外交」といえるのか。
 首相の価値観外交は、中国や北朝鮮への牽制(けんせい)に主眼があるのかもしれない。
 ただ、相手国によって、それを主張したり、しなかったりでは普遍的とはいえない。
 歴訪と前後して、逆に首相自身の「価値観」を問題視する発言が、各国の政府関係者から相次いでいる。
 豪州のカー外相は、慰安婦問題で旧日本軍の強制性を認めた河野談話の見直しについて「近代史で最も暗い出来事の一つであり、見直しは望ましくない」と指摘。米オバマ政権の高官も同様の懸念を示した。
 共有すべき価値観とは何かもまた問われている。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO50757760Z10C13A1EA1000/より、
日経新聞 社説 東南アジアに息長く関与を
2013/1/19付

 日本の外交と経済の立て直しにとって、急成長する東南アジア諸国連合(ASEAN)との協力は欠くことができない柱だ。
 安倍晋三首相が初めての外国訪問として、ベトナムとタイ、インドネシアに足を運んだのも、そんな問題意識があるからだろう。
 これに先立ち、麻生太郎副総理・財務・金融相がミャンマー、岸田文雄外相も東南アジアの国々とオーストラリアを回った。
 日本がこの地域への関与を強めようとする姿勢を、ひとまず発信できたといえよう。肝心なのは長期の戦略を描き、息長く協力を積み重ねていく努力である。
 その際、いちばん大切な共通課題になるのが、台頭する中国への対応だ。中国に責任ある行動を促すため、日本とASEANが連携する意味は大きい。
 ASEANではベトナムやフィリピンなどが南沙諸島の領有権をめぐり、中国と激しく対立している。それ以外の国々にも、中国軍による南シナ海での行動への懸念が広がっている。
 安倍首相は今回の訪問でこうした問題を取りあげ、「国際法に基づく平和解決」を求めていく立場で一致した。
 ASEANとの安全保障の協力は、南シナ海の安定を図るだけでなく、尖閣諸島への中国の攻勢をけん制するのにも役立つ。各国の海上警備力への支援など、具体策を急いでほしい。
 経済面でもASEANとの協力は有望だ。各国はインフラの整備が急務になっており、日本が参画できる余地は大きい。日系企業にとって、ASEANは中国の生産拠点の有力な分散先にもなる。
 安倍首相はタイやベトナムで高速鉄道や発電所などの売り込みに努めた。政府は引き続き、日本企業の進出を後押しすべきだ。
 一方、東南アジアの国々やオーストラリアには日本との歴史問題があることも忘れてはなるまい。安倍首相はそうした感情にも配慮し、未来志向の関係を築いてもらいたい。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013011702000134.htmlより、
東京新聞【社説】東南アジア歴訪 地域にらむ深謀遠慮で
2013年1月17日

 安倍政権の東南アジア重視が鮮明だ。この地域の成長力と地政学的価値は上昇している。平和の海実現にそれらの国との連携は重要だが、対中包囲網とばかり見られては地域の利を損ないかねない。
 安倍晋三首相は、新政権初の外遊として、ベトナム、タイ、インドネシアの三カ国歴訪をスタートさせた。麻生太郎副総理や岸田文雄外相も、最初の訪問国に東南アジア諸国を選んだ。
 政権発足直後に世界の成長センターといわれる東南アジア諸国連合(ASEAN)十カ国のうち七カ国を訪問することになる。
 経済再生を最優先する政権として、足元の友好国をしっかり見つめ直し、交流を活発化させる外交方針を歓迎したい。
 首相が訪問している三カ国およびフィリピンとわが国は、アジア地域で戦略的パートナーシップを結ぶ関係の深い国々だ。
 今年は日本とASEANの友好協力四十周年にあたる。首相自ら足を運び、地域の安定と繁栄のため、戦略的互恵関係を確認することには大きな意義があろう。
 タイには国内政治の混乱があったとはいえ小泉政権以来、十一年ぶりの首相訪問となる。日本が最大の輸出相手国であり、今年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)議長国であるインドネシア訪問も五年半ぶりである。
 三十六年前に、福田赳夫首相は、東南アジア外交で▽日本は軍事大国にならない▽心と心の触れ合う関係をつくる▽対等なパートナーになる-などを柱とする福田ドクトリン(原則)を公表した。
 この精神を貫徹し、長い交流のあるASEANとの関係を深める旅としてほしい。
 対中関係でも、ASEANとの連携が重要で効果的であることに異論はない。ASEANには南シナ海で中国と領土問題を抱える国々がある。
 米オバマ政権は中東からアジア重視の外交にカジを切った。もしも、安倍政権が日本の立場だけから強硬になれば、中国に「対中包囲網」との警戒感を強めさせ、逆に地域全体の未来を損ないかねない。
 中国は昨年秋のASEAN首脳会議で、南シナ海で関係国の活動を法的に拘束する行動規範の策定を先送りした。非建設的な態度であった。平和の海を実現するルール作りに中国が参加するよう、ASEANと手を携えて働きかけていきたい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130117k0000m070181000c.htmlより、
社説:対中国シフト 軍事的対応だけでなく
毎日新聞 2013年01月17日 02時30分

 安全保障政策をめぐり、中国を念頭にした安倍政権の防衛体制強化の姿勢が目立っている。
 来年度当初予算案の概算請求で、防衛省は今年度当初予算(4兆7138億円)より約1000億円の増額を求めた。自衛官定数の充足率を高めて人員の実質増を図るほか、中国が尖閣諸島周辺で活動を活発化させていることに対応して、南西諸島方面の警戒監視能力を向上させる施策が盛り込まれている。
 安倍政権は防衛費増を認める方針で、03年度以来対前年度比でマイナスが続いていた当初予算の防衛費は11年ぶりに増額となりそうだ。
 一方、日米両政府は17日、有事の自衛隊と米軍の協力のあり方を定めた「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」再改定に向けた実務者協議を開始する。実際の再改定には2、3年かかるとみられるが、こちらも中国軍の活動活発化をにらんで日米協力における自衛隊の役割強化が柱の一つになる見通しだ。
 防衛費増額は、厳しい財政事情であるだけに、国民の理解が得られる内容でなければならない。ガイドライン見直しでは、政府が憲法上認められないとしてきた集団的自衛権の行使が絡むことが予想され、慎重な検討が求められる。
 そのうえで、領空侵犯や領海侵入など尖閣問題で挑発行為を強める中国を念頭に、体制を整えることは必要だろう。防衛費増額もガイドライン見直しも、中国や北朝鮮の冒険的行動への抑止となり、毅然(きぜん)とした姿勢を示すメッセージとなる。
 そして、これら軍事的な対応に増して重要なのが外交努力である。その点で、安倍晋三首相の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国歴訪(16〜19日)と、政府の中国との対話促進の取り組みに注目したい。
 毎日新聞は、中国の軍事強化に対応するため、日米同盟を基軸としつつ、アジア諸国との多層的な関係強化を推進するよう主張してきた。今回の首相のベトナム、タイ、インドネシア3カ国訪問がそれに資することを期待する。各国との協調を推進するとともに、その際、中国との対立をことさらあおるような言動を慎む配慮も必要だろう。
 また、安倍首相は、中国との関係改善を目指して、日中友好議員連盟会長の高村正彦・自民党副総裁を特使として派遣することを検討しているという。
 中国は習近平共産党総書記が3月に国家主席に就任し、名実ともに習体制が発足する。新リーダー同士の対話は関係改善の契機となり得る。トップの話し合いによって、尖閣問題が両国関係全体を覆う現状を脱しなければならない。特使派遣をそのきっかけにしてもらいたい。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年1月15日(火)付
首相の初外遊―緊張解くアジア外交を

 安倍外交が今週から、本格的に始動する。
 安倍首相は、ベトナム、タイ、インドネシアの3カ国を就任後初の訪問先に選び、16日から19日まで訪れる。
 訪米が先送りされたため、3カ国を先行させたという事情はある。とはいえ、年明け早々には麻生副総理・財務相、岸田外相も東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々を訪れた。
 一連の訪問は、安倍政権の東南アジア重視の表れといっていいだろう。
 この地域には、各国も強い関心を寄せている。オバマ米大統領は昨年11月、再選後初の外遊で東南アジアを歴訪した。インドは先月、ASEANとの首脳会議を初めてニューデリーで開き、「戦略的協調関係」への格上げをうたった。
 世界の成長センターであるASEANとの関係を強め、自国の経済成長につなげるためである。同時に、この地域で中国の影響力が強まることを牽制(けんせい)する狙いもある。
 ASEANには、南シナ海の領有権問題で中国と争う国々があり、尖閣問題を抱える日本も利害を共有している。
 首相が訪問の目的の一つに安全保障面の協力強化を掲げるのも、海洋の緊張の高まりに手を携えて対処したいという思いからだろう。
 もちろん、台頭する中国と向き合う際、多国間の連携が大切であることは論をまたない。
 ただ、ASEANの各国間でも、中国との距離感には違いがある。日米が「中国包囲網」の構築を図っていると受け取られれば、域内の亀裂を広げることになりかねない。
 首相が、自由や民主主義などを共有する国と連携する「価値観外交」を掲げるのも気がかりだ。敵味方を色分けするのではなく、それぞれの国が置かれた複雑な立場に配慮した丁寧な外交を心がけてほしい。
 日本がなすべきは、経済支援で地域全体の底上げを図るとともに、領有権問題などで国際法に基づく解決を地域の国々とともに唱えていくことだ。
 首相に改めて思い起こして欲しいことがある。
 77年、当時の福田赳夫首相はマニラで「福田ドクトリン」を表明した。日本は軍事大国にならず、真の友人として心と心のふれあいを大切にする。そんな原則をうたい、日本のアジア外交の基調となった。
 福田氏の政治的な流れをくむ安倍首相にも、アジアの緊張を解き、平和と繁栄に貢献する外交姿勢を望む。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130115/plc13011503090005-n1.htmより、
産経新聞【主張】東南アジア外交 自由と繁栄で連携強化を
2013.1.15 03:09 (1/2ページ)

 安倍晋三首相が政権復帰後初の外国訪問として、ベトナム、タイ、インドネシアの東南アジア諸国連合(ASEAN)3カ国を訪れる。
 民主党政権下で迷走した外交を立て直す第一歩として、ASEAN諸国との交流を活発化させ、足場を固めることはとりわけ重い意味を持つ。台頭する中国に対抗するためにも、各国との関係強化に力強いメッセージを発してほしい。
 安倍首相は歴訪を前に「経済のほか、エネルギー、安全保障でも協力を深める。極めて重要な訪問になる」と語った。
 歴代首相のASEAN諸国訪問は近年、東アジア首脳会議など関連会議出席の機会を利用したものに限られた。これで2国間関係を深めるのは容易ではない。
 安倍政権では、麻生太郎財務相がミャンマーを、岸田文雄外相がフィリピン、シンガポール、ブルネイを訪問し、オーストラリアにも足を延ばした。
 政権発足後1カ月以内に首相と主要閣僚が、ASEAN10カ国のうち7カ国を訪問することになる。一連の歴訪が「東南アジア重視」を示すように、戦略意図を明示した外交姿勢といえる。
 第1次安倍内閣では外交方針として、当時の麻生外相が、ユーラシア大陸の外縁に沿う地域を念頭に、自由、民主主義など価値観を共有する国々と連携する「自由と繁栄の弧」の構想を掲げた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130115/plc13011503090005-n2.htmより、
2013.1.15 03:09 (2/2ページ)
 安倍首相の3カ国歴訪は、この構想を踏襲したものといえ、相いれない価値観を持つ中国に対する強い牽制(けんせい)の意味をもつ。
 中国は沖縄県尖閣諸島の力ずくの奪取を狙っている。ASEAN諸国のうちフィリピン、ベトナムなどは南シナ海で中国と領有権を争っている。日本と利害を共有しており、連携の意義は大きい。
 中国の海洋権益拡大の動きを抑止するため、「包囲網」の構築は有効だ。フィリピンを訪問した岸田外相は、デルロサリオ外相との会談で、海洋安全保障面の連携を強化することで一致した。
 今年は日本とASEANの交流開始から40周年を迎える。ASEAN諸国に対し、日本は長年の交流と経済支援の実績を持つ。
 中国の脅威については、千年の支配を受けたベトナムがよく知っている。ASEAN諸国は近隣の大切なパートナーだ。そのことを改めて強く認識したい。

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