スー・チーさん 「人権忘れていませんか」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013020802000122.htmlより、
東京新聞【社説】スー・チーさん 人権忘れていませんか
2013年2月8日
東南アジア諸国連合(ASEAN)の成長性に期待が集まっている。その中で気掛かりなのは、民主化を引っ張ってきたアウン・サン・スー・チーさんの人権擁護の舌鋒(ぜっぽう)にかげりが見えることだ。
異例のスー・チーさん批判は世界を驚かせた。ニューヨークに本部を置く国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチが「少数民族の人権保護に消極的で失望している」と、率直に表明した。
確かに、民主化運動の旗手として、新生ミャンマーの大きな原動力になったスー・チーさんらしからぬ言動がこのところ続いた。
北部カチン州では政府と少数民族武装勢力の戦闘が続くが、スー・チーさんは「政府が対処する問題だ」と突き放した。西部ではイスラム教徒と仏教徒の衝突で多数の死傷者が出ているが、指導力発揮には消極的だった。
昨年、連邦議員に当選し、少数民族保護を最優先課題の一つに掲げたことを忘れないでほしい。
ミャンマー政府は、集会やデモを禁じた軍政時代の法律を廃止し、報道検閲もやめる姿勢だ。
こうした民主化の動きを決して後戻りさせないよう、ノーベル平和賞を受けたスー・チーさんには、特に人権を守ることで指導力を発揮してほしい。
ASEAN全体に目を向ければ、新たな成長地域として、その元気さが際立っている。
アジア開発銀行は昨年末、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムの成長率見通しを5・9%と、二カ月前に比べ0・3ポイント上方修正した。
消費意欲が強い中間所得層が増えて内需が拡大し、安定した成長が見込まれるのが強みだ。
地域の大国インドネシアは、ユドヨノ政権の改革路線で、雇用や物価の安定に成功した。
多くの国に選挙で政権が交代する民主化が根づいてきたのは心強い。政治リスクの高い中国から拠点をシフトさせる企業も多い。
安倍晋三首相がASEANとの友好協力四十周年の年頭に、初の外遊先としてこの地域を選び、近隣の国々と信頼関係を再確認したことは歓迎できる。
スー・チーさんに話を戻せば、大統領になることに意欲を示し始めたという。そのための現実路線への転換なのかもしれない。
だが、平等と公正は民主主義の核心である。スー・チーさんの発言がかげることには、やはり憂慮を禁じ得ない。