時代の風:東日本大震災から2年 西水美恵子氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130210ddm002070090000c.htmlより、
時代の風:東日本大震災から2年=元世界銀行副総裁・西水美恵子
毎日新聞 2013年02月10日 東京朝刊

 ◇日本から学ぶ10のこと
 東日本大震災以来、おのずと3月11日が年月の節目になった。あの日の午後2時46分を少し回った頃のこと。在留中の英領バージン諸島では、同日午前2時前だった。
 けたたましい電話の呼び出し音に何事かと跳び起きた。世界銀行ワシントン本部から東京に出張中の、元部下からの国際電話だった。「ミエコの口癖を思い出して」と、大津波警報を伴う巨大地震が起きたことを知らせてくれた。
 インド、パキスタン、バングラデシュなどがある南アジア地域は、地震、洪水、サイクロン(台風)と、自然災害が頻繁に起きる。その地域に関する全世銀業務の責任者だったことから、危機管理体制を厳しく敷いていた。
 人間の脳は痛みを避ける仕組みになっているらしく、リスクの話になると、楽観主義者が急増する。だから、「リスクを確認したら、最悪状態を覚悟すべし。問題は、リスクが起きるか否かではなく、いつ起きるかだ。それが5分後でも、50年後でも、即座に対応できなければ、世銀の名が廃る」と、口を酸っぱくして言っていた。
 電話主の元部下が覚えていた口癖は、「緊急事態が発生したら、誰でも、どこからでも、何時でも、真夜中でも、まず私をたたき起こして!」。もちろん、ちゅうちょする職員など、一人もいなかった。
 1985年メキシコ地震に遭遇し、世銀が送り込んだ捜索隊を大げさと笑った部下だった。緊急時に肝が据わる彼女が涙声なのに気づいて、驚いたのを覚えている。途切れ途切れの通話も、震災や通話規制のせいではなかった。
 「今、帝国ホテルに向かって歩いている……ミエコの同胞は素晴らしい……強い余震が来るなかで……誰もかれもが落ち着きはらって……まわりの人を思いやって……助け合っている……こんな民族が住む国がこの世にあったなんて……信じられない……ミエコの国はすごい……」
 格差が社会の不安定を呼ぶ発展途上国はもとより、米国のような先進国でさえ、自然災害の後には、必ずと言っていいほど略奪や暴動などの人災が突発する。彼女は、その恐ろしさを、身をもって知っていた。だからこそ、わが同胞の行動に深い感動を受け、魂が揺さぶられたのだろう。

 深夜の電話からしばらく。ワシントンに戻った彼女から「これが世銀やIMF(国際通貨基金)はもとより世界中を駆け回っている」と、1通のメールが転送されてきた。「10 things to learn from Japan(日本から学ぶ10のこと)」と題したそのメールに、こうあった。
 (1)The Calm(平静)
 悲痛に胸を打つ姿や、悲嘆に取り乱す姿など、見あたらない。悲しみそのものが気高い。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130210ddm002070090000c2.htmlより、
 (2)The Dignity(威厳)
 水や食料を得るためにあるのは、秩序正しい行列のみ。乱暴な言葉や、無作法な動作など、ひとつとてない。
 (3)The Ability(能力)
 例えば、驚くべき建築家たち。ビルは揺れたが、崩れなかった。
 (4)The Grace(品格)
 人々は、皆が何かを買えるようにと、自分に必要な物だけを買った。
 (5)The Order(秩序)
 店舗では、略奪が起こらない。路上では、追い越し車も警笛を鳴らす車もない。思慮分別のみがある。
 (6)The Sacrifice(犠牲)
 50人の作業員が、原子炉に海水をかけるためにとどまった。彼らに報いることなどできようか?
 (7)The Tenderness(優しさ)
 レストランは、値を下げる。無警備のATM(現金自動受払機)は、そのまま。強者は弱者を介助する。
 (8)The Training(訓練)
 老人も子供も、全ての人が、何をすべきかを知っていた。そして、すべきことをした。
 (9)The Media(報道)
 崇高な節度を保つ速報。愚かな記者やキャスターなどいない。平静なルポのみがある。
 (10)The Conscience(良心)
 停電になった時、レジに並んでいた人々は、品物を棚に戻して静かに店を出た。
 真のインスピレーションを感じる。日いずる国で起こっていることに。(著者和訳)

 余すところひと月で、大震災からもう3年めが訪れようとしている。なのに、復興の「槌(つち)音」が聞こえない。最近は、欧米諸国の知識人に会うたびに、「日本政府は何をしているのだ。他の国なら暴動ざただ!」と注意され、赤面することが頻繁になっている。
 だからこそ、忘れてはならない。かけがえのない大きな犠牲をはらった人々が、厳しい状況に耐えながらも、今なお希望を失わずにおられることを。
 そして、私たちがあたりまえだと思っていることを、いかに世にまれなことかと驚異の念をもってたたえ、だから日本は大丈夫と支えてくれる人々が、世界に大勢いることも……。=毎週日曜日に掲載

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