「稲むらの火」の和歌山県広川村 川畑展之氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130306k0000m070091000c.htmlより、
記者の目:「稲むらの火」の和歌山県広川村=川畑展之
毎日新聞 2013年03月06日 00時14分

 ◇楽しい工夫で教訓継承に成果
 1854年の安政南海地震で津波から多くの命を救った物語「稲むらの火」の舞台となった和歌山県広川町では、今も町民の防災意識が高い。2年前、震度5強の地震に襲われた際は、結果的に津波被害はなかったものの、平地に住む町民ら約100人が高台の神社に自主避難した。広川町を取材してきた私には、町民が過去の教訓を着実に継承してきたからこその成果に思えた。東日本大震災以降、語り継ぐことの大切さがクローズアップされている。広川町の成功例を紹介したい。
 11年7月5日午後7時18分ごろ、同町周辺を震源とする地震が発生した。同町がある県北部では過去20年間、震度5弱を超える地震はなかったにもかかわらず、発生数分後には、海抜13メートルの広八幡神社に、住民が続々と集まり始めた。行政からの避難勧告は出ていなかった。佐々木公平宮司(67)は「荷物を持たず、着の身着のままの人たちが駆けつけてきた」と振り返る。迷わず高台に逃げた人たちの脳裏にあったのが、稲むら(積み重ねられた稲の束)の火だ。
 稲むらの火は、地震後に迫る津波を誰よりも早く察知した老人が、高台にある自らの稲むらに火を付けることによって、消火しようとした村人たちを高台に導き命を救った物語だ。1937年から約10年間、小学校の教科書に採用され、11年度、光村図書出版の小学5年生の国語教科書に「百年後のふるさとを守る」というタイトルで復活した。

 ◇安政地震で偉業 全町民の祭りに
 物語のモデルになった史実が同町にある。安政南海地震で津波が押し寄せた際、しょうゆ醸造家の浜口梧陵(ごりょう)が稲むらに火を付け、暗がりで逃げ道を見失っていた村人に避難先を気付かせ、広八幡神社まで導いた。梧陵は災害後、私費を投じて村人とともに全長600メートル、高さ5メートルの堤防を建設。これが、1946年の昭和南海地震の際に津波から村を救ったとされ、今も「広村堤防」として残っている。
 災害を語り継ぐ取り組みは、安政南海地震の犠牲者の五十回忌に当たる1903年、「津浪(つなみ)祭」として始まった。毎年11月、住民らが犠牲者を慰霊し、子どもたちが広村堤防に盛り土して補修してきた。
 03年からは、住民たちが楽しみながら参加できる「稲むらの火祭り」も始めた。メーンイベントは、住民参加のたいまつ行列。きっかけは、佐々木宮司が町観光協会会長に就任した際、「長年受け継がれてきた故事で町おこしを」と発案したことだった。稲むらの火の語り部を務める清水勲さん(83)に相談し、実現した。

 ◇子供が歌や朗読 津波を頭に刻む
http://mainichi.jp/opinion/news/20130306k0000m070091000c2.htmlより、
 火祭りは毎年10月に開かれる。老若男女の町民約400人が、火が付いたたいまつを持ち、町役場から広八幡神社までの1・7キロを歩き、田んぼに積み上げた稲わらに梧陵の子孫が点火する。火祭りの準備は町民総出で分担する。たいまつ行列に先立って、地元の小学5年生による稲むらの火の朗読もある。児童らは、総合的な学習の時間などで防災を学び、事前に物語を暗記してから朗読に臨む。
 07年、火祭りに新しいイベントが加わった。稲むらの火の物語を歌詞にした曲を、地元小学6年生が合唱するようになった。私が先月、小学校を取材した際には、児童らは「繰り返し歌う歌詞の『地震の後には津波があるぞ』『高い所へすぐ逃げろ』が、特に頭に残っている」と口をそろえた。津波防災のキーワードが頭にたたき込まれていた。
 10回目の開催となった昨年の火祭りでは「記念に新たなことを」と声が上がり、役場前を会場に、大声コンテストが実施された。評価基準は、津波からの避難を呼びかける声の大きさとその内容。さまざまな言葉が登場する中、地元児童の多くは「八幡さんへ逃げろー」と叫んだ。
 広川町には、近い将来の発生が予想される南海トラフ巨大地震で、高さ10メートルの津波が押し寄せると想定されている。佐々木宮司は「真剣な避難訓練も必要だが、楽しさを加えれば、継承が廃れることはないはずだ」と期待する。
 広川町の取り組みの特徴は、町民誰もが敬愛する郷土の偉人、浜口梧陵の業績を中心に据えたことだ。子どもからお年寄りまでが進んで参加できる工夫を常に凝らしてきたからこそ、町民一人一人の意識に教訓が浸透しているのだろう。
 東日本大震災から間もなく2年。大災害の教訓をいかに着実に後世に引き継いでいくか。広川町の例が、その参考になればと思う。(和歌山支局)

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中