なくなるか個人保証 第三者「人質」の悲劇

http://mainichi.jp/opinion/news/20130218ddm003010181000c.htmlより、
クローズアップ2013:なくなるか個人保証 第三者「人質」の悲劇
毎日新聞 2013年02月18日 東京朝刊

 ◇「迷惑はかけられぬ」追い込まれ経営者自殺
 民法の大幅改正に挑む法制審議会で、中小企業への融資に求められてきた個人保証をなくす改正案が浮上している。背景には、経営破綻に何の責任もない第三者が多額の保証債務を背負い、借り手も追い込まれる「保証被害」が続いてきたことがある。長年の慣習を断ち切り、個人に頼らない仕組みをどう広げていくか、公的な支援の拡充も求められる。【伊藤一郎、種市房子、井上英介】

 ◇人間関係依存の慣行、今も
 「責任感の強い夫だったので、保証人に迷惑をかけられず、ああするよりほかなかったのでしょう」。神奈川県の女性(55)は訴える。土木会社を営んでいた夫(当時56歳)が自ら命を絶ったのは07年6月。ちょうど、加入した生命保険の保険金が自殺でも下りるようになった日だった。
 順調だった経営が不況で失速。夫は97年、女性とその親族を保証人に、商工ファンド(当時)から500万円を借りた。高金利で借金は膨らみ、2年後には月々15万円の返済のため消費者金融から借り入れる悪循環に陥った。
 04年、商工ファンドからさらに500万円借りる際、保証人の追加を求められた。友人や従業員にもなってもらった。夫婦で倒産や自己破産の道も話し合ったが、「そうすれば保証人に取り立てが行ってしまう」と踏み切れず、ヤミ金融にまで手を出した。
 夫は女性あての遺書を残していた。「本当に好きでした。生まれ変(わ)れたら、いっぱい幸せをあげたい。もっと長く一緒に暮(ら)したかった。許して下さい」。娘には「お父さんらしい事、ひとつも、してやれなかったネ」とわびていた。
 残された女性は保証人を頼んだ身内から心ない言葉も浴び、苦しみは今も続く。「人を死に追いやるような仕組みは、もうなくしてほしい」
 保証被害がクローズアップされたのは10年以上前、事業者金融の商工ファンドや日栄が社会問題化した時だった。銀行の貸し渋りを背景に貸出残高を伸ばし、高利で返済に行き詰まる中小企業が続出。脅迫的な取り立てや不動産の競売で破産や自殺に追い込まれるケースが相次いだ。
 背景には、人間関係に依存するゆえの問題がある。経営者に「迷惑はかけないから」と頼み込まれ、経営状況や保証のリスクをよく知らないまま、家族や親類、友人などが保証人の判をつく。そうした慣行が借り手も保証人も追い込んできた。
 貸金業を巡る問題では、国は07年以降、利息制限法を超すグレーゾーン金利の撤廃や年収の3分の1を超す貸し付けの禁止などに乗り出し、消費者金融による個人の多重債務被害は沈静化しつつある。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130218ddm003010181000c2.htmlより、
 その一方、個人保証の問題は中小企業の資金調達を助ける面もあり、手つかずだった。
 日弁連は昨年、個人保証を原則禁止すべきだとする意見書をまとめた。弁護士や司法書士でつくる「保証被害対策全国会議」事務局長の辰巳裕規(ひろき)弁護士は「保証人を引き受ける第三者は何ひとつ恩恵を受けず、リスクのみを背負わされる。債務者も保証人を人質に取られ、深みにはまっていく。貸手が負うべきリスクを個人に押しつける仕組みは間違っている」と指摘。法制審の議論の行方に期待する。

 ◇公的支援、拡充が急務
 多くの被害を生んできた個人保証だが、中小企業側や金融業界からは「借りられなくなって困る事業者が多数出かねない」との声も上がる。
 こうしたことから、法制審の議論は、経営者本人が自社の借り入れの保証人となる「経営者保証」は例外として認める流れにある。一方、なくすことが検討されている「第三者保証」については金融庁が11年7月、大手金融機関への監督指針で、原則禁止。銀行などでは既に第三者保証を取らない融資が始まっている。
 国の金融審議会で専門委員を務める上柳(うえやなぎ)敏郎弁護士は「『保証人』という人的担保への依存から脱却した金融機関は、借り手の将来の事業収益などを担保とする方向に動き始めている。経営者保証も『しっかり経営してくれ』と覚悟を促す意味合いが強く、債権回収の手段としては、あまりあてにされていない」と指摘する。
 問題は、銀行が求める担保を用意できず、ノンバンクや事業者金融を利用せざるを得ない企業だ。中小企業の経営者は手形の不渡りを回避する時など、どんなに高利でも借りざるを得ない場面がある。現在は第三者の保証人を立てて借りているが、個人保証が認められなくなれば借入先を失うとの不安は消えない。
 東京都では、短期間の審査でつなぎの資金を貸し出す制度を設けている。上柳氏は「中小企業の緊急的な資金需要は切実だ。税金をさらに使うことには議論もあるが、第三者保証を認めないならば、自治体や信用保証協会がそれに代わる保証や短期融資などの制度を充実させていく必要がある」と提言する。

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