記者の目:「水俣条約」誕生 比嘉洋氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130205k0000m070135000c.htmlより、
記者の目:「水俣条約」誕生=比嘉洋
毎日新聞 2013年02月05日 01時23分

 ◇水銀の排出基準値導入を
 水銀による環境汚染や健康被害の防止を目指す「水俣条約」が、スイス・ジュネーブで開かれた国連の政府間交渉で誕生した。有害な水銀を産出から利用、廃棄まで包括的に規制しようとする画期的な試みだ。ただ、これから始まる各国の取り組み次第では実効性が失われかねない。水俣病を経験した日本は「脱・水銀」で世界の模範となるべく、大気に排出される水銀の量を規制する基準値の導入を検討してはどうだろうか。

 ◇広がる大気汚染削減は努力目標
 1月19日午前7時(現地時間)、徹夜の交渉が決着した。ウルグアイのルグリス議長が最終合意を伝える木づちを打ち鳴らすと、約150カ国の政府代表団から一斉に拍手がわいた。閉幕と同時に鳴り響く英国の人気バンド「クイーン」の「ウィー・アー・ザ・チャンピオン」。会場を包む高揚感を肌で感じた。
 しかし、南太平洋クック諸島から来た環境NGOのイモゲン・イングラム氏は閉幕後、「この条約では住民の健康は守れない」と表情を曇らせた。条約による規制だけでは、大気への排出量を十分削減できるか心配だという。大気に漂う水銀は海に降り注ぎ、魚などの海洋生物に蓄積されて島民の胃袋に入る。
 国連環境計画(UNEP)によると、2010年に人間が大気中に排出した水銀は推定1960トン。90年以降、ほぼ横ばいだ。南シナ海に暮らす海鳥の卵の殻に含まれる水銀の量を700年さかのぼって調べた結果、00年以降は産業革命前の10倍に上った。人間の活動が水銀汚染を深刻化させており、UNEPは「状況が改善されなければ排出量は増え続ける」という。
 排出量の半分は、火力発電所や金属製錬所、ごみ処理場から出ている。石炭を燃やすことで、内部にある水銀が蒸発し大気に排出される。水銀を含んだごみの焼却も同様だ。条約はこれらの施設を対象に、排出削減のための最新技術や新たな環境対策を導入するよう、締約国に義務づけることを求めた。
 ところが、排出削減の鍵となる基準値の導入は「努力目標」となった。これでは、個別に削減努力をしても、その効果を客観的に検証できない。経済成長を優先する新興国や途上国に、コスト増につながる水銀削減を怠る「抜け穴」を許すことになりかねない。イングラム氏の心配の種はここにある。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130205k0000m070135000c2.htmlより、
 ジュネーブでの取材中にも、それを実感する出来事があった。閉幕前日、18日の交渉だ。条約順守を審査する委員会創設について議論する中で中国が突然「途上国が十分な資金援助を得られないために義務を果たせない場合は、順守していないことにはならない」との条文を盛り込むよう提案し、ブラジルやボリビア、インドなどが賛同した。日米欧などが猛反発し結果的に提案は退けられたが、妥協案として「途上国の取り組みは、効果的な資金援助と関連している」との一文が盛り込まれた。中国は世界最大の水銀排出国だ。今後、新興国や途上国がこの条文を盾に不履行を正当化する可能性がある。
 日本も現在、施設ごとの大気への排出基準値を設けていない。「水銀による大気汚染は起きていない」というのが理由だ。国内では水銀による大気汚染について「大気1立方メートル当たり40ナノグラム(ナノは10億分の1)」という指針値を設け、全国293地点で毎月計測している。実際、98年度の測定開始以降一度も指針値を超えていないという。
 だが指針値は、個別の火力発電所や金属製錬所、ごみ処理場からの排出量を規制するものではない。東京23区は86年、施設ごとの基準値(大気1立方メートル当たり0.05ミリグラム)を独自に設けたが、焼却炉を停止するような基準値超えが10年6月以降だけで11回もあった。環境省によると、ほかに自主的な基準値を設けているのは大阪や埼玉など5府県と大津市のみだ。水銀の排出問題に詳しい愛媛大の貴田晶子客員教授は「東京都は基準値があるから基準超えを監視できるが、ない自治体ではそのまま大気に放出されている」と指摘する。

 ◇日本の取り組み世界リードせよ
 日本は条約ができた今こそ国全体で基準値を導入し、大気への排出を徹底的に監視する姿勢を示すべきだ。自らが導入していればこそ、相手にも求めることができる。
 日本は条約交渉前から電池の製造や化学工業などの分野で「脱・水銀」や「無水銀化」を積極的に進めてきた実績がある。前文に込められた「水俣病を世界で再び繰り返さない」という思いは、どこよりも強いはずだ。条約の義務を果たすことだけに満足するのではなく、世界の「脱・水銀」をリードしてほしい。(東京科学環境部)

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