アルジェリア人質事件 10人「名前」が訴えかける力

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130126/crm13012603170005-n1.htmより、
産経新聞【主張】9人無言の帰国 安全第一では国民守れぬ 憲法解釈の見直しが急務だ
2013.1.26 03:17

 アルジェリアの砂漠地帯から厳冬の日本へ、卑劣なテロ事件の犠牲となった邦人10人のうち9人が無言の帰国をした。
 海外の厳しい環境下で、命がけで国益を担ってきた企業戦士の無念さは想像にあまりある。安倍晋三首相は対策本部で「痛恨の極みだ」と述べた。改めて深い哀悼の意を表したい。
 同時に、彼らの死を無駄にしないためにも日本および日本人は事件がもたらした教訓をしっかり受け止める必要がある。これからも同じような事件が起こりうる。

 ≪日本人が狙われている≫
 今回、事前も事後も情報収集で大きく立ち遅れ、邦人救出でも拱手(きょうしゅ)する場面があまりにも目立った。首相は「国際社会と連携し、テロとの戦いに取り組んでほしい」と述べたが、日本の「安全第一主義」はテロが跋扈(ばっこ)する国際社会ではまったく通用しない。
 それどころか国民を危難に陥れている。これを是正せずに国民を守ることはできない。戦後日本の「危険から目を背ける」悪弊を断つときだ。
 自衛隊法には海外で災害やテロが起きたときに、航空機や船舶で邦人を輸送できる規定がある。しかし、現地の「安全が確保されている」という条件がネックとなり、実際の派遣を困難にしている。陸路の輸送についても定めがない。空港や港までしか行けないのである。
 安全確保が難しい地域だからこそ自衛隊の出番という「常識」が否定され、「危ないところには行かない」といった論理がまかり通っている。
 最大の原因は、戦争放棄などをうたった憲法9条の下で海外での自衛隊の武器使用は自衛と緊急避難に限り、それ以外は「武力行使との一体化」にあたるとして禁じてきた政府の憲法解釈にある。
 こうした解釈により、日本への直接の武力攻撃に至るおそれのある場合に適用される周辺事態法でも、日本の支援は戦闘行為が行われることがないと認められる「非戦闘地域」に限られている。現実との乖離(かいり)は広がるばかりだ。
 ゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)からの自衛隊部隊の撤収も、シリアの内戦激化で隊員の安全を確保できなくなったのが理由だ。国連平和維持活動(PKO)で、宿営地外で襲われた国際機関職員らを助けに行くこともできない。
 根本的な解決には憲法改正が不可欠だが、当面は憲法解釈を変更することが急務だ。武器使用基準も、国連基準である、任務遂行を妨害する行為を排除できるようにしたい。さらに平時の自衛権を明確に位置付け、海外の自国民も保護する国の責務をはっきりさせることが重要だ。

 ≪防衛駐在官の増員図れ≫
 今回の事件では、テロ組織が欧州の旧宗主国だけでなく、世界各地で事業展開する日本企業を標的としている事実が鮮明になった。「日本人は狙われている」と考えた方がよい。日揮のほか、エネルギー関連企業や高速道路建設を請け負うゼネコンなど14社ほどの日本企業が進出するアルジェリアや、タンザニア、モロッコなどへの進出が加速している。
 資源豊富なアフリカへの投資はエネルギー確保という日本の国家戦略も担う。進出企業の多くは独自の危機管理マニュアルを作成し、移動には武装した警備員を同行させるなど安全確保に神経をとがらせている。だが、今回のように重武装したテロ集団に急襲されれば防御は難しい。
 政府・在外公館が危険情報の収集能力を高め、企業との連絡を緊密にするなど、リスクを最小限にすることが極めて重要である。
 強調したいのは防衛駐在官の活用だ。アフリカではエジプトとスーダンにしか駐在していないが、事件発生と同時にアルジェリアに駐在官を派遣し、情報収集にあたらせるべきだったのではないか。駐在箇所や人員を増やして軍人同士のネットワークを広げ、危機に的確に対処してほしい。
 キャメロン英首相は、英国が議長国となって6月に開く主要国首脳会議(G8サミット)で、北アフリカでのテロを議題にすると表明した。日本政府にも積極的な発言、提案が求められる。
 日本はテロに泣き寝入りする国であってはならない。犯行グループは厳しく処罰されるべきだ。テロと戦う姿勢を鮮明にすることが何よりも重要である。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130126k0000m070172000c.htmlより、
社説:テロ犠牲者10人 「名前」が訴えかける力
毎日新聞 2013年01月26日 02時30分

 誠に痛ましい結末だ。アルジェリアの人質事件で、日揮の駐在員ら日本人10人の死亡が確認された。
 犠牲者本人はもとより、遺族や同僚、知人らの悲嘆や無念はいかばかりか。胸がつぶれる思いだろう。
 犠牲者の伊藤文博さんの母、フクコさんは、宮城県南三陸町の仮設住宅で、近く帰国して再会するはずだった息子への思いを記者らに語った。東日本大震災で自宅を津波に流され、思い出の品もないという。渕田六郎さんの兄、光信さんも記者に対し優しい六郎さんの人柄を語り涙を流して悲しんだ。こうした報道に接し、民間人を巻き込んだテロ行為への怒りが改めてわき上がる。
 政府と日揮は、遺体の確認後も遺族への配慮を理由に犠牲者の氏名を明かさなかった。内閣記者会が氏名公表を首相官邸に申し入れるなど「犠牲者情報」を巡り異例の経緯をたどったが、最終的に政府が公表に踏み切ったことは評価したい。
 今回、実名公表の是非がネットなどで大きな話題になった。事件や事故(災害も含め)で亡くなった人を実名・匿名いずれで報道するのかはメディアにとって悩ましい問題だ。遺族の意向も考慮する。それでも、取材は「実名」がなければスタートしない。名前は本人を示す核心だ。
 東日本大震災では津波被害などで2万人もの死者・行方不明者が出た。だが、数字だけで被害の大きさがリアリティーを持っただろうか。
 生き残った人が亡くなった人への思いをメディアなどに具体的に語り、その声が積み重なって訴える力となり、国民が被災地を支える原動力になったのではないだろうか。
 その時、「Aさん」「Bさん」では伝わるまい。名前は符号ではない。かけがえのない個人の尊厳を内包するものだ。
 今回の理不尽なテロ事件も、犠牲者がどんな方々か分かったことで、社会として事件を記憶し、今後の教訓もくみとっていくことができる。
 実名公表を巡り論争になった背景にメディアの取材姿勢への不信感があるのも確かだ。集団的過熱取材が強く批判されたこともある。遺族の心情を踏みにじるような取材が許されないのは当然だ。
 新聞倫理綱領は「自由と責任」「品格と節度」をうたう。その原点を記者一人一人が自省すべきだ。社会の信頼に支えられての「報道の自由」である。匿名化が進む社会はどこか息苦しい。信頼を得ることで風通しのよい民主主義に寄与したい。
 日揮、さらに政府の対応を今後チェックするのもメディアの大きな役割だ。日揮に対しては、生存者の生の声を取材できる機会を設けることなど一層の情報開示を求めたい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130126ddm003030090000c.htmlより、
クローズアップ2013:アルジェリア人質事件 生還者も間一髪 ターバン巻き、現地スタッフと脱出
毎日新聞 2013年01月26日 東京朝刊

 北アフリカのアルジェリア南部で起きた、イスラム武装勢力による人質事件は、海外に進出する企業に、リスク管理の在り方を問い直す事件となった。さらに、国にとっても海外在住の日本人保護をどうするか重い課題を突きつけたが、有効な対策は早急には見えてきそうにない。
 「私どものプラントは軍隊に守られ生活、建設している。その中で尊い命が奪われたのは、とても悲しく、つらい」。25日会見したプラント大手「日揮(にっき)」(横浜市西区)の川名浩一社長は心情を吐露した。
 アルジェリアでの日揮のプロジェクトは、同国軍によってセキュリティーが保たれてきた。建設現場だけでなく、居住区域や移動まで軍の警備が頼りだったという。その仕組みの中、同国進出から約50年、関係者に犠牲が出ることはなかった。
 会見ではイスラム武装勢力による襲撃の一端が明らかになった。
 現地時間16日午前5時40分ごろ、突然サイレンが鳴り響いた。アルジェリア南部イナメナス近郊で建設中のガスプラントから数キロ離れたキャンプ(居住区域)。自室にいた日本人従業員が外に出ようとすると「ステイ・ルーム(部屋にいろ)!」と叫ぶ声。サイレンと併せ注意を呼び掛けたのは日揮のマレーシア人スタッフだった。
 従業員が自室に身を潜めると、外でかなりの銃声。近くの部屋らしきところで「オープン・ザ・ドア(ドアを開けろ)!」の声と銃声が聞こえた。銃声は日中、鳴り続けた。
 夜が明けて17日午前9時45分ごろ、窓の外に見た日揮のアルジェリア人スタッフ数人に話しかけると、「安全担当スタッフが部屋をノックして確認している」。数分後、スタッフが訪ねてきて、従業員は部屋を出た。

 ◇「日揮」独自に検証へ
 頭にターバンのようなものをまかれ、「ネックウオーマーで顔を隠せ」と言われた。アルジェリア人スタッフに囲まれ下請け会社のキャンプに逃げ込み、食料と水をもらった。地元警察の車でアルジェリア軍キャンプへ。軍のメディカルチェックを受ける間、武装勢力の攻撃を目撃した。
 午後3時ごろ、車に乗った同僚の日本人に出会い、一緒にイナメナス市街地の警察署に移り、日本にいる家族と連絡が取れた。アルジェリア国営石油会社のキャンプで食事を取り、アルジェ行き飛行機に乗り込んだのは午後8時。38時間あまりが経過していた。
 武装勢力に対するアルジェリア政府の対応には批判も出たが、日揮幹部は批評を避けている。安全確保に同国政府の協力が欠かせない事情が垣間見える。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130126ddm003030090000c2.htmlより、
 川名社長は「アルジェリア首脳からセキュリティー対策は大きな改善を見せると言われた。それを確認しビジネスを継続できるか見極めたい」と語った。会見に同席した三好博之執行役員は生還者から話を聞き、事件を把握して安全対策を検証する方針を示した。【一條優太、飯田憲】

 ◇政府、安全対策手探り 外務省「海外企業チーム」設置
 アルジェリアの人質事件で日本人全員の安否が確認され、政府は「検証などの第2フェーズ」(外務省幹部)に入る。首相官邸、外務省、自民、公明両党は検証委員会や対策チームをそれぞれ発足させ、日本人と進出企業の保護で、政府や各国の対応に問題がなかったか検証する。在外公館の増員や自衛隊法改正、国家安全保障会議(NSC)の設置などが検討課題に上るが、国際テロ対策には限界もあり、決め手はなかなか見えてこない。
 安倍晋三首相は25日の政府対策本部で、事件の検証と企業などの安全対策に取り組むよう指示した。菅義偉官房長官をトップに、関係省庁による検証委員会が来週にも議論を始める。菅氏は同日の記者会見で「事件が起きない、事件が起きた後でも迅速に対応できる安全策を作りたい」と強調。検証委が事件の教訓を洗い出し、さらに有識者の懇談会が2月末をめどに具体策をまとめる。
 岸田文雄外相も外務省内に海外に展開する企業の安全対策強化チームを設置。テロや紛争に関する情報収集や企業などとの連携のあり方などを探る。
 情報収集の拠点となる日本大使館のうち、アフリカは欧米に比べ要員が手薄で、在アルジェリア大使館員はわずか12人。今回の事件では同国からの情報収集が難航した。このため在外公館全体の人員配置や、軍とのパイプ役の防衛駐在官の充実などが課題になる見通しだ。菅氏は外交政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)の必要性も強調している。
 政府が事件前に現場周辺で出していた危険情報は4段階で最も低い「十分注意」。事件後に「退避勧告」へ一気に引き上げられており、渡航者への情報発信も問われそうだ。
 自民、公明両党は邦人保護のプロジェクトチームを来月初旬にも発足。自民党の石破茂幹事長は邦人の陸上輸送や武器使用基準緩和を可能とする自衛隊法改正を目指し、慎重姿勢の公明党と調整を本格化させる。
 ただ、世界的にテロの脅威が増す中、海外での安全確保はきわめて高いハードルだ。政府高官は「とにかく全体を見直す」と述べ、対策が手探り状態にあることを示唆した。【影山哲也】

 ◇日本人従業員の救出経過
 <16日>
http://mainichi.jp/opinion/news/20130126ddm003030090000c3.htmlより、
5:40      居住区で日揮のマレーシア人スタッフがサイレンを鳴らし「ステイ・ルーム(部屋にいろ)」と叫ぶ。従業員は自室に籠もる
この間       外から銃声
6:30〜8:00 近くの部屋らしきところで「オープン・ザ・ドア(ドアを開けろ)」の声と銃声
9:00      ヘリコプターの音
日中        銃声が鳴り響く
 <17日>
9:45      外にいた日揮のアルジェリア人スタッフが「部屋で待て」
数分後       アルジェリア人スタッフに囲まれ居住区を出る。下請け業者の安全担当、警察に連絡。警察の車でアルジェリア軍のキャンプへ
15:00     同僚の日本人が乗っている車を見つけ一緒に行動。イナメナス市街地の警察に移動
20:00     イナメナスの空港発の飛行機で首都アルジェに向かう
 ※時間はいずれも現地時間。日本との時差は8時間。従業員の証言などから

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中