学校内虐待 「障害児の悲鳴を聞け」
http://mainichi.jp/opinion/news/20130205k0000m070132000c.htmlより、
社説:学校内虐待 障害児の悲鳴を聞け
毎日新聞 2013年02月05日 02時30分
頭をこづく、襟首を持って引きずり回す、床にたたき付ける、罵声を浴びせる。障害のある児童・生徒に対する先生の虐待を最近よく耳にする。まさか、と思われるかもしれないが、どこでも虐待は起こり得る。学校だけが例外であるわけがない。
障害者虐待防止法が昨年施行され、連日のように各地の市町村に相談や通報が寄せられている。ところが、同法で定められた調査対象は「家庭」「福祉現場」「雇用現場」だけで、「学校」「病院」は直接調査に入ることができない。文部科学省や医療関係者が反対したからだ。
しかし、障害者の親の会を対象にした調査では、家庭や福祉現場よりも学校での虐待件数の方が多かった。人手不足もたしかだが、福祉現場も人手は足りない。むしろ、密室化した教室で力ずくの指導、感情に任せた叱責がまかり通っているとの声を現場の先生たち自身から聞く。教員資格は持っていても障害特有の心理や行動特性は意外に知らない先生が多いというのだ。障害者の人権に関する法整備が進み、行動障害に関する認識や対処方法も開発されてきた。そうしたことに関心を持たない無知や独善も虐待を生む一因となっているのかもしれない。
虐待防止法が施行されてから、福祉現場の管理者や職員に対する研修は盛んに行われるようになった。地域によって温度差はあるが、大阪府では専門のスーパーバイザーを60人養成し福祉現場に派遣して支援技術を向上させ虐待リスクを低減させる職場の構築に努めている。そうした改善に向けた取り組みの流れから外れているのが学校だ。
同法では学校と病院の管理者に虐待の予防改善義務が課せられた。心を痛めて孤軍奮闘している先生もいる。心理や福祉の専門職の協力も得て学校現場を改善すべきだ。
一方、国連障害者権利条約を批准するために国内法の見直しが現在行われている。中央教育審議会は昨年、「インクルーシブ(包摂的)教育」の推進や障害特性に合った合理的配慮を学校現場に導入する報告書をまとめた。障害のある子もない子も同じ場所で学ぶことを原則とするのだが、現在そうした統合教育に積極的な学校も発達障害などの特性に配慮が足りず、専門職を含めた人員不足もあって、子どもがストレスで2次障害を起こし福祉現場に救いを求めてくるケースが後を絶たない。
インクルーシブ教育が大事なのは当然である。しかし、学校が今のままではつぶれる子が続出するのではないか。悲鳴すら上げられず自らを傷つけている障害児を見てほしい。子どもが言わないため、先生たちは原因を知らないだけだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012122202000132.htmlより、
東京新聞【社説】児童養護施設 育ちの場に「家庭」を
2012年12月22日
親と離れた子が暮らす児童養護施設が家庭的な場となるよう、国は集団生活型から小規模型への改修を計画している。養育上の困難を抱えた子が増えている。職員を増やさないと掛け声倒れになる。
小規模施設の先行例がある。埼玉県加須市の「光の子どもの家」。敷地にいくつもの「家」が建てられ、四十五人の子どもが「家族」と見なされたグループに分かれて暮らす。同じ職員が親のように養育を受け持ち、眠る時には本を読み聞かせる。食事も家庭ごとに。日々の営みは実の親との関係が壊れた子にとって、再び人間関係を築くための大切な時間だ。職員は子どもにとって「自分のためにいる愛着を受け止めてくれる人」となるからだ。
こうしたきめ細かな事業を行うには人手が必要だ。だが、国の職員配置基準は三十年前から変わらない。「職員一人に対し、子ども六人」。諸外国に比べて低い水準だ。このため、子どもの家では「職員一人でほぼ四人」となるよう、バザーなどを続けて、加配分の人件費を捻出してきた。
児童養護施設を小規模型に作り替えるという議論は十年前、増え続ける虐待の合わせ鏡として始まった。施設は全国に五百七十九カ所、その七割は二十人以上の集団生活型だ。約三万人が保護されているが、半数以上は親から虐待を受けた子。核家族時代に養育できない親が増え、その連鎖がまた虐待を生む。児童相談所に通告された虐待は年間六万件だが、施設に保護されるケースは一割しかない。施設が常に満杯だからだ。
家庭でより深刻な問題を抱えた子が選ばれるようにして入ってくるのに、脆弱(ぜいじゃく)な職員体制では一人一人に向き合えない。厚生労働省もやっと来年度予算要求に施設小規模化の整備費を盛り込んだ。だが、改修に数千万から数億円がかかる。二の足を踏む施設も多い。
大人数の雑居部屋で子どもたちは安らげず、いじめも深刻という。職員による虐待もある。国は法改正で施設内の虐待対策を講じてきたというが、昨年度は四十六件が報告された。職員の資質だけでなく、人手不足や居住環境の悪さも遠因となっている。
施設は原則十八歳で退所しなくてはならない「十八歳の壁」もある。ケアを必要とする子は社会の姿を映す。里親制度の拡充も含めすべての子どもの発達を保障できる方策が急がれる。自分で声を上げられない子を犠牲にしてはならない。