次期日銀総裁 「出口戦略」も聞きたい
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013030502000137.htmlより、
東京新聞【社説】日銀総裁候補 問われるのは指導力だ
2013年3月5日
国会は政府が提示した日銀総裁候補から所信を聴取した。黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行(ADB)総裁は物価目標2%の達成は二年がめどと意欲を示した。カギを握るのは強力なリーダーシップである。
いくら正副総裁に強力な金融緩和論者をそろえても、それだけでは大胆な金融緩和は実現できない。政策を決めるのは金融政策決定会合の九人の多数決だからだ。白川方明(まさあき)総裁の下で金融政策を決めてきた委員が六人残り、そこへ新たな正副総裁三人が乗り込む形である。新総裁は、確固たる理論と強い意志で委員をリードできなければ、金融政策の転換は「絵に描いた餅」に終わりかねない。
黒田氏は十年以上前からインフレ目標の必要性を訴え、日銀の金融政策を批判してきた強力な金融緩和論者だ。大蔵省の国際担当である財務官を三年半、ADB総裁を八年務めてきた経歴からわかるように、国際舞台で日本の金融政策について説明し、理解を得ることができる資質もあろう。
黒田氏は所信聴取の場で「デフレ脱却に向けて、やれることは何でもやる姿勢を明確に打ち出す」と強調した。具体的な金融緩和策についても「(日銀がお金を供給するために購入する金融資産の)規模と対象は十分でない」と踏み込み、現在は償還まで三年以内としている国債を、より長期なものを大量に買う考えを示した。
この日の東京の金融市場で、一段と株高・円安、長期金利の低下が進んだのは“黒田総裁”への市場の期待の裏付けである。だが、それでも一抹の不安は残る。
「馬を水辺に連れて行けても、水を飲ませることはできない」のたとえもある。これまで金融緩和に及び腰だった日銀や政策決定会合の委員が、はたして本当に転換できるかである。ADBという大きな組織を動かしてきた経験から黒田氏の指導力に期待したい。
その意味で注目なのは、副総裁候補の中曽宏日銀理事の所信聴取である。生え抜きで日銀の現職幹部の中曽氏がこれまでの日銀政策をどう総括し、そのうえでどう転換すべきかを語るのは、金融政策の体制変革に大きな意味を持つ。ぜひ率直に述べてほしい。
黒田氏は「日本がデフレから脱却し、持続的な経済成長に回復することはアジアや世界からも期待されている」と強調した。イタリア政局で欧州が、「財政の崖」で米国経済が揺らぐ中、一刻も早い脱デフレは日本の責務である。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年2月27日(水)付
日銀総裁候補―国債を引き受けますか
安倍政権が日銀の正副総裁3人の後任人事案を決め、近く国会に提示する。
「金融政策の転換を実現できる人」と首相がこだわった総裁候補には、元財務官でアジア開発銀行総裁の黒田東彦氏が選ばれた。インフレ目標の設定が持論で、従来の日銀の政策を批判してきた。
副総裁には、強硬な緩和論者で首相ブレーンでもある学習院大教授の岩田規久男氏、日銀理事の中曽宏氏をあてる。
中央銀行の首脳はあくまで実務家だ。専門的な知見のほか、危機対応や組織運営の能力、市場や国際金融界との対話力も問われる。
与野党は国会で3人の考え方を問いただし、資質を見極めて可否を判断してほしい。
黒田氏に白羽の矢が立った背景として、国際金融での豊富な人脈が評価されたのは間違いない。諸外国がアベノミクスに伴う円安に警戒感を抱いているなかでは、なおさらだ。
ただ、いくら歴戦の「通貨マフィア」でも、日銀の独立性が疑われるような金融緩和を続ければ、海外からの批判をかわすことはできない。
そこで、黒田氏には以下のことを約束してもらいたい。まず国債の直接引き受けには断固として応じないこと。さらに、引き受けほど露骨ではなくても、日銀が政府の借金の尻ぬぐいに手を染めていると疑われる政策を避けることである。2人の副総裁候補も同様だ。
岩田氏は「2%のインフレは2年で達成できる」という。だが、金融政策だけで短期間にインフレを進めようとすると、副作用は大きい。国民も2%のインフレで経済が好転すると言われてもピンとこないだろう。
過去には、食料品や燃料などの生活必需品が高騰する一方、不要不急の製品は下落が続き、平均値であるインフレ率は横ばいのまま、生活弱者が圧迫される経験をした。
今回はどう違うのか。賃金の上昇との好循環にどのように結びつくのか。具体的な姿を説明してほしい。
岩田氏は学者として長く自説を貫いてきたが、実務家になる以上、むしろ自説がはらむリスクを幅広く捉え、予想外の事態にも対応できることを示す必要がある。
中曽氏は危機対応の経験が豊富で、国際金融界からの信頼も厚い。日銀の組織と業務を知り尽くす人材を首脳陣の一角に置くことは妥当である。過去の日銀の政策を批判する人たちも、現実的に判断すべきだ。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130227/plc13022703490005-n1.htmより、
産経新聞【主張】日銀総裁人事 速やかに国会での同意を
2013.2.27 03:31
政府は次期日銀総裁に元財務官でアジア開発銀行総裁の黒田東彦(はるひこ)氏、岩田規久男・学習院大教授と中曽宏・日銀理事を副総裁とする人事案を近く国会に提示する。
衆参両院は3氏から所信聴取後、同意・不同意を採決する。手続きをいたずらに遅らせず、速やかに同意すべきだ。
自民、公明の両与党が過半数を得ていない参院で不同意が続き、候補が何度も差し替えられるという5年前の日銀総裁人事でみせた混乱を繰り返してはならない。
大胆な金融緩和と2%の物価上昇目標達成を担う日銀総裁は、脱デフレの要だ。その人事の停滞は回復の兆しが見える日本経済に冷水を浴びせることになる。
無論、全会一致で同意せよ、といっているわけではない。
「財務省OBは認めない」というみんなの党は、黒田氏の総裁就任に反対するという。そういう判断もあるだろうが、本人の資質はともかく、財務省OBであるというだけの「反対」が、広く国民の理解を得るとは思えない。
問題は民主党だ。党内には黒田氏らに反対する理由はないとの声が多い。一方で、黒田氏らの名が事前に報じられたことを問題視している。
事前報道された国会同意人事の提示は国会が拒否するというルールは撤廃された。ただし、事前報道があれば、政府に情報漏洩(ろうえい)の調査と報告を求めるとした。このため、安倍晋三内閣による漏洩の有無に関しての調査と報告がない限り、議論できないというのだ。
硬直的な反応ではないか。人物評価とは別の理由で不同意にしたり、採決を引き延ばしたりするようだと、存在感を示すだけの抵抗とみられても仕方ない。
5年前は結局、「総裁不在」という異常事態を引き起こし、日銀総裁人事まで政権揺さぶりに使う日本政治の姿を世界にさらした。二の舞いは避けねばならない。
25、26両日の金融・資本市場では、イタリア総選挙で反改革派が勢力を伸ばすとの予測が流れただけで、円は急騰、株価も大きく値を下げた。順調に見えるアベノミクスも基盤は依然もろいのだ。
ここで日銀総裁人事が政治的思惑で停滞するようだと、市場に無用の混乱を招く可能性がある。脱デフレに踏み出そうとしている日本経済に、政治が水を差すことは許されない。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013022702000164.htmlより、
東京新聞【社説】日銀総裁人事案 空白期間をつくるな
2013年2月27日
安倍政権が次期日銀総裁に黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行(ADB)総裁を充てる人事案を決めた。白川方明(まさあき)総裁と副総裁二人は来月十九日に辞任する。空白を生まぬよう国会同意を円滑に行うべきだ。
デフレ脱却に向けて、カギを握る重要な人事である。安倍晋三首相が掲げる三本の矢の一本目、「大胆な金融緩和」が実現するかどうかが、この正副総裁人事にかかっているといっていい。
日銀は先月二十二日の政策決定会合で、安倍首相の主張を受け入れる形で「2%の物価安定目標」を決めた。しかし、肝心の緩和策は、現状とほとんど変わらない「ゼロ回答」だった。大胆な金融緩和を「やる」と見せかけ、実は「やらない」面従腹背だったのだ。
考えてみれば当然だろう。白川総裁らの“日銀流理論”は「金融政策でデフレは克服できない」というのである。それゆえ大胆な金融緩和には及び腰で、結果的に十五年もデフレが続いてきた。
欧米の中央銀行に比べて緩和(お金の供給)が不十分だったから超円高にもなった。安倍政権が日銀流理論に凝り固まった正副総裁を金融緩和論者に代えるのは必然である。それでも政策決定会合は多数決のため、必要なら日銀法の改正も視野に入れるべきである。
黒田氏は、財務省で国際金融政策を担う財務官を三年半務め、二〇〇五年からアジア開銀総裁に就いている。デフレの原因は金融政策の失敗にあると日銀を批判し、世界標準といえるインフレ目標の導入を早くから主張してきた。
副総裁候補の一人、岩田規久男学習院大教授も、金融緩和論の急先鋒(きゅうせんぽう)で2%の物価安定目標の実現に自信を示している。もう一人の副総裁候補で日銀理事の中曽宏氏は、生え抜きとして日銀組織の精神的支柱になり得るであろう。
五年前の総裁交代では、野党民主党が官僚OB候補に反対し、総裁の空席期間が約二十日生じた。今回の人事案の報道を受けた週明け二十五日は株高と円安が一段と進み、市場に信認された格好である。「金融政策のレジームチェンジ(体制変革)」は安倍自民党が総選挙時から訴えてきたわけで、有権者と市場の支持を得たものをいたずらに政争の具としてはならないはずだ。
国会は、候補の所信を確かめ、円滑に同意人事を進めるべきである。問われるのは、総裁の出自や経歴ではなく、デフレから脱却する政策実行力である。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO52186650X20C13A2EA1000/より、
日経新聞 社説 日銀新体制の発足へ速やかに手続きを
2013/2/27付
政府は、黒田東彦アジア開発銀行(ADB)総裁を次期日銀総裁にあてるなどの日銀執行部人事案を衆参両院の議院運営委員会に近く提示する。国際金融や通貨問題に精通し、海外人脈も豊富な黒田氏は変化の激しい時代の日銀トップとして適任といえるだろう。
5年前の日銀総裁人事では、自民党政権が国会に提示した候補に民主党が財務省出身であることを理由に反対し、新総裁就任が遅れた経緯がある。今回は出身母体がどこかではなく、個人の資質や政策にかかわる審議をしたうえで、日銀がスムーズに新体制に移行できるようなるべく早く手続きを進めてほしい。
日銀総裁の責務は重い。経済や物価だけでなく、内外の金融市場や金融システムの安定にも目を光らせ、政府や海外の政策当局者との意思疎通もできる人でなければならない。
黒田氏は強力な金融緩和論者として知られる。同時に、アジア経済危機をはじめ様々な問題に、国際金融分野の政策責任者として対処した経験を持ち、海外の政策当局者に知己も多い。その意味で、総裁に必要な資質を備えた人物といっていい。
副総裁にあてる中曽宏日銀理事も国際金融や金融市場担当の経験が豊富で、国際関係や危機対応を重視した人事といえる。もう1人の副総裁には、かねて日銀の金融政策を消極的すぎると批判してきた岩田規久男学習院大教授をあて、安倍晋三首相が言う「次元の違う金融緩和」実施をアピールする形になった。
日銀の新執行部に対する期待もあって株高や円高の是正がある程度進んだが、直面する課題はそう生やさしいものではない。
政策金利がほぼゼロという制約の中で、どういう手を打てばデフレ脱却へ向けて成果を出せるのか。副作用にも目を配りながら最も効果的な政策を探り、実現していくことが求められる。金融緩和が国の財政の埋め合わせに使われていると受けとめられないようにすることも重要だ。
政府と日銀は先月、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための共同声明を公表した。国会の同意を得て日銀の新執行部がスタートした後は、この声明を踏まえて日銀が責任を果たしていくと同時に、政府も日銀の独立性を尊重して細かな口出しは慎むようにすべきである。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130226k0000m070119000c.htmlより、
社説:黒田日銀総裁案 「出口戦略」も聞きたい
毎日新聞 2013年(最終更新 02月26日 09時23分)
安倍政権が日銀の次期総裁に黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行(ADB)総裁を充てる人事案を固めた。副総裁候補2人と合わせ、国会に提示する。
「次元の違う金融緩和」を唱える安倍晋三首相は、次期総裁を「私と同じ考えの人に」と語っていた。その意味で、積極的な緩和論者の黒田氏を選んだことは驚きではない。
黒田氏は財務省の国際金融担当トップである財務官を務め、先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議など重要な国際会議の経験が豊富だ。05年からは多国籍機関であるADBの長を務めており、大きな組織を運営する力や国際社会への発信力も期待しての人選なのだろう。
だが、驚きではないにせよ、黒田氏が総裁、そして急先鋒(せんぽう)の緩和論者である岩田規久男・学習院大教授が副総裁に就任するとなれば、やはり金融政策が一方向へ暴走し、新たな危機につながりはしないか懸念せざるを得ない。
そこで特に確認しておきたいのが、金融緩和からの「出口戦略」に対する考えだ。これからデフレ脱却を目指そうという時に出口戦略など早すぎるとの声もあろう。だが、安倍首相提唱の「大胆な金融緩和」が奏功すれば、遠からず日本経済はデフレを脱し、成長軌道に乗るはずだ。
次期総裁の任期中に緩和路線を修正する転換点が訪れる可能性が十分あるということになる。金融緩和が大胆であればあるほど、転換点が見えた時の市場の反動も激しくなる。それを恐れて転換を先送りすると、反動のマグマはもっと蓄積されよう。緩和が思い通りの効果を上げないまま、バブルなど副作用が顕在化し、転換を余儀なくされる可能性も否定できない。
政治との関係が試されるのも、まさにそうした転換点だ。次期総裁となる人には、政府から「待った」がかかっても、必要と信じることを実行する力が求められる。国会は公聴会などを通じ見極めてほしい。
日本だけでなく世界規模で過去にない金融緩和が進行中だ。リスクをはらんだ大実験であることを忘れてはならない。必要に応じて修正する柔軟さ、謙虚さが要求される。
財政再建に対する3人の考えもぜひ聞いておきたい。政府が借金(国債の発行)を増やしても、日銀がそれを気にせず金融緩和で国債をどんどん買い増すようでは、市場から借金の肩代わりをしていると受け止められ、通貨が信用を失うことになる。
人事案の報道を受けた週明けの市場では、株価が一段と上昇した。だが、今さえよければ、の発想ではだめだ。数合わせや党利党略ではなく、将来を見据えた建設的な国会での論議を期待したい。