改憲で「国防軍」 富国強兵の時代に戻すのか
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年1月28日(月)付
防衛力見直し―首相の説明が足りない
安倍政権による防衛態勢の見直し作業が始まった。
先週末の閣議で、民主党政権下の10年にできた防衛計画の大綱の見直しと中期防衛力整備計画の廃止を決めた。新たな大綱と中期防は年内につくる。
13年度予算では防衛費も11年ぶりに増やす方向だ。
日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定をめぐる日米協議もスタートした。
まさに矢継ぎ早である。
ここ数年、東アジアの安全保障環境は大きく変わった。とりわけ中国の軍備拡張、海洋進出は著しく、日本との間でも尖閣諸島問題で緊張が続く。ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮の脅威も増した。
国際情勢の変化をふまえ、防衛のあり方を不断に点検するのは当然のことだ。米国が「アジア太平洋重視」を打ち出すなか、日米の同盟関係を深化させることも必要だろう。
一方で、防衛政策をやみくもに変えていると受け止められれば、かえって地域の緊張を高めかねない。安倍政権の前のめりの姿勢を見ると、そんな懸念がぬぐえない。
言うまでもなく、戦後の日本は憲法9条の平和原則のもと、自衛権の行使にみずから厳しい制約を課してきた。自衛隊による海外での武力行使は禁じる、集団的自衛権の行使は認めない、などである。
ところが、安倍首相は集団的自衛権の行使容認に意欲を示している。一連の見直し作業もそれを前提にしたものだろう。
では、どのような事態のもとで、どんな形の日米協力を想定しているのか。自衛隊の活動を際限なく広げるようなことにならないか。首相は明確に説明する責任がある。
そうでないと、周辺国の警戒感を高め、激しい軍拡競争に陥りかねない。
防衛費の野放図な拡大も許されない。
現大綱は「動的防衛力」という考え方を打ち出した。防衛予算が削減されるなか、自衛隊を効率的に運用する狙いだ。
厳しい財政事情のもと、今後も装備や人員、活動を精査することは欠かせない。尖閣をふくむ南西海域の警備強化には、海上保安庁に予算を重点配分する方が効果的な面もある。
中国との向き合い方は一筋縄ではいかない。外交や経済をふくむ総合的な戦略を描く必要がある。防衛力強化だけを突出させるべきではあるまい。
説明を怠らず、無用の緊張をあおらない。これが安全保障政策の要諦(ようてい)である。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130128/plc13012803090004-n1.htmより、
産経新聞【主張】防衛大綱改定へ まず専守防衛の見直しを
2013.1.28 03:09 (1/2ページ)
平成22年に民主党政権下で策定された「防衛計画の大綱」について、安倍晋三政権が正式に見直しを決めたことを歓迎したい。
大綱は中長期の防衛の基本方針を定めるものだ。尖閣諸島への攻勢を強める中国や核・ミサイル開発をやめない北朝鮮への抑止力をいかに強化するかが焦点となる。
新大綱は年内に策定される。外交・防衛の立て直しを掲げる政権として国民との約束を具体化してほしいが、防衛政策をどう転換したいのかという肝心な点となると、曖昧さが残る。
まずは、相手の攻撃を受けて初めて必要最小限の軍事力を行使できるとしてきた「専守防衛」の見直しに着手すべきだ。第一撃甘受という受け身の政策は妥当ではない。こうした現実離れした、手足を縛ってきた考え方から脱却しなければ、国民の生命・安全を守ることは難しい。
平成21年の麻生太郎政権の末期、政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書でも、「自由な思考・発想を止めてしまう要因」として専守防衛の見直しは提言されていた。
そもそも、専守防衛は政治的スローガンにすぎない。攻撃力や輸送力など能力の高い装備は必要ないとされてきたが、自国を守るために必要な防衛力を整備することを優先すべきだ。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130128/plc13012803090004-n2.htmより、
2013.1.28 03:09 (2/2ページ)
専守防衛の見直しは、日米同盟強化に必要な集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更と並んで、前の自民党政権時代から先送りされてきた。安全保障環境の変化に対応できる防衛政策構築のため、決断するときである。
小野寺五典防衛相は就任当初、前政権が打ち出した「動的防衛力」という考え方を見直す意向を示したが、その後、「自衛隊を機動的に動かすという意味でもある」と容認に転じたようだ。
抽象的議論に時間を費やす余裕はない。領空・領海侵犯を繰り返す中国を抑止するため、南西諸島防衛に必要な装備はどの程度なのか。自衛隊の即応態勢の問題点などをはっきりさせ、改善につなげる必要がある。
防衛力を裏付ける防衛費については、当初打ち出していた平成25年度予算で1千億円超の増額は伸び幅が圧縮される情勢だ。こんなことで、防衛立て直しの意思を内外に示せるのだろうか。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130104/plc13010403070002-n1.htmより、
産経新聞【主張】日米安保体制 「強い同盟」に立て直しを 日本自らリスクを負う時だ
2013.1.4 03:07 (1/3ページ)
今年の東アジアは、昨年にも増して危険に満ちている。とりわけ安全保障環境の激変で、日本の平和と安全は急を告げている。
尖閣諸島に対する中国の領海・領空侵犯は今年も繰り返されると予想され、北朝鮮の長距離弾道ミサイルの再発射や3度目の核実験の可能性に備える必要もある。
この状況を招いたのは、3年余の民主党政権下で日米同盟を空洞化させ、抑止の実効性を低下させたことが大きい。中国の攻勢をはねのけ、北の脅威に立ち向かうには、「強い同盟」に立て直すとともに、時代にふさわしい日米安保体制へ向けて、日本も自らリスクと責務を背負う覚悟が必要だ。
≪ミサイル迎撃は必須だ≫
「危機突破」を掲げて再登板した安倍晋三首相が月内にも訪米して臨む日米首脳会談は、その第一歩だ。2期目に入るオバマ大統領と歩調をそろえ、アジア太平洋の平和と日本の防衛を支える基盤の再構築に全力を注いでほしい。
昨年末の電話会談で、安倍氏は「日米が協力して平和で安定したアジアを構築したい。パワーバランスが崩れないように日本も責任を果たしたい」とオバマ氏に語った。中国の軍事的台頭と強引な海洋進出で、地域の軍事均衡が危機にさらされているとの認識が極めて重要だ。民主党政権に最も欠けていた問題意識といえる。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130104/plc13010403070002-n2.htmより、
2013.1.4 03:07 (2/3ページ)
同盟立て直しへ向けて、日本から行動を起こすべき課題はいくつもある。第1は、「保有するが、行使はできない」とする従来の憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使できるようにすることだ。
安倍氏は第1次内閣時に有識者会議報告を通じて米国を狙う弾道ミサイルの迎撃など、行使を容認すべき4類型を整理した。中でもミサイルの迎撃は、当時の駐日米大使も「同盟国の責務」と訴えた緊急課題だ。同盟強化に必須の前提と言わざるを得ない。
昨年末の組閣後、安倍氏は「報告をもう一度聞き、検討を進めたい」と語ったが、米艦船の防護、国際平和活動など既存の類型に加え、中国の攻勢への対応も新たな課題となる。連立相手の公明党は行使容認に慎重だが、首相自ら指導力を発揮して、早急に解釈変更を実現してもらいたい。
第2に、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の見直しも急務だ。現行指針が決まった1997年当時は、中国の海洋進出も尖閣攻勢も想定しなかった。共同対処のあり方を見直し、欠落を埋めていかねばならない。
第3は、米軍普天間飛行場移設の促進だ。普天間移設は昨年春の日米合意で在沖海兵隊のグアム移転計画から切り離されたが、米国が中国包囲網の一環とする海兵隊分散・広域配備との密接な補完関係を忘れてはならない。在日米軍再編が遅れるほど、同盟の対中抑止機能も損なわれかねない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130104/plc13010403070002-n3.htmより、
2013.1.4 03:07 (3/3ページ)
≪TPP交渉参加表明を≫
一方、2期目のオバマ政権は安保と経済を両輪にアジア太平洋戦略を推進する。その重要な柱は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉であり、米側が日本に「交渉参加」の意思表明を真っ先に期待していることは確実だ。
TPPには、自由貿易や民主主義を掲げる国々を結集して中国に規範の尊重を促すなどの地政学的意味がある。対抗する中国は米国抜きの自由貿易枠組みを画策している。安倍氏はアジアの成長を取り込む上でも、同盟の結束強化の観点からも、参加方針を明確にして訪米に臨んでほしい。
同盟強化には外交、軍事、経済の総合的検討が欠かせず、安倍氏が早期設置を約束した日本版国家安全保障会議(NSC)は、そうした場にふさわしい。防衛費の増額や海上保安庁強化なども含めて速やかに発足させたい。
昨年夏、米知日派報告が「日本は二流国家に甘んじるのか」と問うたように、「強い同盟国」の復活に対する期待は米側でも強い。同盟の信を失い、中国には「位負け」外交で国益を損なってきた前政権の外交・安保政策を、根底から一新するメッセージを内外に発信することが何よりも重要だ。
訪米はケリー次期国務長官らと意思疎通を深める好機でもある。強固な同盟を再構築した上で韓国とも関係を改善し、日米韓が結束して中国や北と向き合う態勢を整えたい。産経新聞が一昨年、提案した日米安保条約再改定案のように、日米が完全な相互防衛義務を果たすことも必要だ。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121231/plc12123103010006-n1.htmより、
産経新聞【主張】日本版NSC 早期設置で緊急対応図れ
2012.12.31 03:07
日本の外交・安全保障体制の強化に向けて、安倍晋三首相が日本版国家安全保障会議(NSC)の早期設置に意欲を表明した。
NSC構想は、米国の例を参考に政治主導で外交・安全保障分野の首相官邸の司令塔機能を再編強化するための機構改革だ。第1次安倍内閣時の平成19年に安全保障会議設置法改正案(設置法案)が国会に提出された後、廃案となっていた。
中国の攻勢や北朝鮮の脅威が強まる中で、新たに国家戦略を構築する必要性は一層高まっている。安倍氏の意欲を歓迎し、速やかな設置と実働開始を求めたい。
安倍氏は26日の会見で「総合力としての外交を戦略的に展開する。日本の安全保障は今そこにある危機だ」と強調した。菅義偉官房長官に国家安全保障強化を担当させ、NSC担当に礒崎陽輔首相補佐官を充てるなど、外交・安全保障重視を明確にした。
また、内閣官房参与に谷内正太郎元外務事務次官、外交担当の官房副長官補に兼原信克・外務省国際法局長を起用したのも、NSC設置へ向けた布陣といえる。
当初の設置法案によると、NSCは首相を議長とし、官房長官、外相、防衛相、国家安全保障担当補佐官が出席する。緊急事態や防衛計画大綱などの審議には総務、財務、経済産業各相や国家公安委員長らも加わるという。
米国のNSC設置は1947年と歴史が長い。国務、国防総省、軍、情報機関などの縦割りに陥りやすい政策決定過程を統合し、大統領府を司令塔に機動的な決断を下すためだ。英国でも日本と同じ時期に設置構想が生まれ、一足先に2010年に発足した。
日本が出遅れたのは、安倍氏の後を継いだ福田康夫政権が設置法案を撤回したためだ。参院のねじれなどで成立が困難とされた事情もあるが、政府自ら撤回したことには疑問が残る。
ただ、会議の設置だけでは機能をフルに発揮できない。優秀な人材、省庁間の情報共有、閣僚間の連携に加え、日本に情報機関がないことも早急に是正が必要だ。
NSC型の即断が求められるのは、とりわけ東日本大震災型の大災害や大規模テロ、外国の侵略などの緊急事態だ。米英の経験から学べることも多い。課題を克服して、真に効果を発揮できる組織に育ててもらいたい。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2012年11月29日(木)付
国防軍構想―自衛隊でなぜ悪い
自民党が政権公約で、憲法を改正して自衛隊を「国防軍」に位置づけると明記した。
安倍総裁は「外に向かって軍隊、内に向かって自衛隊。こんな詭弁(きべん)はやめようというのが自民党だ」という。
日本の安全保障政策の根幹に関わる問題であり、強い危惧を感じざるを得ない。
国防軍構想は自民党の4月の憲法改正案に盛り込まれた。
自民党作成のQ&Aによると、改正案では、(1)集団的自衛権行使に関する憲法上の制約をはずす(2)国際平和活動における武力行使を可能にする(3)軍法会議である「軍事審判所」も置く、などとしている。
単なる名称の変更にとどまらず、「普通の軍隊」に近づけたいということだろう。
だが、自衛隊は憲法9条の平和主義に基づき、専守防衛に徹し、海外での武力行使を禁じるなど、制約された実力組織として内外に広く認知されている。
この制約を取り払えば、国際社会、とりわけ周辺諸国に「軍の復活」と受けとめられ、不信感を抱かせかねない。
さらに、現在の自衛隊のままで、なぜ期待される役割が果たせないのかも疑問だ。
有事対応や抑止力としての機能はもとより、災害救助などを通じて自衛隊は国民の信頼を得ている。東日本大震災での献身的な活動は記憶に新しい。
国連の平和維持活動(PKO)にも積極的に参加し、その仕事ぶりは各国から高く評価されている。
それを、なぜ変える必要があるのか。
折しも、尖閣諸島や竹島をめぐり、中国や韓国との関係が悪化した。
国防軍をめぐる論争は、タカ派でならす日本維新の会の石原代表らと強い姿勢を競い、「右」の支持層を奪い合っているようにも見える。しかし、内向きの安保論議は、中韓との関係改善には逆行する。
ここで議論を喚起して、安倍氏主導で憲法改正に道を開きたい思惑もあるのだろう。
もっとも、憲法改正の発議には衆参両院の3分の2以上の賛成が必要だ。
国防軍構想には、民主党のみならず、総選挙後に自民党と連立を組む可能性のある公明党も強く反発している。
それらを考えると、果たして現実味のある話といえるのか。
領土をめぐる対立にしろ、沖縄の基地問題にしろ、地に足をつけ、着実に取り組むべきだ。これこそ政治の第一の責任ではないか。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121127/plc12112703200001-n1.htmより、
産経新聞【主張】「国防軍」 平和と安全守るに必要だ 民主党は見解を明確にせよ
2012.11.27 03:19 (1/3ページ)
国の守りを憲法上、どう位置付けるべきか。この本質的な議論を深める契機にすべきだ。
自民党が政権公約で「国防軍」保持を盛り込んだ憲法改正を掲げたことに対し、民主党などが批判していることへの注文である。
問題は、独立国として国家や国民を守るために必要な強い軍隊を保持するという当然のことが戦後、疎(おろそ)かにされてきた点だ。
「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とする憲法9条が、いかに現実から遊離しているか。国際的には軍隊と認められながら国内的には軍隊と認めていない自衛隊とは一体、何なのか。
≪「脅し戦術」は残念だ≫
こうした疑問に対し、各党は見解を示してもらいたい。
今回の論争は、野田佳彦首相が「自衛隊を国防軍と名前を変えて中身が変わるのか」などと指摘し、自民党の安倍晋三総裁が「自衛隊は軍隊でないと詭弁(きべん)を弄するのはやめるべきだ」と反論したことで始まった。
残念なのは、野田首相が「国防軍」に触れ、「大陸間弾道ミサイルを飛ばすような組織にするんですか」などと批判し、軍拡や戦争につながるかのような印象を与えていることだ。有権者を脅かして恐怖心を植え付ける選挙戦術といえなくはないが、議論のすり替えといわざるをえない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121127/plc12112703200001-n2.htmより、
2012.11.27 03:19 (2/3ページ)
民主党の細野豪志政調会長が「自民党の中に、普通の国になって戦争もできるようにするんだという声はある」と主張していることもその一例である。
「自民党が連立を組みたい公明党も理解していないのではないか」という首相の発言には、国防軍や憲法改正に消極的な公明党と自民党との分断を狙う意味合いもあるのだろう。
自民党は、谷垣禎一前総裁時代の4月に憲法改正草案をまとめ、その中で国防軍の保持を明記している。安倍氏が国防軍を打ち出した前提は、憲法改正であることを忘れてはなるまい。
そもそも、野田首相は「私は新憲法制定論者」と自著で語っていたではないか。「強い日本」を掲げる安倍氏に、「タカ派」のレッテルを貼る戦術なら情けない。
安倍氏は国防軍とする理由について、「日本の中では自衛隊は軍隊ではないと答弁している。憲法9条の1項、2項を読めば軍を持てない印象を持つ」と述べた。
一方、武力紛争時の傷病者や捕虜などの保護を定めているジュネーブ条約を挙げて、「政府は(自衛隊が)軍隊としてジュネーブ条約上は認識されているものと思うと答弁する」とし、国際的には軍隊だと認めていると指摘した。
「もし捕虜になったときに、ジュネーブ条約上、軍であればちゃんと待遇される。そうでなければただの殺人者だ」と説明し、「こんな詭弁を弄するのはやめるべきだ」と強調した。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121127/plc12112703200001-n3.htmより、
2012.11.27 03:19 (3/3ページ)
≪集団的自衛権の先行を≫
軍隊がなぜ必要か。日本固有の領土である尖閣諸島の沖で、領海侵犯を繰り返す中国公船が、海上保安庁の巡視船を排除する行動をとる場合を想定してみよう。
領海内での無害でない行動に対し、国連海洋法条約は必要な措置をとることを認めているが、こうした行動は警察権ではなく自衛権の行使とされている。巡視船は退去を呼びかけるしかないのが現状である。自衛艦が自衛権を行使できることを法的に担保することが抑止となって、中国の無謀な行動から日本を守ることになる。
政権与党の民主党は国の守りをどう考えているのか。憲法そのものへの考え方も不明だ。7年前の「憲法提言」の中で、「制約された自衛権について明確にする」などの原則を示したが、具体的な改正方針は決まっていない。
第三極勢力では、日本維新の会の石原慎太郎代表が現行憲法を、「解決しなければならない主要矛盾」と位置付け、同党に合流した旧たちあがれ日本の自主憲法大綱は「自衛軍」保持を謳(うた)っていた。だが、橋下徹代表代行は「名前を変えるのは反対」としている。
憲法改正とは別に、解釈の変更によって可能な集団的自衛権の行使容認という課題もある。
首相は国会答弁で、有識者会議の提言を踏まえて「政府内での議論も詰めていきたい」と行使容認に前向きな見解を示したことがある。公海上での米艦船の防護など具体的な行使のあり方も含め、安倍氏と論じ合ってほしい。
http://mainichi.jp/opinion/news/20121127k0000m070103000c.htmlより、
社説:自民の「国防軍」 名称変更の意図を疑う
毎日新聞 2012年11月27日 02時31分
自民党の「国防軍」設置公約をめぐり、民主、自民両党が激しい応酬を繰り広げている。
自民党は、衆院選の「政権公約」で憲法改正をうたい、「国防軍の設置を規定」と宣言している。
同党は今年4月に決めた「憲法改正草案」で、戦力不保持・交戦権否認を定めた憲法第9条2項の表現を削除し、代わりに「国防軍を保持する」などの項目を設けた。自衛隊を国防軍と明記して位置付け直すのが狙いで、これを公約に盛り込んだということなのだろう。
この公約について野田佳彦首相は「名前を変えて中身が変わるのか。大陸間弾道ミサイルを飛ばす組織にするのか。意味がわからない」と批判した。これに対し、自民党の安倍晋三総裁は「憲法9条を読めば、軍は持てないという印象を持つ。詭弁(きべん)を弄(ろう)するのはやめるべきだ」と反論した。民主、自民両党幹部からも同様の批判や反論が相次いでいる。
自衛隊を国防軍と名称変更する積極的意義は、確かに不明だ。安倍氏は国防軍設置に合わせ、「そのための組織を作り」、武器使用基準など戦闘行動要領を定めた交戦規定(部隊行動基準)を整備すると語った。
しかし、日本の防衛戦略である専守防衛を基本に、現在の交戦規定の一層の充実が必要だというなら、国防軍に名称変更しなくても対応できる。そして、国際社会では自衛隊はすでに軍隊と認識されている。
1954年に設置された自衛隊は、侵略戦争の経験を踏まえてあえて「軍」の表現を避けて名付けられた。「軍」の復活はかつて日本が侵略したアジア諸国に、よけいな反発を呼び起こしかねない。
名称変更には、その先に、他国並みの軍隊に衣替えしようという意図があるのかもしれない。日本は今、自衛権行使についても限定的に解釈している。もし、改憲による国防軍設置によって、専守防衛の原則を取り払い、自衛隊の攻撃能力を向上させることを目指しているとすれば、重大な戦略・政策の変更となる。
こうした疑念が湧くのも、安倍氏が自民党「タカ派」の代表格と見られているからである。
国防軍構想には他の党からも批判が出ている。自民党が選挙の支援を受け、衆院選後の連立相手に想定している公明党の山口那津男代表は「定着している自衛隊という名称を変える必要はない」と述べた。日本維新の会の橋下徹代表代行も「(自衛隊の)名前を変えるのは反対だ」と語った。
かつて自民党は「自衛軍」を提唱したことがある。「軍」に執着があるようだ。今回の安倍氏らの正確な意図は不明だが、単純な名称変更なら、それこそ必要ない。