景気回復 「円安頼み」を超えねば
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年2月21日(木)付
日銀外債購入―「影の介入」と疑われる
安倍首相が国会答弁で、金融緩和の一環として日銀の外債購入に言及した。円安誘導に効くとされる手法である。
先週末に開かれた主要20カ国・地域(G20)会合をどう受けとめているのだろうか。
G20では、円安の加速を諸外国が強く警戒している現実が浮き彫りになった。
「円安誘導だ」と日本が名指しで批判される事態は避けられたが、それが自民党の選挙公約に掲げた「強力な通貨外交」の勝利だと映っているとしたら、認識が甘すぎる。
さすがに翌日には麻生財務相が外債購入の意向を否定した。首相も金融緩和の手段についての発言は控えると述べ、外債購入には慎重な姿勢に転じた。当然だろう。
首相の日ごろの発言は、目先の相場を意識しすぎている印象が拭えない。これでは日本の通貨政策の姿勢が疑われる。
日銀の外債購入は財務省による為替介入と実質的に同じだ。
介入では、財務省が短期証券で日銀から円を借り、外為市場でドルを買う。入手したドル資金は米国債などで保有する。
日銀の外債購入では、日銀が自らの円資金をドルに替えて買う。日銀総裁の有力候補である岩田一政・元日銀副総裁らが提案してきた。
日銀の資産規模が増えるので緩和といわれるが、国内経済への影響は不透明で、むしろ為替市場への影響が大きい。
「通貨安競争を回避する」「金融政策は国内の物価安定や景気回復に向けられるべきだ」というG20声明への挑戦と見なされるのは必至だ。
この際、日銀の外債購入や選挙公約にある官民協調の外債購入ファンドなど、円安誘導と疑われるものはきっぱり放棄すると表明してはどうか。「影の為替介入」と呼ばれるのが関の山だからだ。
現行制度では、対外的な介入は財務省、物価安定など国内での通貨価値の維持は日銀、という役割分担になっている。
この分担は絶対的なものではないが、今、わざわざ介入と紛らわしい手だてを打つ必要があるとも思えない。
日本はリーマン危機や欧州危機で急激に円高が進んだ際には介入に踏み切った。それでも、介入で得たドル資金はユーロの安定や国際通貨基金(IMF)の安全網のために拠出し、国際通貨秩序の安定に貢献する姿勢を貫いてきた。
このようにして培った信用を、首相自らが軽率な発言で無にしてはならない。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130218/fnc13021803340000-n1.htmより、
産経新聞【主張】通貨安競争の回避 為替への不用意発言慎め
2013.2.18 03:32 (1/2ページ)
安倍晋三政権の経済再生策である「アベノミクス」に海外から円安誘導との批判が上がるなか、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が「通貨安競争の回避」を明記した共同声明をまとめた。
声明では、米欧と日本の「政策措置」は世界経済のリスクの後退に寄与すると評価された。円安誘導の意図はない、という麻生太郎財務相と白川方明日銀総裁の説明が一定の理解を得られたとみてよい。無用の摩擦を解消し、脱デフレ策を進める環境を国際的にも整えたものと歓迎したい。
そもそも、円安誘導との批判は誤解に基づく。やり玉にあげられた日銀の物価上昇目標の設定と達成に向けた金融緩和は、日本のデフレ脱却を目的としたものだ。現在の円安進行も昨秋までの歴史的かつ行き過ぎた円高の是正だ。
ただ、アベノミクスが結果として急速な円安を招き、そこに新興国や欧州勢の不満がくすぶっていることも忘れてはならない。
円安誘導批判のきっかけになったのは、閣僚や与党有力政治家らが「1ドル=85~90円」「100円程度」などと、相次いで為替の適正水準に言及したことだ。最近も、次期日銀総裁候補に名を連ねている副総裁経験者までが同様の発言をしている。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130218/fnc13021803340000-n2.htmより、
2013.2.18 03:32 (2/2ページ)
政府や中央銀行、その周辺の関係者は、理由のいかんを問わず為替の水準には触れないのが鉄則だ。市場の思惑を呼び、相場の波乱要因になるからだ。「為替相場を動かすのが狙い」とみられても仕方がない。
今後も不用意な発言があれば、海外の疑念と不満が再燃し、アベノミクスの足をすくいかねない。強く自戒を求めたい。
円安については、エネルギー政策との関係についても触れざるをえない。円高是正は輸出産業にはプラスだが、輸入にはダメージを与える。原油や液化天然ガスなどの輸入が大幅に増えている今、円安はさらなるコスト増を招く。
過度の円安は高騰しているガソリン価格などとともに、好転しつつある日本経済に冷水を浴びせかねない。原子力発電所が再稼働できず、火力に頼らざるを得ない現状では問題は大きい。
原発再稼働問題を放置したままでは、アベノミクスは早晩、深刻なジレンマを抱えることになると指摘しておきたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO51832360Y3A210C1PE8000/より、
日経新聞 社説 デフレ対策の必要性を粘り強く訴えよ
2013/2/18付
日米欧に新興国を加えた20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が閉幕した。大胆な金融緩和を柱とする日本の経済政策に一定の理解を示し、円安誘導と名指しで批判するのは避けた。
日本がデフレから脱却し、本格的に経済を再生するには、強力な金融緩和が不可欠だ。安倍政権はG20にくすぶる不満にも配慮しつつ、デフレ対策の必要性を今後も粘り強く訴え続けてほしい。
安倍政権の強い意向を踏まえ、日銀が金融緩和の強化に動いたこともあって、為替市場では円高修正の動きが続く。自国・地域の通貨が対円で上昇している欧州や新興国の一部からは、円安誘導ではないかとの批判が出ていた。
G20が16日採択した共同声明は特定の国・地域への言及を慎重に避け、「通貨の競争的な切り下げを回避する」との方針を確認した。「金融政策は国内の物価安定と景気回復を支援するために実行すべきだ」との認識も示した。
為替相場は自由で柔軟な市場で決まるのが原則である。各国・地域が安易な通貨切り下げ競争に走れば、世界経済や金融市場の安定が損なわれるのは間違いない。
しかし今の円安には様々な要因がある。欧州債務危機の一服や米中経済の持ち直し、日本の貿易赤字拡大などもからんでいる。日本が海外からの円安誘導批判に反論するのは当然ではないか。
麻生太郎副総理・財務・金融相と白川方明日銀総裁は、金融緩和の目的を「デフレからの早期脱却」と説明し、「日本経済の再生は世界経済にも良い影響を与える」と強調した。こうした認識をG20に共有してもらうための努力を続けなければならない。
日本にも反省すべき点はある。安倍政権が金融緩和の圧力をかけたり、特定の相場水準に触れたりする発言を繰り返してきたのは確かだ。誤解を招きかねない不用意な言動は慎んだ方がいい。
経済運営全般への信頼を高める必要もある。金融緩和や財政支出による景気の下支えに頼るだけでなく、環太平洋経済連携協定(TPP)などを柱とする成長戦略を急ぐべきだ。もちろん中長期的な財政再建の努力も怠れない。
景気を下支えする金融緩和が海外の批判を浴びるのは米国も同じだ。先進国が供給する大量のマネーが、新興国の通貨や資産価格を押し上げるという副作用には、細心の注意を払わざるを得ない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO51814830X10C13A2PE8000/より、
日経新聞 社説 成長が賃金増やす流れをつくろう
2013/2/17付
デフレ脱却の目的は賃金が伸びることと雇用の安定だ。成長が働く人の所得の増加につながり、新しい雇用を生みだす。それが経済を良くしていく。そうした好循環をつくっていくような手立てを多面的に講じるときだ。
安倍晋三首相は経団連など経済3団体に賃金の引き上げを求めた。金融緩和などで消費者物価を前年比2%上げていく目標を掲げており、実質的な賃金の目減りを抑えるためだ。経済界は最近の円高修正を踏まえ、「業績改善分を賞与に反映する」などと応じた。
企業活動を妨げるな
大切なのは円安の恩恵に頼らず、競争力のある製品やサービスを生みだすことで企業が持続的に成長し、賃金の原資を安定的に増やしていくことだ。
収益力が高まれば正社員だけでなく、パート、契約社員など非正規社員の収入も底上げしやすくなる。非正規労働者は働く人の35%を占めており、処遇改善は消費の活性化につながる。
グローバル競争の激化や資源価格の上昇などで、企業の1人あたり付加価値額は1990年代から低迷している。1人あたりの労働生産性も日本は先進諸国のなかで低い。雇用者報酬が90年代後半から横ばいになっているのはこうした背景がある。
生産性や付加価値を高めるために、企業が活動しやすい環境をつくらなくてはならない。賃金引き上げを経済界に促すのもいいが政府自身がやるべきことは多い。
世界を舞台に企業が利益をあげていくには、貿易自由化に乗り遅れるわけにはいかない。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に一日も早く加わるべきだ。
規制改革では電力事業への新規参入を促し、エネルギーコストを抑える電力市場改革が待ったなしだ。30日以内の短期派遣を原則禁止としている労働者派遣法など労働規制も見直すべき課題が多い。
企業に重い保険料負担を強いている現行の医療・年金制度も問題だ。社会保障制度改革も急がなければならない。
電機業界のように、競争激化で企業が人員調整に追い込まれるリスクは増大している。削減する人員数も大規模だ。やむを得ず退職した人が再就職しやすくし、収入の安定をはかることも重要だ。
別の会社や仕事に柔軟に人が移れる労働市場づくりを急ぐ必要がある。非正規社員がより待遇の良い職に就く機会も増やせる。
成熟産業から医療・介護、環境、エネルギーなどの成長分野へ人材が移りやすくなる利点もある。女性や高齢者の就労も促せ、将来の労働力不足を和らげられる。
労働市場を育てるには人の能力を客観的に評価する仕組みをつくり、企業が採用活動に使えるようにする必要がある。政府は介護や省エネなどの実践的な知識や技能を測る「キャリア段位」という資格制度を整備中だ。対象の職種を順次広げてほしい。
人材サービス会社が就労支援をしやすくする規制改革も要る。たとえば求職者本人から手数料を取る民間の職業紹介事業は対象が部長以上の「経営管理者」などに限られているが、見直すべきだ。
個人が自らの能力を高めることも必要だ。多くの企業が仕事の成果を賃金に反映させており、生産性を上げなければ収入は増えない。労働市場が育ち、働き口を見つけやすくなっても、求められる技能がなければ就職は難しい。
経営力が問われる
公共職業訓練の民間事業者への開放を進め、訓練メニューづくりを民に競わせて質を高めるなど、能力開発支援を見直すべきだ。ソフトウエア開発者など需要の旺盛な情報やサービス分野の人材養成に力を入れたい。
企業の経営者は価値創造力を一段と問われる。上場企業は前期末で約60兆円も手元資金を積み上げている。資金を有効活用して付加価値を増大させる経営者本来の役割を、今こそ果たすときだ。
M&A(合併・買収)や設備・研究開発投資、人材の教育投資などお金の使い方は多様だ。競争力のある事業戦略や投資計画を組み立てる力がますます求められる。
投資家に成長戦略を明確に語る力も欠かせない。独自のビジネスモデルが株式市場から資金を呼び込み、それをまた活用して成長につなげる好循環をつくりたい。
経済を元気にし、家計を潤わせるけん引役は民間だ。企業は新しい製品やサービスの創造を競い、政府は企業活動が活発になるよう政策面で支援する。その両輪が回転することが持続的な賃金の増加につながっていく。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130217k0000m070105000c.htmlより、
社説:G20金融会議 本質曇らせた円安論争
毎日新聞 2013年02月17日 02時32分
不毛な論争に乗っ取られた−−。そんな印象が残るモスクワでの主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議だった。
最大の焦点となったのは、安倍政権の経済対策である。昨年末以来、円が急テンポで値下がりし、海外から「円安狙いの金融緩和」「通貨戦争をもたらす近隣窮乏化策」などと非難の声が上がっていた。このため、日本の金融緩和はデフレ脱却という国内目的か、輸出競争力を高める円安目的か、との議論になった。
まずG20に先立ち、先進7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁らが、通貨安狙いの金融緩和は問題だが国内の景気浮揚目的なら構わないといった不可解な声明を発表した。安倍政権への批判か支持かで解釈が分かれ、市場はかえって混乱した。
結局G20は「通貨の切り下げ競争は控える」と“一致”を取り繕ったが、何ともむなしい決着だ。
確かに、政府や与党の要人が具体的な相場水準にまで言及して円高是正を唱えていた点で日本は突出していた。だがこれを別とすれば、先進国はどこも極端な金融緩和を進めている。リーマン・ショック後、真っ先に前例のない量的緩和を導入したのは米国だった。日本の緩和を正面から批判できないのはこのためだ。
本来、問われるべきは、先進国に広がった際限なき金融緩和策そのものであるはずだ。功罪の問題であり、政策が「国内目的」か「通貨安誘導目的」かと議論することに、あまり意味はない。
極端な金融緩和は実体経済の外でゆがみを生む危険がある。物価は安定していても証券や不動産のバブルを招いたり、原油や穀物などの先物価格をつり上げたりする。また、金融緩和を積極推進すれば、結果的にその国の通貨は安くなろう。先安感のある通貨を安価で借り、高リターンが見込まれる新興国などで運用する投機を加速させる恐れもある。
だが、ゆがみはいつか限界に達し、その衝撃は長期にわたって世界経済を痛めつける。まさにリーマン・ショックで露呈したことだ。
構造改革や財政再建、貿易の自由化にこそ本腰を入れて、長続きする安定成長を目指すのが王道だ。それは後回しで、楽な金融緩和に依存し、市場への影響力が乏しい新興国に「不満のある国は、自らの国で適切な金融政策を採用すべきだ」(浜田宏一内閣官房参与)と主張することは先進国のあるべき姿だろうか。
世界経済の安定があってこそ自国の繁栄を望めるグローバル化時代である。「主要国のお墨付きを得た」と解釈して金融緩和路線を突き進み、ゆがみを醸成することのないよう、安倍政権に念を押したい。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年2月15日(金)付
景気復調―「円安頼み」を超えねば
日銀がきのう、景気判断を上方修正した。昨年10~12月期の実質成長率は小幅なマイナスだったが、むしろ景気後退が「ミニ」だったことを裏付けた。
世界経済の緩やかな復調に、アベノミクスへの期待が重なって円安・株高をもたらし、ムードを改善している。
気がかりは、株高が円安に依存していることだ。
円安は輸入産業や消費者を圧迫する面もある。閣僚がこの点に言及すると、円高→株安の逆回転が起き、慌てて口先介入や日銀への緩和圧力に走る光景が目につく。
海外では日本の円安誘導への警戒感が募っている。
主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁が通貨安競争の回避を確認したのに続き、週末にモスクワで開かれるG20会議の共同声明にも、同じ趣旨が盛り込まれる見通しだ。
アベノミクスに理解を示す国々も、「3本目の矢」である構造改革で内実ある景気回復を図るという日本政府の言葉に期待しているにすぎない。
設備や研究開発への投資、何より消費の底上げで内需を拡大し、世界経済に貢献する覚悟が日本に問われている。
株高にわく民間企業は成長への行動に踏み出すときだ。
上昇相場に後から加わった外国人投資家らは高い収益を求めてくる。賃金の抑制で利益を出す発想では、戦後最長の景気でもデフレから脱却できなかった失敗を繰り返すことになる。
新たな成長の展望を開くのは個々の企業だが、消費の拡大には、成長の恩恵が国民にひろく行き渡るという期待感を高めることが欠かせない。
デフレ圧力が働くのは、先進国で日本だけ賃金の減少が慢性化していることが大きい。賃金が減るまま円安ばかり進めば、「為替操作だ」といった海外からの批判にも抗弁しにくい。
折しも春闘は、大手の組合が経営側に要求書を提出し、本番に入った。安倍首相はこれに合わせ、経済3団体に異例の賃上げ要請を行った。
経済界は賞与の積み増しでは軟化しつつある。だが、賃金デフレの主因は賞与がもらえない非正規労働者の激増だという事実から目を背けるような姿勢はおかしい。
むろん、グローバル競争のなかで、単純な横並び賃上げ方式には戻れない。正規と非正規の格差を是正しつつ、経済をどう活性化していくか。労使の工夫を政府が政策的に後押しして、成長と賃上げの好循環を生み出さなければならない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO51730530V10C13A2EA1000/より、
日経新聞 社説 景気の本格回復へ中身の濃い成長戦略を
2013/2/15付
2012年10~12月期の日本経済は3四半期連続のマイナス成長となった。足元の景気には持ち直しの兆しもみられるが、本格的な回復にはまだ時間がかかる。
金融緩和の強化や緊急経済対策の効果はこれから出てくるだろう。同時に企業や個人の活力を引き出す成長戦略を具体化し、真の経済再生につなげる必要がある。
12年10~12月期の実質成長率は前期比年率でマイナス0.4%だった。輸出や設備投資の減少が大きく、個人消費や住宅投資、公共投資の増加で補えなかった。
だが海外経済の改善などを追い風に、輸出や生産に下げ止まり感が出てきた。12年春からの景気後退局面はすでに終わったとの見方が大勢で、政府・日銀も景気判断を相次ぎ上方修正している。
日銀は前年比2%の消費者物価上昇率を目標に掲げ、金融緩和の強化に乗り出した。その効果もあって円安・株高が続き、当面の景気を下支えする公算が大きい。
事業規模20兆円を超える政府の緊急経済対策の中身には問題もあるが、一定の押し上げ効果を期待できるのは確かだ。14年度からの消費増税を控えた住宅や自動車などの駆け込み需要も表面化するため、13年度の実質成長率は2%程度に高まるとの予測が多い。
しかし緊急経済対策の効果や消費増税の駆け込み需要は、一時的なかさ上げ要因にすぎない。14年度の実質成長率はその反動で、大幅に低下するとみられる。
日本経済の本格回復を後押しし、デフレの克服につなげるには、持続的な効果のある成長戦略が要る。目先の景気対策に終始するだけでなく、成長力の強化に資する施策に本腰を入れるべきだ。
安倍政権は6月にも成長戦略をまとめる。製造業の復活を目指す「日本産業再興プラン」や、企業の海外展開を支える「国際展開戦略」などを柱に据えるという。
海外への輸出や投資で稼ぐ力と、海外の資金や人材を呼び込む力を高めるには、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加や法人税減税が欠かせない。医療や介護などの規制を緩和し、国内の需要を掘り起こす必要もある。
今夏の参院選に勝つために、TPPや規制改革に反対する勢力の利益を守り、不要不急の公共事業だけを積み上げるのでは困る。安倍政権が本気で経済再生を目指すのなら、中身の濃い成長戦略をまとめなければならない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO51730560V10C13A2EA1000/より、
日経新聞 社説 政治家は相場から距離置いて
2013/2/15付
安倍晋三内閣が誕生して以来、政府・与党の要人が金融市場に関する発言をすることが増えた。政治家が市場を意識するのは結構だが、相場誘導ととられたり、投機を促したりする可能性がある発言は控えたほうがいい。
政権周辺の発言で目立つのは円相場や株価の具体的な水準に言及した点だ。例えば、望ましい円相場として自民党の石破茂幹事長は昨年12月「85~90円」とした。内閣官房参与の浜田宏一氏が「95~100円」と語ったこともある。
日経平均株価についても、甘利明経済財政・再生相が先週末「期末までには1万3000円を目指して頑張るぞという気概を示すことが大事だ」と述べた。
政治家の発言は、民間の金融機関やエコノミストが出す相場予想とは、性質がまったく異なる。言及された水準は目標と受けとめられ、短期売買の標的になりかねない。様々な思惑が交錯するため、望ましい方向や水準からかけ離れた結果になることもある。そんな怖さが市場にはある。
デフレ脱却を目的とした金融政策などの結果、円高が是正され、企業収益も好転すれば、株価は上昇する。これが政策が市場に影響を及ぼす道筋であり、具体的な円相場や株価の水準が先走って語られることには違和感がある。
株式市場の活性化には、企業業績や日本経済への信頼を取り戻すことが重要だ。政府に求められるのは企業が新しい事業を始め、産業の新陳代謝が進むような環境整備だろう。世界の株式に投資する米欧の年金基金などの中には、日本の変身を疑う向きも多い。安倍内閣は具体的な経済改革の姿を示し、これにこたえていくべきだ。
欧州などから日本に対して円安誘導批判が出た背景には、政権やその周辺から相場水準についての言及が相次いだことがある。そうした発言はなくなりつつあるが、今後も慎重な姿勢で臨むべきだ。
相場のことは相場に聞けという。政治家は市場の動きに一喜一憂せず悠然と構えていてほしい。