記者の目:自殺者、3万人下回る 山寺香氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130123k0000m070109000c.htmlより、
記者の目:自殺者、3万人下回る=山寺香(生活報道部)
毎日新聞 2013年01月23日 00時16分

 警察庁が17日公表した統計(速報値)で年間の自殺者数が15年ぶりに3万人を下回った。なぜ減ったのか。自殺の原因は複雑な要因が絡むが、適切な対策を行えば減少することはフィンランドやハンガリーなど海外の事例で明らかになっている。日本ではここ数年どのような対策がとられたのか。私なりの視点で振り返ると、キーワードは「つながる」だったように思える。
 09年4月、本紙夕刊(東京本社発行版)の連載「09シリーズ危機 自殺」をきっかけに、自殺問題の取材を始めた。その中で忘れられない場面がある。「セーフティーネットの外に落ちる人たちを私たちが受け止める」。秋田県で02年から経営者の自殺対策に取り組むNPO法人「蜘蛛の糸」の佐藤久男代表(69)はそう言い、両足を踏ん張って両腕を前に突き出し、歯を食いしばってみせた。私はその気迫に圧倒され、同時に佐藤さんの強い覚悟を感じた。
 日本の自殺対策が本格化したのは、06年に自殺対策基本法が制定されてからだ。国と自治体に対策の責務を課したことで、自治体の動きが活発化し、官民一体の取り組みが可能となった。

 ◇「ワーストワン」秋田の取り組み
 ここで、「つながる」具体例を秋田県の取り組みと共に振り返ってみたい。秋田は95年以降、自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)が全国ワーストワンを記録し続けていて、現場の危機感は強かった。基本法制定を機に、自殺防止9団体が「秋田・こころのネットワーク」を結成(現在37団体)。09年からは、相談者の多様な悩みに1カ所で対応できるよう、弁護士、臨床心理士、保健師、僧侶らが集まって「いのちの総合相談会」を開催している。佐藤さんは「各団体には得意分野があるが、相談会でさまざまな相談を受けることでノウハウの共有が進み、相談員一人一人の力量が増す」と語る。民間団体の縦割りが解消され、力が全体的に底上げされたのだ。
 さらに、10年には民間団体、県、秋田大学などが集結して「秋田ふきのとう県民運動」が始動。基本法制定前は点だった取り組みが、数年で線となり、面へとつながった。秋田の自殺者数はピーク時の03年の519人から、11年には346人となり3割以上減少した(人口動態統計)。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130123k0000m070109000c2.htmlより、
 ネットワーク作りは全国に広まりつつある。10年には基本法制定の原動力となったNPO法人・ライフリンク(東京都)や佐藤さんらが中心となり約70団体が参加する「自殺対策全国民間ネットワーク」が、11年には京都府の中山泰・京丹後市長が発起人となり「自殺のない社会づくり市区町村会」(現在240自治体)が相次いで発足。住民とじかに接する市区町村間で問題点の共有が進んだ。

 ◇民間の声反映で対策劇的に変化
 そして、「つながる」動きを後押しした力の一つとして、民主党の取り組みを挙げたい。09年の民主党政権の誕生以降、社会問題の解決に民間の力を活用する「新しい公共」の理念のもと、民間の声を政策に反映させる回路が開かれた。09年11月にはライフリンクの清水康之代表(40)が内閣府参与に任命され、自殺対策の政策立案にかかわった。
 中でも、これまで全体数が年に1度公表されるだけだった警察庁の自殺者数のデータが、市区町村別に毎月公表されるようになったことは大きかった。これで、現場の対策は劇的に変化する。
 昨年8月の自殺総合対策大綱の改定も印象的だった。今後5年間の国の対策の指針。議論の場となった民主党の社会的包摂プロジェクトチームでは少しでも現場を動きやすくしたい民間側と、予算や人員の制約から難色を示す省庁がぶつかる場面も多かったが、可能な限り現場の声を反映させるよう政治家が采配した。文言の一言一句にまで及ぶ攻防は最後まで続き、清水さんがこだわった「(自殺対策は)生きる支援」という言葉も最終的に盛り込まれた。誰もが生きることを選べる環境を作るという現場の思いが反映されたと思う。
 現場と政治の歯車がかみ合って前進した自殺対策は、新しい問題解決のモデルケースとして、他分野でもノウハウを活用できるはずだ。自殺対策以外にも、民主党政権ではパーソナルサポートサービスやよりそいホットラインなど、現場の声を施策に反映する試みがなされた。政権全体の評価とは別に、認められてもよいのではないだろうか。
 「複雑化する社会問題に対応するには、現場の意見を反映させる機能を残すべきだ」と清水さんは言う。政権は交代したが、せっかく開いた「回路」を閉じてはならない。

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