原発新安全基準 「猶予期間」は不要

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO51548770Y3A200C1EA1000/より、
日経新聞 社説 原発の安全を着実に高め再稼働に生かせ
2013/2/9付

 原子力規制委員会は原子力発電所の新安全基準の骨子案を公表した。炉心溶融など深刻な事故への対応策を手厚くし、想定外の自然災害やテロ攻撃にも耐えるよう安全設備を多重化する。活断層の真上に重要設備を置かないルールも明確化した。
 要求が過大だとの意見も電力業界にはあるが、東京電力福島第1原発事故の教訓を踏まえ、日本が世界有数の地震国であることを考え合わせれば安全基準の厳格化は避けられない。
 基準を満たすには原発の設備の大規模な改修が必要となる。原発を保有する電力9社合計で約1兆円の費用がかかるともされる。
 しかし放射能を除去するフィルター付きベント(排気)装置や電源ケーブルの不燃化などの対策は欧米ではとうに実施済みの国がある。日本の電力会社はこれらの対策を先送りしてきた。「世界最高水準の安全」の実現には必要な投資といえる。
 ただ新基準が求める設備のなかには完成まで3~5年かかるものがある。例えば主にテロ対策として原子炉建屋から離れた場所に設ける「第2制御室」がそうだ。
 すべてがそろうまで原発を再稼働させないとなると、運転停止が長期に及び、電力会社の経営に深刻な打撃を与える。加えて電気料金の上昇や化石燃料の輸入増加が止まらない。国民生活や産業活動への悪影響も広がる。
 安全性を高めることは何より大事だ。その一方で設備によっては必ずしも再稼働の前提条件にせず、完成まで猶予期間を設ける道も開くべきだ。
 事故を二度と繰り返さないため再稼働時に必要不可欠な設備は何か。少し待ってもそれほど大きなリスクをもたらさないものは何か。専門家がよく議論して判断してほしい。無論、なし崩しの再稼働を避けるため猶予の根拠はしっかり説明する必要がある。
 骨子案作りの過程では様々な異論も出た。活断層を判定するにあたり40万年前の古い地層まで遡ってみる必要があるのかという議論はその一例だ。規制委は骨子案への意見を広く募り、4月ころにより具体的な基準案としてまとめる予定だ。米仏の規制機関にも説明するという。
 6日に国会で答弁した田中俊一委員長は「多様な意見を聞き独善的にならないよう留意する」と話した。ぜひそうあってほしい。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013020702000159.htmlより、
東京新聞【社説】原発新基準 “退場”迫る根拠にしよう
2013年2月7日

 原子力規制委員会が、原発の新たな規制基準の骨子案を決めた。七月までに詳細を詰める。勘違いしていけないのは、基準は再稼働のためではなく、危ない原発を排除するのが目的ということだ。
 思い出してみよう。東京電力福島原発事故を検証した国会事故調査委員会の報告書はこう断じた。
 「組織的、制度的な問題が、このような『人災』を引き起こした。この根本原因の解決なくして再発防止は不可能である」
 組織の問題とともに法的、制度的な欠陥、すなわち津波や過酷事故につながる電源喪失への備えといった最も重要な対策が、曖昧なまま放置されたことが根本原因と指弾したのだ。
 フクシマの反省に立てば、電力会社の自主的な取り組みに委ねていた安全対策を、法律で義務化する今回の規制基準は必然だった。 ただ、新基準はあくまでも「最低限の備え」であって、これを満たしさえすれば安全が約束されるものではない。原発再稼働を急ぎたい自民党内には、新基準が“再稼働の免罪符”と受け取る向きもあるが、そうであってはならない。基準を厳格に運用すれば、再稼働は容易ではないはずだ。
 例えば、放射性物質をこし取るフィルター付きベント(排気)設備や免震重要棟のような「緊急時対策所」はほとんどの原発で整備されていない。燃えない素材を義務づけられた電気ケーブルにしても、原子炉内で総延長数千キロになるといわれ、交換には年単位の作業となるとみられる。
 活断層の調査も、従来の「過去十三万年」以降から必要に応じて「過去四十万年」に広がり、断層上の重要設備の設置を禁止するなどハードルは高まる。新基準は、既存の原発施設にも反映させる「バックフィット」制を義務づけるので、稼働中の大飯原発3、4号機も停止は避けられない。
 費用は一発電所当たり数百億円とも予想される。コストや時間を考えれば「割が合わない」とみるのが普通だ。しかも、いくら対策を重ねても原発が抱えるリスクはゼロにならないのである。
 懸念されるのが、規制委が可能性を示した「猶予期間」である。緊急時対策所などの整備には猶予期間を設ける方針だが、そうするのであれば代替の安全対策とセットでなければ許すべきではない。
 猶予が乱発され、基準が骨抜きともなってしまえば、それこそフクシマの元凶だった「規制の虜(とりこ)」の再現である。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年2月1日(金)付
原発安全基準―「これでよし」ではない

 原発の過酷事故に備えた新しい安全基準案を、原子力規制委員会がまとめた。
 これまでは安全神話のもと、電力会社の自主的な取り組みにゆだねてきたが、「事故は起きる」ことを前提に法律で義務化する。先日公表された地震・津波対策とあわせ、7月までに詳細を詰める。
 安倍政権は「安全性が確認された原発は動かす」方針だが、発想が逆だろう。危ない原発、動かさない原発を仕分ける基準として位置づけるべきだ。
 過酷事故への対策には、欧米各国でとられている主な規制を盛り込んだ。完全に実施されれば、原発の安全性が向上するのは確かだ。
 ただ、建設や整備に時間がかかるものもある。このため、一部については猶予期間を設ける方針だ。
 電力各社は火力発電の燃料費が経営を圧迫しており、再稼働を急ぎたがっている。猶予期間も条件もできるだけ緩くしてほしいというのが本音だ。
 しかし、ずるずると対応が遅れることがあってはならない。少なくとも、免震や自家発電の機能をもつ「緊急時対策所」の設置などは、再稼働の必須条件とすべきだ。
 改正した原子炉等規制法は、過去に建設した原発であっても最新の安全策を反映させる「バックフィット」を義務づけた。
 今後、原発に関わる新たな知見が出るたびに、すべての原発は新たな安全基準への対応を求められる。猶予期間の有無にかかわらず、「これでよし」は訪れない。
 当然、費用もかかる。だが、「料金の値上げで回収すればいい」「減価償却が終わるまで原発の寿命を延ばせばいい」といった従来型の発想は、もはや許されない。
 古い設計思想に基づいた原発を放置しないためにも、規制委は運転期間の40年制限を厳格に適用しなければならない。
 かかった経費を料金に転嫁できる「総括原価方式」の見直しなど、電力改革も政府が着実に進める必要がある。
 そうすれば、電力会社自ら、「安全投資か廃炉か」の経営判断もしやすくなる。
 いくら安全対策を講じても、原発が抱えるリスクはゼロにはならない。なにより、使用済み核燃料や高レベル廃棄物の処分策が決まっていない。使用済み燃料をどこに保管し、最終処分場をどう確保するのか。
 こうした点を考えれば、おのずと動かせる原発は限定されてくるはずだ。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130201/plc13020103150005-n1.htmより、
産経新聞【主張】原発安全基準 円滑な再稼働につなげよ
2013.2.1 03:15

 東京電力福島第1原子力発電所の炉心溶融事故と水素爆発事故を教訓として、各電力会社が再発防止のために講じるべき改善策を列挙した原発の新安全基準の骨子案が、原子力規制委員会によって公表された。
 津波や地震といった自然災害とともに、火災や航空機事故、テロなど人為災害に対する原発の抜本強化策が盛り込まれている。
 地震列島である日本の地理的条件や、テロリズムの国際的拡散といった風潮にも対応し、安全性の積み上げに貢献する基準となることを期待したい。
 さまざまな想定外に起因する過酷事故でも安全性を失うことがないようにするため、新基準が求める対策は多岐にわたる。
 原発の中央制御室が使えなくなった場合のバックアップ用として、原子炉建屋から離れた場所に第2制御室を建造することもその一例だ。各原発で起こり得る最大級の津波を想定し、重要設備を浸水から守るための防潮堤の設置も要求している。
 火災対策も強化され、電気系統のケーブル類も燃えにくい素材に交換することが必要だ。重大事故時に格納容器内の圧力を下げるために排気しても放射性物質を外に出さないフィルター付きベント装置の設置も義務づけられる。
 このように個々の装置や事象に対する安全水準は、大幅に高められる。だが、新たに加えた対策が予期せぬ支障を招くことがあっては本末転倒だ。硬直的な判断は回避したい。
 骨子案は、これから国民の意見を反映するためのパブリックコメントにかけられる。
 その際、重要なことがある。あらゆる工学システムには、故障のリスクがつきまとう。極限まで下げてもゼロにはできないことを、規制委も国民の側も、しっかり再確認しておくべきである。
 「ゼロリスク幻想」の虜(とりこ)になると机上の空論に傾きやすい。規制委が活断層判別の年代を一律40万年前までに拡大しようとしたのが典型だ。幸い現行の12万~13万年前も基準として維持されたが、甘美な理想論は迷路に通じる。
 なおかつ、再稼働を待つ原発の適性確認に当たっても、円滑に運用できる安全基準に仕上げる合理的な精神が必要だ。日本のエネルギー政策の再構築の柱に、安全で強固な原発を位置付けたい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130201k0000m070115000c.htmlより、
社説:原発新安全基準 「猶予」で骨抜きにするな
毎日新聞 2013年02月01日 02時31分

 原発の新しい安全基準の骨子を原子力規制委員会がまとめた。東京電力福島第1原発の過酷事故の背景のひとつに、安全基準の甘さがあったことを思えば、今回は妥協は許されない。
 新基準は既存の原発にも適用される。大規模な改修が必要となる場合もあるだろうが、それにかかる時間やコストを考えれば規制がゆがむ。田中俊一・規制委員長は「コストのことは全く頭にない」と述べているが、当然のことだ。
 対応できない施設が淘汰(とうた)されていくのは健全な姿であり、規制委は今後も政治や行政、産業界からの独立性を貫いてもらいたい。
 新安全基準は、地震・津波対策も、設計基準や過酷事故対策も強化しており、その点は評価したい。福島の事故前は、津波に対する基準があまりにおざなりだった。新基準はこれを厳格にし、活断層の評価も従来よりさかのぼり約40万年前以降を考慮するよう求めている。地震の揺れだけでなく、断層のずれによる施設の損傷も考慮の対象となる。
 福島の事故では、すべての電源が長時間喪失し、原子炉が冷却できなくなった。新基準は、電源の多重性や多様性を求めており、電力事業者はしっかり受け止めてほしい。
 対策を取っても事故は起こりうるというのが福島の教訓であり、過酷事故対策を法的に義務づけたのも当然だ。航空機事故やテロ攻撃なども可能性が否定できない以上、考慮に入れる必要がある。
 安全基準が新たに求める免震重要棟のような「緊急時対策所」、放射性物質をこし取るフィルター付きベント装置、原子炉の冷却を遠隔操作できる第2の中央制御室など「特定安全施設」も必要不可欠だ。福島の事故では、免震重要棟が事故対策の拠点となった。これがなければ、事故はさらに拡大したに違いない。
 一方で、気になるのが重要な施設の設置に対する「猶予期間」だ。
 規制委は地震・津波対策には猶予期間を置かない方針だが、緊急時対策所や特定安全施設、一部のフィルター付きベントなどについては、一定の猶予期間を設ける可能性がある。
 その際には、こうした重要施設が設置されないままに事故が起きた場合に、どう対策が取れるかが示されなくてはならない。納得のいく事故対策ができないのであれば、猶予を許すべきではない。
 電力事業者にも再認識を求めたいことがある。国の安全基準は最低限守るべき基本線であり、原発の安全を守る一義的な責任は事業者にあるという点だ。安全基準が厳しいと訴えるより先に、安全確保の決意を新たにしてほしい。

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