アルジェリア人質事件 「人命尊重」と言えるのか

http://mainichi.jp/opinion/news/20130120k0000m070102000c.htmlより、
社説:人質事件 「人命尊重」と言えるのか
毎日新聞 2013年01月20日 02時31分

 不吉な予感が現実のものになってしまった。北アフリカのアルジェリアで起きた人質事件は19日、軍の作戦がほぼ終了し、邦人も含めて多くの人質が死亡したとの情報がある。なんとも痛ましく、かつ後味の悪い事件となった。
 その痛ましさは、重大な疑問によって増幅される。アルジェリア当局が提供する情報は乏しく、遅かった。不都合な情報は伏せる、あるいは公表を遅らせる。中東諸国にありがちな「よらしむべし、知らしむべからず」の封建体制を感じさせた。
 さらに重大な疑問がある。なぜアルジェリア軍は事件発生翌日に早々と突入したのか。安倍晋三首相はセラル首相に人命を最優先するよう求めていた。日本だけではない。自国民が人質に取られた英国のキャメロン首相も、事前連絡なしの軍突入に、強い懸念を表明した。
 人質救出とは名ばかり、軍はテロ組織掃討をめざし、拙速で荒っぽい作戦を展開した感がある。軍は19日、人質とともに立てこもった武装勢力11人を殺害したが、人質7〜8人も武装勢力に殺されたという。軍はもっと慎重に対応できなかったか。遺族は悔やんでも悔やみきれまい。
 96年にペルーで起きた日本大使公邸人質事件は軍の突入まで約4カ月を要した。79年の在イラン米大使館占拠人質事件は解決まで440日以上かかった。長期戦もつらいが、人命を最優先するのが当然だ。
 アルカイダ系の犯行組織は、隣国マリでの仏軍の作戦停止を求めていた。この条件はのめまい。アルジェリアはよくパキスタンに例えられる。アフガニスタンの反米イスラム勢力が隣国パキスタンを補給拠点とするように、マリの反政府勢力にとってアルジェリアは重要だ。
 逆に、フランスを旧宗主国とするアルジェリア政府は事件に厳罰で臨む必要があった。そして、地球規模でテロと戦いつつアフガンで難渋する米国も、これに一定の理解を示した。それが基本的な構図だろう。
 また、アルジェリアは91年にアラブ世界初の完全自由選挙を行い、イスラム原理主義政党が圧勝したが、軍が事実上のクーデターで選挙結果を白紙に戻したため内戦に突入、10万〜15万人ともいわれる人々が死亡した経緯がある。「テロリストとは交渉しない」とは欧米諸国の建前でもあるが、アルジェリア当局の骨身にしみた考え方といえよう。
 ただ、欧米は表だった交渉はしない代わりに、犯行組織に通じた人物などを介して取引を図るのが、むしろ普通だ。「人命の最優先」こそ鉄則だった。アルジェリア当局がこの鉄則に従ったかどうか、今後とも厳しく検証する必要がある。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年1月19日(土)付
アルジェリア―強行しかなかったのか

 人質救出作戦で、多くの死傷者が出たようだ。なぜ強硬策を急いだのか。
 アルジェリアの天然ガス施設で起きたイスラム武装集団による人質事件で、政府軍が突然の作戦行動を展開した。
 プラント建設会社、日揮などの日本人社員17人のうち安否が確認できない人も多い。日本人2人が死亡したとの情報もある。残りの外国人を含め、人質の無事を祈るほかない。
 報道によると、人質を連れて車で逃げようとした武装集団に向けて、白昼、空爆が始まった。人質はテープで口をふさがれ、首に爆発物を巻き付けられていたという。
 そうした状況が本当なら、アルジェリア政府は人質の救出より、武装集団の全滅を優先したと見られても仕方あるまい。
 過去の人質事件を振り返ると、事態の打開を図るため、まず犯人側との交渉に集中することが多い。特殊部隊による救出を行う際も、周到な準備の末に多くは暗闇の中で行われた。
 政府は武装集団との交渉を拒む方針を示していた。作戦はそうした姿勢を貫くものだ。強硬策に出れば、人質に犠牲が出かねないことは予想していたはずである。
 この国では90年代、軍とイスラム過激派との内戦で一般市民を含む多くの犠牲者を出した。武装集団への軍の厳しい対応はこうした対立構造の根深さをうかがわせる。
 国内の他の武装集団への威嚇効果を狙ったのは間違いない。救出作戦について米欧に支援を頼まず、その内容も関係各国に知らせなかった。米欧への依存と受け止められ、国内での批判の口実になることを恐れたのかもしれない。
 しかし、国際テロ組織アルカイダとつながるイスラム武装勢力は、国境を越えて活動しており、一国だけの対応では限界がある。こうしたテロ集団への対応には各国の幅広い連携が欠かせない。
 資源開発への投資を考える外国企業にも一連の経緯は新たなリスクと映りかねない。
 武装勢力について、国際社会の情報交換や協力がさらに必要だ。アルジェリア政府には救出作戦の全容について明確な説明を求めたい。
 安倍首相をはじめ日本政府はアルジェリア側に人命第一という方針を伝え、強行しないよう求めた。こうした考えが顧みられなかったのは残念だ。
 再発を防ぐためにも、政府や経済界は事件から教訓を導き出してほしい。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130119/crm13011903100000-n1.htmより、
産経新聞【主張】人質に「死傷者」 国境なき危機の再認識を
2013.1.19 03:09 (1/3ページ)

 アルジェリア南東部イナメナスの人質事件で、天然ガス関連施設を占拠したイスラム武装勢力に対し、同国軍は制圧作戦を実施した。その過程で「人質に死傷者が出た」(サイード同国通信相)という。
 事件に巻き込まれたとみられるプラント建設大手「日揮」の日本人駐在員17人のうち、多数の行方がまだ知れない。まずは安否確認に政府も同社も全力を挙げてほしい。
 軍の作戦も、事件自体も状況が分かっていない。作戦が性急で強引だった印象も拭えない。
 その結果、人質の犠牲がいたずらに増大したのであれば、遺憾である。政府はアルジェリア側に全容の説明を求めるべきだろう。
 ただ、流血の責任は、国際テロ組織アルカーイダ系とされる武装勢力にある。事件にひるむことなく、日本としてもテロ根絶に努力を惜しんではならない。
 インドネシア訪問中の安倍晋三首相もユドヨノ同国大統領との会談で、「卑劣な行為によって多数の犠牲者が出たことは断じて許されない」との認識で一致した。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130119/crm13011903100000-n2.htmより、
2013.1.19 03:09 (2/3ページ)
 アルジェリアでは1990年代以降、イスラム過激派と治安部隊の衝突で10万人も死亡している。同国政府は、隣国マリへのフランス軍事介入の停止など犯人側の要求を拒否し、交渉に応じなかった。作戦の事前通告も日本や米英政府などにはなかったという。
 犯人と人質の車に対するヘリコプターからの爆撃も伝えられ、乱暴過ぎたとの批判も出ている。
 安倍首相はセラル首相に対し、「人質の生命を危険にさらす行動」に懸念を示し攻撃中止を求めたが、セラル氏は「最善の努力をする」と応じるにとどめた。
 中東・北アフリカの独裁政権が倒れた「アラブの春」では、例えば、フランスなどからリビアの反カダフィ派に武器が供与され回収されないまま、周辺諸国の過激派に流れたと指摘されている。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130119/crm13011903100000-n3.htmより、
2013.1.19 03:09 (3/3ページ)
 人質事件ではっきりしたのは、テロ組織が北アフリカや西アフリカに勢力を伸ばしていることだ。マリへの仏軍事介入も、この地域の「第二のアフガン」化を防ぐためだった。危機は国境を越えて広がりをみせているのが現実だ。
 日本も、それに背を向けることなく、安全対策を講じた上で、企業活動や経済、技術支援を続け、テロ対策に貢献しなければならないことを確認しておきたい。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013011902000144.htmlより、
東京新聞【社説】人質救出攻撃 なぜ単独強行だったか
2013年1月19日

 アルジェリアの人質事件に対する同国軍の救出作戦は、必要な決断だったかもしれないが、もう少し慎重に、協調的に、できなかったものか。生還と同時に犠牲の情報を聞くと、悔いも課題も残る。
 きのうも記したが、アルジェリアには軍事政権とイスラム組織との内戦でおびただしい血を流してきた歴史がある。
 ことし七十六歳になるブーテフリカ大統領は、フランスからの独立戦争に参加し非同盟主義を掲げたブーメジエン政権下で、世界最年少の外相として知られた。非同盟とは外国と軍事同盟を結ばず、外国の軍隊の基地を置かないということである。
 ブーテフリカ体制は、テロに対し断固たる措置をとることで、資源が豊富でも外国人が怖くて入れないような国のテロを激減させてきた。国民の支持もある。
 身代金は、テロ組織を太らせ国家、国民を脅かす。外国資本は退き、この地域がアフガニスタンのような無法地帯になれば世界が困る。人質とともに施設外へ出れば解決はさらに難しくなる。
 好機をとらえ、果断に行動に出ることは軍事作戦の基本である。
 しかし、人質をとられていた日本をはじめ、英米などからは、突入の事前通告がなかったことに不信の声が聞かれる。無人飛行機や特殊部隊、経験の蓄積もある。
 どの国の政府にも自国民保護の責任がある。
 救出作戦の主体はアルジェリアにせよ、犠牲が最小となる協力作戦はとれなかったか、という悔いが残る。犠牲が出れば、自国民に対する説明も必要にもなる。
 テロの形態は一件ごとに違う。しかし、解決法や外交のありようでは大きな反省点を残した。
 何がよくて、何が悪かったか。政府には事実関係を詰めたうえでよく検討してほしいし、できるだけ公表してほしい。国民の生死の問題なのである。
 人質事件はむろん、憎むべきだが、イスラム社会では欧米の“搾取”に反対する行動には民衆の共感が集まりやすい。そこにイスラムテロがなくならない土壌のようなものがある。貧困や失業だけでは説明しきれない民族的、また歴史的なものがある。
 日本は、先人らの活躍もあり、アラブ、イスラム諸国からはアジアの仲間として親しまれている。欧米諸国にはできないような貢献もできるはずだ。
 悲しい事件だが、未来への教訓は少なくない。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO50757730Z10C13A1EA1000/より、
人質救出作戦に拙速さはなかったか
2013/1/19付

 アルジェリア軍がイスラム武装勢力に拘束された日本人を含む人質の救出作戦に踏み切った。人質の一部は助け出されたものの激しい戦闘で死傷者が出たもようだ。日本人ではプラント建設会社、日揮の関係者7人の無事が確認されたが、10人の安否は不明という。
 死傷者が出たとすれば残念だ。軍事作戦はまだ続いているという。アルジェリア政府や関係国と連携して情報を集め、残る日本人の安否を早急に確認してほしい。
 今回の事件で許してはならないのは、日本や米国、英国など様々な国の出身者が働くプロジェクトを狙った卑劣な武装勢力だ。
 ただ、アルジェリア軍はもう少し慎重に対処すべきだったのではないか。日本政府は人命第一での解決を求めてきた。安倍晋三首相はアルジェリアのセラル首相に直接、攻撃の中止を要請したが、すでに遅かった。
 欧米諸国も攻撃が事前に知らされなかったことへの不満を示した。不便な砂漠地帯で起きた事件とはいえ、事件発生以来、現地の状況は断片的にしか伝わらず、情報が錯綜(さくそう)した。アルジェリア政府は関係国と緊密に情報を交換し、人質の安全を優先する方策を探るべきだった。
 一方、重要なのはテロの根絶である。国際社会の結束が必要だ。アルジェリアでは1990年代、イスラム勢力のテロで10万人以上が犠牲になった。その教訓から、同国政府は事件当初から「テロリストとは交渉しない」と武力解決を示唆してきた。テロとの戦いの非情な現実から日本だけが例外ではいられない。
 人質事件は日本政府や企業に、海外でのリスク管理の重要性を改めて突きつけた。
 アフリカでは資源をめぐる国際競争が激しさを増している。日本企業は事件の再発を防ぐために、テロや争乱に備えた情報収集体制や、非常時の行動を定めた安全対策を再度点検する必要がある。
 国際協力銀行の最新の海外事業展開調査によると、2011年度31%の製造業の海外生産比率は15年度には38%に高まる。なかでも新興国の重要性は一段と増す。
 中国での反日暴動や、インドの日系自動車工場での従業員の暴動など、新興国事業には先進国とは異なるリスクがある。治安や労務などのリスクをどう最小化できるかが、新興国市場で勝ち抜くための条件となる。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年1月18日(金)付
テロでの人質―救出進め再発防止も

 アフリカ北部アルジェリアの天然ガス関連施設で起きた人質事件で、現地の部隊が救出作戦に突入した。
 未確認情報も多いが、日本人2人らが脱出した一方、多数が死亡したとの報道もある。
 とらわれたのは、プラント建設会社日揮の社員3人を含む外国人40人以上と多数のアルジェリア人。国籍は日本のほか米英、ノルウェー、アイルランドなどだ。
 国際テロ組織アルカイダ系のイスラム武装集団に襲撃された。許しがたい蛮行である。日本政府は関係国と連携しながら人命第一で解決に全力をあげてほしい。
 この地域は天然資源が豊富で、外国企業が進出しているが、政治情勢は複雑で、治安の悪化も目立つ。
 武装勢力の一部はもともとアルジェリアにいたが、弾圧を逃れるため、政府統治の弱い南隣のマリに入ってきた。一帯では外国人誘拐が横行している。
 今回の人質事件の引き金となったと見られるのが、マリへのフランス軍の軍事介入だ。
 マリ北部では地元民族による反政府運動が続いている。イスラム武装勢力もこれに加わり、南部へと支配地域を広げてきた。旧宗主国であるフランスは、マリ政府の支援要請を受け、年明けから空爆を行い、地上部隊の投入にも踏み切った。
 マリの武装勢力ともつながる犯人グループは、マリからの仏軍の撤退を求めていた。仏軍の領空通過を許したアルジェリア政府も非難していた。
 まず人質事件の解決が大事だが、再発防止にはマリ情勢の安定化が欠かせない。
 国連安保理は、マリ北部制圧のため、アフリカ各国に部隊派遣を求めていた。急きょ、派遣されることになったが、事態は楽観を許さない。
 カダフィ政権が崩壊したリビア内戦で、外国から大量の武器が提供された。それがマリなどにも流出しており、秩序の回復は容易ではない。
 武装テロ組織を抑えるためとはいえ、仏軍介入は、安保理で十分な議論を経たわけではない。地上での軍事行動を今後、どう収拾していくのか。
 アフリカ全体で見れば資源開発や工業化で経済が伸びつつある。しかし、政治混乱などにつけこみ、アルカイダ系組織の活動領域も広がっている。
 この大陸が持続可能な発展へと離陸していくためにも、人質事件やマリへの対応を、テロと武力行使の負の連鎖の新たな始まりにしてはならない。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130118/crm13011803230003-n1.htmより、
産経新聞【主張】アルジェリア人質 テロに屈せず国際連帯を
2013.1.18 03:22 (1/2ページ)

 アルジェリア南東部イナメナスの天然ガス関連施設が武装集団に襲撃された事件は、人質解放のためのアルジェリア軍の攻撃が開始され、政府対策本部は邦人らの安否確認に全力を挙げた。
 犠牲者が出たとされるのは極めて残念だが、政府は今後とも各国と密接に連帯し毅然(きぜん)として対処する必要がある。卑劣な国際テロに屈してはならない。
 安倍晋三首相が訪問先のハノイで「こうした行為は断じて許すことはできない」と述べたのは当然だ。菅義偉官房長官が16日夜、事件発生を公表した際にもテロを強く非難する言葉がほしかった。
 同様に人質を取られたパネッタ米国防長官は「解決に必要なあらゆる措置を取る」と言明した。人質が多数の国籍に及ぶ異例の事件であり、日本もテロとの戦いへの決意と覚悟が問われた。
 とりわけ試されたのは、安倍新政権の危機管理能力だ。外国訪問中の首相に代わり、麻生太郎副総理を本部長として官邸に対策本部を設置し、現地に城内実外務政務官を派遣した。国の総力を挙げて事件の全容解明につなげたい。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130118/crm13011803230003-n2.htmより、
2013.1.18 03:22 (2/2ページ)
 岸田文雄外相は来日中のキャンベル米国務次官補と、小野寺五典防衛相はルース駐日米大使とそれぞれ会談、日米の緊密な情報交換に努めた。岸田外相は解決へ向けて英、ノルウェー外相らとも電話で連携を確認した。
 武装集団は国際テロ組織アルカーイダ系のイスラム過激派とみられる。アルジェリアの隣国マリに対するフランスの軍事介入への報復で、人質の安全と引き換えに作戦停止を要求したという。
 国連安保理は昨年末、内乱状態に陥ったマリ政府の要請で周辺諸国に軍事介入を認める決議を採択した。旧宗主国の仏政府はこれを受け、同国を「テロ組織の温床にしない」ため介入に踏み切った。西アフリカでのテロとの戦いの一環であり、武装集団の要求に応じなかったのは当然といえる。
 米軍を中心にアフガニスタンや中東のテロ掃討戦が進み、テロ組織がアフリカなどへ拠点を移す中で事件が起きた。アルカーイダ本体は弱体化したが、系列組織のテロや誘拐などは続いている。
 経済再生のためにも日本企業の海外進出は重要だが、安全確保対策やテロへの備えは十分だったのか。事件を機に、国を挙げて対応を再点検する必要がある。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013011802000121.htmlより、
東京新聞【社説】イスラムテロ 人質の安否が心配だ
2013年1月18日

 アルジェリアで起きた日本人らの人質事件では、同国軍が攻撃したという。人質の安否が心配だ。日本政府は関係国とともに解決、対策へ向けて全力を尽くしてほしい。
 情報はなお錯綜(さくそう)しているが、横浜に本社を置くプラント建設大手「日揮」の社員らが、同じガス田で欧米人とともに、イスラム武装勢力の襲撃を受け、人質になっていた。
 日本政府の対応は素早かった。首相指示にあるように人命第一、情報収集、関係国との連携をしっかりやり遂げてほしい。それには正確な情報の収集が出発点になる。
 とりわけアルジェリアの旧宗主国で今も関係の深いフランス、また北アフリカで対テロ対策を行ってきた米国とは協調的行動が必要になる。
 アルジェリアでは、一九九〇年代、選挙で勝ったイスラム勢力を軍部が徹底して弾圧し、十万人を超す死者を出している。血を血で洗う内戦状態は、過激派を生み、武器の流入を活発にした。
 その後、誕生した文民政権に対し、多くは和解したが、拒否した武装勢力もあった。のちに国際テロ組織アルカイダと連携する「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」で米国務省はテロ組織に指定している。今回の事件への関与が疑われている。
 米国は9・11以降、世界的なテロとの戦い、テロの根絶を目指している。アフガニスタンやイラクの戦争はその典型だが、北アフリカでも数年来進めてきている。
 アフガニスタンで治安部隊を訓練しているように、米軍が現地の正規軍を訓練し、それにその地域のイスラム武装勢力を掃討させるという方法だ。
 それはマリでも実施されたが、鍛えたはずの軍の一部が何と寝返った。マリの北半分が奪われたので、あわてて仏軍が空爆をしたというのが、どうも実相らしい。
 エジプトなどで長期独裁政権を倒した「アラブの春」に世界は驚いた。イスラムの民衆が、欧米の支える独裁政権に苦しめられてきた構造もよく分かった。
 人質をとるのは、いやしむべき犯罪である。まして身代金目的であれば、それこそイスラム世界の人々がまゆをひそめる行為ではないか。
 各地の武装組織の解体こそは、イスラム世界と非イスラム世界との無用の分断を避ける道でもある。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO50715210Y3A110C1EA1000/より、
日経新聞 社説 解決の難しさ映すアルジェリア人質事件
2013/1/18付

 北アフリカのアルジェリアで、イスラム武装勢力が天然ガス関連施設を襲撃し、複数の日本人を含む多数の外国人を人質にとる事件が起きた。アルジェリア軍は武装勢力の攻撃に踏み切ったもようだが、人質の安否などは確認できていない。日本政府は関係国と連携し、早期救出にあたってほしい。
 襲われたのは、アルジェリアの政府系企業と英石油大手BPなどが取り組む多国籍プロジェクトの施設だ。人質には日本のプラント建設会社である日揮の関係者のほか、米国人や英国人、ノルウェー人らが含まれているという。
 菅義偉官房長官はアルジェリア治安部隊が人質救出のために軍事作戦を開始したとの連絡を英国から受けたと述べた。日本人の安否は確認中という。現地からは人質の一部が脱出したとの情報がある一方、人質が多数死亡したとの報道もあり、情報が錯綜(さくそう)している。
 東南アジア歴訪中の安倍晋三首相は、情報の集約や日本人の無事の確認に全力を挙げるよう指示した。米政府も襲撃を強く非難している。米国、アルジェリアの旧宗主国であるフランスなど関係国と緊密に連絡をとり、正確な状況把握に努めてほしい。
 今回の事件の難しさは、日本人だけでなく多くの国の人々が人質になったことだ。アルジェリア政府は当初から「テロには屈しない」と主張してきた。欧米も基本的に同調したとみられ、人命第一で粘り強く交渉するという日本流の主張が通ったとは言い難い。
 国際テロ組織のアルカイダに近い武装勢力は犯行声明で、フランスによるアルジェリアの隣国マリへの軍事介入の停止を求めた。マリではイスラム武装勢力が北部を実効支配し、首都バマコを含む南部を統治する政府との間で国土が分断されている。マリの混乱は周辺国の安定も脅かしかねず、仏軍の介入はやむをえない。
 こうした地域でイスラム勢力の活動が活発化したのは、アフガニスタンやイラクなどでの米欧による掃討作戦で追われた過激派が拠点を移しているためだ。リビアのカダフィ政権崩壊で大量の武器が流れ込んでいるとの情報もある。
 アルジェリアの人質事件は、アフリカの混乱が日本にとって遠い地の話でないことを知らしめた。事件の解決に全力をあげると同時に、生活水準を底上げし、産業を育てる地道な支援を続けたい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130118k0000m070169000c.htmlより、
社説:アルジェリア 再発防止へ国際連携を
毎日新聞 2013年01月18日 02時32分

 イスラム過激主義の不気味な広がりを見せつける事件だった。
 北アフリカ・アルジェリアの天然ガス関連施設で働いていた外国人従業員らが16日、イスラム武装勢力に襲われて拘束された。その数40人余り。プラント大手「日揮」の日本人従業員3人も含まれており、施設に立てこもる武装勢力は、隣国マリでフランスが軍事行動をやめなければ、人質に危害を加えると警告した。
 これに対しアルジェリア軍は翌17日、人質救出作戦を開始した。人質35人を含めて多数の死者が出たという報道がある半面、邦人2人を含めて25人の人質が脱出したとの情報もある。どちらが正しいか即断はできないが、少なからぬ犠牲者が出た場合、アルジェリア側の対応が拙速でなかったかが問題になりそうだ。
 無論、最も責められるべきなのは、罪もない非戦闘員を人質にして政治的要求を満たそうとしたイスラム武装組織である。このアルカイダ系とされる組織は、仏軍のマリ介入に対して「イスラム統治の破壊」と反発しているが、外国人を巻き添えにする手口は、イスラム教への世界の信用と敬意を損なうだけだろう。
 今は人質の無事を祈るしかないが、中東・アフリカ情勢の悪化には驚かされる。アルジェリアの隣国リビアでは、11年にカダフィ独裁が崩れてからも政情不安が続いている。マリでもイスラム過激派が支配地域を広げ、国連安保理は昨年12月、周辺国で構成する支援部隊の軍事介入を認めた。これを背景に旧宗主国・仏が今月から空爆などを始めた。
 事件の舞台となったアルジェリアも、90年代にイスラム過激派と政府軍の戦闘が続き、アルカイダが深く根を張っている。さまざまな組織名を使いながら、アルカイダはアラビア半島やアフリカ大陸に浸透してきた。一昨年1月、チュニジアの大統領のサウジアラビア亡命により「アラブの春」が始まったが、この2年でイスラム過激派の勢力が拡大したのも、紛れもない事実である。
 こうした現実に、私たちは改めて向き合わねばならない。日本は従来、「親アラブ」とみられてアラブ世界で大事にされたが、03年のイラク戦争以降、そうした空気は薄れた。また、アルジェリアでは近年、テロや誘拐事件が頻発し、日本企業も治安に神経をとがらせていたのに事件は起きた。この際、各国は安全対策を徹底的に再検討するとともに、中東からアフリカ大陸にかけて膨れ上がるイスラム過激主義に対して、緊密な国際連携を模索すべきだろう。
 事件の全貌はまだ明らかではないにせよ、国際社会がテロや過激主義と闘う必要性が、改めて浮き彫りにされたのは確かである。

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