時代の風:超巨大加速器 増田寛也氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130203ddm002070094000c.htmlより、
時代の風:超巨大加速器=前岩手県知事・増田寛也
毎日新聞 2013年02月03日 東京朝刊

 ◇科学技術立国の拠点に
 スイスのジュネーブ郊外に世界から1万人の研究者が集まるCERN(欧州合同原子核研究所)と呼ばれる研究所がある。円形で山手線と同じ周長27キロにおよぶ世界最大の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を持ち、昨年、「ヒッグス粒子と見られる新粒子が確認された」と発表して世界中で大ニュースとなったあの研究所である。私も昨年、視察する機会があった。
 ヒッグス粒子の発見により人類は一歩、宇宙の謎に近づいたが、それでも宇宙を構成する物質は4%しか解明できていないという。さらなる研究のためには、LHCを上回る性能の次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」が必要となる。ILCはその名の通り直線の加速器で、花こう岩層地下100メートルに全長30キロのトンネルを掘り超電導加速器を配置する。衝突精度はナノ・レベルで、電子と陽電子を衝突させ宇宙の始まりから1兆分の1秒を再現し、ダークマターと呼ばれる未知の粒子の発見が期待されている。
 ILCは、建設期間10年、総額8000億円(うちホスト国負担50%程度)のビッグ・プロジェクトで、以前から日米欧の科学者が協力し、世界に一つだけ建設する計画で検討が進められてきた。昨年12月には国際チームによる技術設計が完了し、いよいよ建設に向けた調整に入る。世界の研究者の間では、素粒子物理学の分野で湯川秀樹博士以来何人ものノーベル賞受賞者による優れた研究実績があり、高い技術力を持つ日本での建設が期待されている。地質調査から、岩手県の北上山地と福岡・佐賀県境の脊振(せふり)山地の2カ所が具体的な候補地として既に挙げられている。
 ILCの日本での立地の意義は、基礎科学の研究分野にとどまらない。医療では、PET(陽電子放射断層撮影装置)やがん治療装置、タミフルなどの創薬に利用され、東京大学の試算では、日本の工業製品分野300兆円のうち70兆円の分野で加速器技術が応用されている。ILCをコアに加速器関連産業を集約し、自動車産業と並ぶ中核産業への発展が期待できる。また、加速器を使い、10万年といわれる放射性廃棄物の半減期を数百年単位に短縮する研究も進んでいる。実現されれば福島第1原発の処理のあり方も大きく変わる。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130203ddm002070094000c2.htmlより、
 さらに、ILCの立地地域には、世界から第一線の科学者5000人、家族を含め1万人が来日しアジア初の国際科学イノベーション拠点ができる。地方には人材がいない、足りないという声をよく耳にするが、知識レベルも所得も高いこの人たちを地域の一員として迎え、地域のイノベーションの原動力としたり、地域の若者が国際的な活動に触れることにより、将来世界で活躍できる人材を輩出したりすることにもつながる。私は岩手県知事就任以来ILCに関わってきたが、科学技術こそ日本を救う道で、ILCの日本での実現はその大きな試金石であると考えている。
 ILCを実現し、日本が科学技術創造立国の道を歩んでいくには、今後、次の点が重要である。昨年、CERNで会談したロルフ・ホイヤー所長は、ILC実現の日本への期待とともに、ILCは各国が平等な立場でガバナンスに参画する「グローバルプロジェクト」でなければならない、と指摘した。
 これまでの日本の国際プロジェクトは、日本一国主導のナショナルプロジェクトとして進め、後から諸外国を取り込むものが多かった。結果として諸外国のコミットメントは小さく、日本の投資が縮小すれば外国も手を引くという結果を招いてきた。そのような名ばかりの国際プロジェクトでは成功しない。国際公共財(グローバルコモンズ)として、諸外国が建設や運営に責任を持って参加する体制を築く必要がある。日本が国内事情を過度に優先したり、縦割り行政で物事を決めたりするのではなく、日本として、新たに国際プロジェクトの主導方法を確立していく必要があり、これによって日本は科学技術外交を通じてアジアで主導的な地位を築くことができるだろう。
 もう一点は、科学技術と政策や政治をつなぐ仕組みの再構築である。従来、科学者が狭い領域に没頭し成果を社会に発信せず、政治や社会の側も科学者に期待をはっきりと伝える回路が不十分なきらいがあった。今後は科学技術政策のみならず、エネルギー、環境、産業分野などの国家政策全般にわたって中立で正当な科学的知識を活用して、客観的、科学的根拠に基づく合理的プロセスにより、政治が判断する仕組みが不可欠である。総合科学技術会議の見直しを検討した有識者会議が省庁の壁を越えた司令塔、国際的な視点で首相に助言する科学技術顧問、それを支えるシンクタンク機能を提言しているのも大いに参考になる。
 福島原発事故で、残念ながら日本の科学技術や科学者への信頼は大きくゆらいだ。今こそ、科学者にはこれを乗り越える気概と覚悟が求められている。=毎週日曜日に掲載

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