アルジェリア人質事件を考える 秋山信一氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130207k0000m070118000c.htmlより、
記者の目:アルジェリア人質事件を考える=秋山信一
毎日新聞 2013年02月07日 00時25分

 ◇日本がテロと向き合う機会に
 アルジェリアで起きたイスラム武装勢力による人質テロ事件は、日本人10人を含む人質ら約40人が犠牲になる惨事となった。日本では軍の強硬策に批判があるが、アルジェリアで私が聞いたのは、早期に制圧した軍を強く支持する声ばかりだった。日本との差は、20年以上もテロに悩まされてきた歴史に起因する。人質事件を機に、アルジェリアの苦しみを知り、どうテロと向き合っていくかを考える機会にしたいと思っている。

 ◇軍の強硬策に反対意見なく
 今回の事件で一番納得できないのは、発生翌日に政府軍が、施設内を移動中の武装勢力の車をヘリコプターで空爆したことだ。目撃者によると、多数の人質が手足を拘束され、車に乗せられていた。それでも狙う必要があったのか疑問だ。目撃者が撮影した写真には、炎上した車と共に遺体も映っていた。日本人の一部も空爆の犠牲になった可能性がある。
 しかし軍の強硬策について、アルジェリア市民約50人に聞いたが、反対意見は皆無だった。「テロリストが悪い。軍はよくやった」「多少の犠牲はつきものだ」という意見が多かった。権力を握る軍を批判しにくいという国情があるにせよ、極端だと感じた。
 アルジェリア人の気持ちを知るヒントをくれたのは、NGO「テロ犠牲者の会」代表、ファトマ・ザハラ・フリーシーさん(55)だった。93年に医師の夫をテロで亡くした。「宗教を政治に持ち込むな」と訴えていた夫を憎むイスラム過激派の犯行だった。「遺族が悲しみを分かち合う場所を作りたい」と93年12月に犠牲者の会を設立し、これまで約8万人を支援してきた。
 テロの痛みを知るフリーシーさんなら違う意見を持っていると期待した。だが眉間(みけん)にしわを寄せ、「軍の作戦は成功よ。日本が人質の犠牲を理由に騒ぎ立てるのが理解できない」と強い口調で言った。
 その時、私の脳裏には、日本で取材した殺人事件や交通事故の被害者遺族の顔が浮かんだ。悲しみの中で「犯人に死刑を」と強く願っていた。「死刑でないなら、私が犯人を殺したい」とまで言う遺族もいた。深い悲しみと強い怒りが入りまじった感情は、フリーシーさんにも共通する。彼女は犯人だけでなく、テロ全体を憎んでいると感じた。
 もう一つ、アルジェリアの痛みを感じた取材があった。97年9月、アルジェ近郊のベンタルハ村で住民の1割超の約400人が一夜で武装集団に殺害される事件が起きた。直後から村で約1200人の子供のカウンセリングを始めたNGO「ハヤーティ」では、まず自由に絵を描かせた。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130207k0000m070118000c2.htmlより、
 実際に絵を見たが、大半は黒で虐殺の様子を描いていた。色は乏しく、首の周りに血を示す赤が際立つ。「復讐(ふくしゅう)するため、警察や軍に入りたがる子が多かった」と心理士のナディアさん(40)は振り返る。銃で相手を倒す「警察対テロリスト」ごっこが、子供たちの間ではやっていた。3〜4年後、子供たちに改めて自由に描いてもらうと、のどかな自然や楽しげな家族の姿を明るいタッチで描写し、回復がうかがえたが、まだ虐殺の絵を描く子供もいた。
 アルジェリアでは92年に政府とイスラム過激派の内戦が始まり、約20万人が死亡したとされる。だが、強硬策一辺倒できたわけではない。99年就任のブーテフリカ大統領は、虐殺や強姦(ごうかん)への関与者を除き、投降すれば恩赦を与える方針をとり、テロを減らした。
 一方で、和解に応じない場合は強硬策をとり続けている。今回の事件でも、軍は投降を呼びかけたが、武装勢力が拒否すると強硬策を貫いた。さらに、過激派が外国人の人質事件で得た身代金で武器や要員を調達し、テロを起こすケースもあり、妥協が次なるテロを生むという考えは強い。
 アルジェリアは強硬策と和解策の間で揺れてきた。その中でテロへの憎悪が蓄積されてきたため、今回も市民は軍をたたえるのだと思う。

 ◇重要な教育や雇用、貧困対策
 だが、悲しみを憎しみに転化させるだけでは、問題は解決しない。心理士のナディアさんは、テロで心に傷を抱えた子供について「テロの記憶は消えない。それでも復讐心を捨て、普通に生きてほしい」と言った。実際にそうできるのは半数だとも語った。
 ナディアさんの言葉は社会全体にも当てはまる。治安強化だけでなく、若者がテロ組織に流れないように教育や雇用、貧困などの対策も重要だろう。特効薬がないことは、アルジェリアの歴史が示している。それでも何が必要なのか、今後も考え続けたい。(カイロ支局)

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