週のはじめに考える 「異端」から見る欧州像

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013020302000099.htmlより、
東京新聞【社説】週のはじめに考える 「異端」から見る欧州像
2013年2月3日

 キャメロン英首相が行った欧州連合(EU)に関する演説は、「二つの欧州像」を際立たせました。英EU離脱論の波紋はどう収拾するのでしょうか。
 「英国と欧州の関係について話をせよ、と私を招待した勇気を称(たた)えたい。平和的共存の美徳についてチンギスハンに講演を依頼するようなものでしょうから」
 反EU的な言動で知られたサッチャー元英首相がかつてベルギー・ブリュージュで行った演説冒頭のジョークは、今でも語り草になっています。

◆英国の異議申し立て
 先達に倣ったのでしょうか、キャメロン首相が先月ロンドンで行ったEU演説も、ドイツ、フランスなど大陸欧州諸国の神経を逆なでするに十分なものでした。
 「単一市場が目標だったEUは、英国民の声が反映されない間に変容してしまった。オープンで多様性を尊び、競争力に溢(あふ)れる欧州に戻すため、基本条約改正の交渉を行い、その上でEUに留(とど)まるか離脱するかの国民投票を行う」
 キャメロン首相は、競争力や民主的プロセスなど、EUの問題点を列挙しながら「ユーロは今後も導入しない」「EUに移譲された主権を国民国家の側に戻す」「英国にとってEUは目的ではない。あくまで繁栄、安定、自由、民主主義といった目的を達成する手段だ」と、英国として譲れない一線を次々に掲げました。
 「EUを危険に晒(さら)すのは、変化を主張する者ではなく、新しい考えを異端視する者の方だ。欧州では歴史上、問題の核心を突く異端者がしばしば現れてきた」
 ユーロ危機以来、統合を加速させるEUに対し、自らを異端者になぞらえてまで異議申し立てをした背景には、一昨年、独仏が軸となって纏(まと)めたユーロ救済制度を拒否して以来深まる英国の孤立感が見え隠れしています。

◆「二つの欧州」の宿命
 英国と大陸欧州は、地政学的に不即不離の宿命を抱えています。ナポレオンやヒトラーの例を待つまでもなく糾(あざな)える関係は欧州史に深い陰翳(いんえい)を刻んできました。
 統合が本格化した第二次大戦以降、「二つの欧州」の距離感はスイス・チューリヒで独仏和解を訴えたチャーチル元首相の演説に既に表れています。チャーチルはクーデンホーフ・カレルギー伯の汎(はん)ヨーロッパ運動などを引用し、独仏和解下の「欧州合衆国」の必要性を提案しましたが、米国とともに戦勝国となった英国は念頭に置かれていませんでした。
 ベルリンの壁崩壊の前年に行われたサッチャー氏によるブリュージュ演説は、「英国は欧州共同体(EC)の周縁で孤立することなど夢想していない」と述べながら、あくまで独立した主権国家の有志による協力関係が前提、と強調しました。「共同体は自己目的ではない」との一節は、キャメロン演説と重なります。
 冷戦が終結して二十年余。英米両国による支配的な国際的影響力はすでになく、中国、インドをはじめ新興諸大国が勢力を競うグローバル時代です。個々の欧州国の影響力は減退する一方、という現実は、大陸欧州も島国欧州も認めざるをえません。
 大陸欧州からすれば、だからこそ、の統合促進です。銀行同盟、財政統合から政治統合までをも視野に入れた議論は、ユーロ危機を繰り返さないため避けて通れない道です。「欧州には単一のデモス(民)は存在しない。民主的正統性と責任を担える唯一の源泉は各国議会だ」というキャメロン首相とは基本的に相いれません。
 二つの際立った理念の対立は、政府のあり方をめぐって二つの国家観がぶつかった昨年の米大統領選挙を髣髴(ほうふつ)させます。欧州の将来像をめぐり何かと対比される米合衆国ですが、激しい選挙戦の末、米国民は保守派から「欧州型大統領」とも批判されたオバマ大統領の下で国家再建を図る決断を下しました。欧米の価値観を維持しながらの競争力回復は、欧米共通の課題です。

◆「欧州の民」と歩むのか
 欧州では、ギリシャに始まって昨年のフランス、オランダまで、数々の政権選択選挙がありましたが、左右両極からの激しい反EU批判にもかかわらず、EU離脱を掲げる政権を選択した国はありません。苦渋の選択を通し、「欧州の民」の声が聞こえるようです。
 キャメロン首相は「英国の懸念が聞き入れられなければ、英国民は離脱に向かうだろう」と警告しつつ「私はそれを望まない。私はEUの成功、英国を維持するようなEUと英国との関係を望んでいる」とも明言しています。
 英国の国民投票は早くて再来年以降です。大陸欧州とともに「欧州の民」への道を歩むか否か。英国は自ら高いハードルを掲げたことになります。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年2月2日(土)付
英国とEU―きしむ政治と経済

 欧州連合(EU)から英国が脱退すべきか否か。その是非を問う国民投票を5年以内に実施すると、キャメロン英首相が宣言した。
 背景には、脱退を求める国民世論の広がりがある。だが、首相演説から見えてくるのは、この国の抱える矛盾と苦悩にほかならない。
 EUの加盟国は27カ国、総人口は5億人。半世紀余りに及ぶ欧州統合の取り組みで、共通政策は対外通商から農業、外交・安全保障まで広がった。
 日本から見れば、英国は欧州統合の真ん中にいるように見えるが、実はそうではない。
 EUの共通通貨ユーロは英国では使えない。ドーバー海峡を越えて英国に入る時には、パスポートが必要だ。国民も欧州統合への違和感を伝統的に抱えている。
 キャメロン氏は、英国はEUに残留すべきだとする一方、EUはあまりに課題が多いとも語っている。
 暮らしや仕事にかかわる規制や法律が、国民に知らされないままEU官僚の手で決まる「民主主義の赤字」への国民の不満は強い。経済競争力の強化やユーロ危機からの克服策も不十分なままだ。
 そうした弱点を、フランスやドイツは銀行監督の一元化や財政協調など一層の連携強化で克服しようとしている。
 英国はこうした動きにも抵抗しており、逆に、労働時間や環境の規制、司法分野の主権をEUから取り戻そうとしている。
 首相演説には、2年後の総選挙に向けて、反EU派の多い保守党の結束を保つ狙いがあるといわれる。
 同時に、ギリシャに端を発する債務危機でEU不信を募らせる国民に向けたメッセージであることも間違いない。
 もちろん、英国内にも産業界やエリート層を中心に脱退に反対する意見もある。経済への影響を懸念するからだ。
 グローバル経済のもとでは、競争力の回復も、財政再建や失業対策も、一国で克服するのは難しい。脱退となれば、英国の金融や輸出産業は大きなダメージを受ける――。
 英国民がこうしたリスクを覚悟するなら、脱退もひとつの選択肢かもしれない。
 日本にとっても、ひとごとでは済まない。
 グローバル化のもとでの政治と経済の相克という意味で、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加問題も、同じ根っこを抱えているからだ。
 英国の選択を注目したい。

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