武器輸出三原則 「形骸化に歯止め必要だ」
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年3月2日(土)付
F35部品輸出―三原則を空文にするな
これでは、もはや歯止めとは言えない。なんとも不安な決定である。
自衛隊の次期主力戦闘機F35について、安倍内閣がきのう、国内で製造する部品の輸出を認めると決めた。武器の輸出を原則として禁じている、武器輸出三原則の例外とする。
F35は、米国を中心に9カ国が共同開発中の最新鋭ステルス機だ。各国が製造した部品を米政府が管理し、修理などで必要になった国に速やかに届ける仕組みをつくる。
日本もこれに加わり、エンジンやレーダーの部品を製造するという。それが他国で使われる可能性があるため、輸出を認める手続きをとった。
問題は、この枠組みに、周辺国との緊張関係が高まるイスラエルが加わることだ。
安倍首相は先の国会答弁で、「イスラエルは今後、武力行使をする可能性がある」と認めたうえで、日本製部品がイスラエルで使われるからといって「共同生産に参加できなくていいのか」と疑問を呈した。
政府はこれまで、国際紛争を助長するのを避けるのが三原則のねらいであり、平和国家としての基本理念だと説明してきた。イスラエルの武力行使に使われるなら、明らかにこれと矛盾している。
それを意識してのことだろう。きのうの官房長官談話では、紛争助長のくだりが消え、「国連憲章を遵守(じゅんしゅ)するとの平和国家としての基本理念」という表現に変わった。
だが、憲章違反の武力行使をしますといって武器を買う国はあるまい。輸出のハードルはぐっと下がる。これは三原則を事実上、骨抜きにするものではないか。
政府は、今後も「憲章遵守」に照らして武器輸出の可否を判断する考えだが、これには反対だ。あらかじめハードルを下げるのではなく、どうしても例外にしなければならない事情があるなら、国会でも、国民に対しても説明を尽くし、理解を得るべきだ。
政府はこれまでも、野田前内閣が共同開発をしやすくするなど、じわじわと三原則を緩めてきた。このまま、なし崩しに輸出を拡大させてはならない。
世界の武器取引に目を向ければ、軍需産業が政府高官にわいろを渡し、不要な兵器を買わせるといった例も目につく。
日本製部品が、そうした闇に流れないようにする目配りも必要だろう。
輸出を急ぐより、まず歯止めのかけ方を議論すべきである。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130302/plc13030203100004-n1.htmより、
産経新聞【主張】武器三原則とF35 防衛政策の呪縛を見直せ
2013.3.2 03:09 (1/2ページ)
航空自衛隊の次期主力戦闘機となるステルス性のF35の部品共同生産をめぐり、菅義偉官房長官は武器輸出三原則の適用外として認める談話を発表した。
中国はステルス性を持つ「第5世代」戦闘機の開発を急ピッチで進めている。配備が進めば、現在、第4世代のF15が主力の日本は太刀打ちできない。
このことを考えれば、第5世代のF35導入と共同生産への参加の判断は妥当であり、適用外とする判断を支持したい。
そもそも、武器輸出三原則により、日本は、米国への武器技術供与など一部の例外を除いて共同開発の道を絶たれ、米英など9カ国が参加したF35の開発にも参加できなかった。
しかも、今回、問題となったのは、F35の導入予定国に周辺国との緊張が続くイスラエルが含まれていたことだ。「国際紛争の助長を回避する」という三原則に抵触しないかということだった。
談話は、部品製造への参加が日本の防衛生産や技術基盤の維持・強化につながる意義を強調する一方で、「米国政府の一元的管理」の下で「国連憲章の目的と原則に従う」国にのみ提供されることなどを新たな条件とした。
平成23年に野田佳彦政権が、自民党政権も見送ってきた国際共同開発への参加に道を開く三原則の緩和に踏み切った。だが、「紛争の助長回避」という曖昧な理念を残したことが禍根になった。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130302/plc13030203100004-n2.htmより、
2013.3.2 03:09 (2/2ページ)
求められているのは、国民の生命・安全を守るために何が必要かという政策判断である。その手足を縛りかねない三原則は抜本的に見直す必要がある。
防衛技術競争の遅れを取り戻し、戦闘機開発に参加することは、日本の安全保障にとって死活的な課題であることを、あらためて確認したい。
注目したいのは、安倍晋三首相が衆院予算委の答弁で、敵の弾道ミサイル発射基地への攻撃などに関連して「米国に頼り続けていいのか。F35の能力を生かすことができるか検討しなければならない」と述べたことだ。
敵の第一撃を甘受する「専守防衛」の下では、攻撃能力の保有は認められてこなかった。「平和国家」を標榜(ひょうぼう)することに主眼を置いた姿勢では日本を守り抜くことはできない。防衛政策の呪縛を解く具体的な論議を深めてほしい。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013030202000140.htmlより、
東京新聞【社説】武器輸出三原則 形骸化に歯止め必要だ
2013年3月2日
国際紛争当事国などへの武器輸出を禁じた武器輸出三原則に新たな例外がまた生まれた。日本が戦後歩んできた平和国家の体面を傷つけないか。三原則の形骸化が進まぬよう厳格な歯止めが必要だ。
共産圏諸国、国連決議による武器禁輸国、国際紛争当事国またはその恐れがある国には武器を輸出しない。これが武器輸出三原則だ。佐藤栄作首相が一九六七年に表明した。七六年には三木武夫首相が三原則対象国以外への武器輸出も「慎む」と表明し、事実上の全面禁輸となった。
今回、官房長官談話で新たに三原則の例外としたのは、航空自衛隊が導入する次期戦闘機F35向けに日本企業が製造する部品だ。
米国を中心に国際共同開発が進められており、日本企業の参入で調達価格の低減、部品の安定供給、国内防衛産業の生産基盤維持にもつながるという。
問題はF35の導入予定国に、イランやパレスチナなど周辺国・地域との間で軍事的な緊張が続くイスラエルが含まれることだ。
日本製の部品を使ったF35をイスラエルが実戦使用すれば、国際紛争の助長回避を目的とした三原則から逸脱することになる。
F35は米国政府の一元的な管理下、国連憲章の目的と原則に従う国にだけ供与されるという。
日本企業が製造に加わっても平和国家の基本理念は維持できるというのが談話の趣旨だが、国柄を成す理念の成否が、他国の管理次第というのは何とも心もとない。
そもそも三原則はこれまでも厳格に守られてきたとは言い難い。
八三年に米国への武器技術供与に道を開いた後、二〇〇四年には米国とのミサイル防衛の共同開発・生産など、いくつかの例外を設けてきた経緯がある。
一一年には武器の国際共同開発・生産と人道目的での装備品供与を事実上、解禁した。
とはいえ武器輸出三原則は、戦争放棄の憲法九条、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則とともに、日本が先の大戦の反省から戦後築き上げてきた平和国家という「国のかたち」の根幹を成す。
それらが揺らげば、軍備管理・軍縮分野で影響力を保ってきた日本の外交力を削(そ)ぎ、国際的地位を危うくする。国益は毀損(きそん)される。
武器輸出三原則は骨抜きにされてきたとはいえ、引き続き堅持すべき基本理念だ。これ以上形骸化しないよう、厳格な歯止めをそろそろかけるべきではないか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO52329910S3A300C1EA1000/より、
日経新聞 社説 現実踏まえたF35部品輸出
2013/3/2付
アジアの安全保障情勢が厳しさを増すなか、日本は限られた予算で防衛体制を整えていかなければならない。特に巨額の投資を伴う戦闘機などの生産は国際分業が進んでおり、日本の防衛産業もその輪に入っていく必要がある。
こうした観点から、政府は武器輸出三原則の例外として、自衛隊の次期主力戦闘機F35の部品製造に、日本企業が参画するのを認める菅義偉官房長官の談話を発表した。国際分業の現実を踏まえた判断といえよう。
F35は最新鋭のステルス機で、米英など9カ国が共同で開発している。日本企業はこのうち、主翼など一部の部品の製造に参画する方向という。
日本製部品がF35に使われることについては、武器輸出三原則に抵触しかねないとの指摘もある。
この三原則は野田前政権下で緩和され、戦闘機などの国際共同開発や生産への参加は一定の条件下で認められることになった。その一方で「国際紛争の助長を回避する」という理念は堅持された。
議論になっているのは、周辺国と緊張関係にあるイスラエルが、F35の導入を計画しているからだ。日本製部品が組み込まれたF35が同国に売られれば、紛争を助長しないという原則に反するのではないか、というわけだ。
菅官房長官の談話はこの点について、日本製部品の移転先が「国連憲章の目的と原則に従うF35の使用国」に限定されることなどを前提に、供給を認めると明記。米政府の一元管理の下で、移転を厳しく制限する方針も示した。
今回の談話では「紛争助長の回避」という文言は入っていない。国連憲章を順守してさえいれば、潜在的に紛争の危険がある国に、歯止めなく移転が認められるような事態になってはならない。
F35の共同生産への参画は、日本の防衛産業の維持と育成に役立つ。だからといって、平和国家としての日本の原則が揺らぎ、国際社会の信頼を損なうことがないよう、細心の注意も必要だ。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130302k0000m070130000c.htmlより、
社説:F35を「例外」に 三原則骨抜きに道開く
毎日新聞 2013年03月02日 02時32分
政府は、航空自衛隊の次期主力戦闘機F35の国際共同生産に関連して、日本企業が国内で製造した部品の対米輸出を武器輸出三原則の「例外」として認めることを決め、官房長官談話で発表した。
F35は、周辺国と軍事的な緊張関係にあるイスラエルが導入を計画している。政府の決定は、国際紛争を助長することを回避するとの三原則の理念に反し、その形骸化に道を開きかねないものだ。
談話は、日本の共同生産参画について「防衛生産及び技術基盤の維持・育成・高度化に資する」ほか、「日米安全保障体制の効果的な運用にも寄与する」と意義を強調する。
しかし、防衛産業の基盤整備などを、平和国家としての日本の立場を捨て去る理由にしてはならない。
問題は、三原則が「国際紛争の当事国やそのおそれのある国」への武器輸出を禁止していることと、イスラエルとの関係である。
米国の同盟国・イスラエルは、核開発を進めるイランを先制攻撃する意図を隠していない。また、昨年から今年にかけて、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスやシリアを空爆する軍事行動に踏み切った。日本が部品を製造したF35がイスラエルに供与される可能性があり、そうなれば三原則は有名無実となる。
F35の第三国移転について談話は「米国政府の一元的な管理の下で、F35ユーザー国以外への移転を厳しく制限する」ほか、「移転は国連憲章の目的と原則に従うF35ユーザー国に対するもののみに限定される」などにより「厳格な管理」が行われると強調している。
だが、そもそもイスラエルは「F35ユーザー国」に含まれているというのが政府の見解だ。イスラエルへの供与が前提になっている。
日本政府は04年、米国とのミサイル防衛(MD)共同開発・生産を三原則の「例外」としたが、2年後の対米武器・武器技術供与に関する交換公文と実施覚書で、第三国への移転には日本側の「事前同意」が要件となった。また、MDは防衛のための兵器であったが、他国への攻撃能力を備えたF35は防衛的な武器とは言い難い。
談話では、これまで政府が平和国家の理念として表明してきた「国際紛争の助長を回避する」との表現が消え、「国連憲章を順守する」に変わった。過去に比べ、三原則の精神を順守しようという姿勢が極めて希薄である。
武器輸出三原則や非核三原則は戦後、日本の国是とされ、アジアや中東における日本外交に大きな役割を果たしてきた。安倍政権はこのことを改めてかみしめるべきだ。