習主席演説 「中国の夢」透ける危機
http://mainichi.jp/opinion/news/20130318ddm003030115000c.htmlより、
クローズアップ2013:習主席演説 「中国の夢」透ける危機
毎日新聞 2013年03月18日 東京朝刊
◇汚職・格差・環境汚染……揺らぐ体制
中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席(共産党総書記)が17日、全国人民代表大会(全人代=国会)第1回会議で、党と軍、国家のトップとして三権を掌握してから初の演説に臨んだ。汚職や経済格差、環境汚染などが深刻化する中、演説では体制の不安定化への危機感が反映されて「愛国の精神」と「国民の団結」が強調された。習主席の権力基盤も党内の微妙なバランスの上に成り立っており、新指導部は当面、国内の一体感を強めるための取り組みに腐心するとみられる。【北京・成沢健一、工藤哲】
「今日、われわれの人民共和国は意気高らかに世界の東方にそびえ立っている」。高揚感に満ちた20分あまりの演説。内容とは対照的に習主席は硬い表情のまま淡々と原稿を読み上げた。「人類のためにさらに貢献しよう」と最後に呼びかけた言葉も、中国の典型的な指導者のように語気を強めることはなく、会場に戸惑ったような短い拍手が鳴った。
習主席は演説で、毛沢東やトウ小平(とうしょうへい)ら歴代指導者の名を挙げ、党の功績を強調した。
「中国の夢」。演説の中で何度も繰り返した言葉だ。習主席は「中国の夢を実現するには国民が団結しなければならない」と力を込めた。「中華民族の偉大な復興」を意味する「中国の夢」は、昨年11月に習氏が共産党総書記に就任した後に打ち出したキーワードで、中国メディアも頻繁に特集を組んでいる。国家の富強や国民の幸福などを意味するとされるが、具体的な目標が示されているわけではない。
北京五輪(08年)や上海万博(10年)など華々しい国家的行事を江沢民(こうたくみん)指導部から引き継いだ胡錦濤(こきんとう)指導部。これに比べ、習指導部に残されたのは腐敗や格差などの課題が目立つ。生産年齢人口が減少し、経済成長が鈍化するなか、既得権益層ばかりに富が集中するような構造が放置されれば、国民の不満を抑えられず、批判の矛先が体制側に向けられる事態に発展しかねない。新指導部がこれを最も懸念しているのは間違いない。
1月18日の党機関紙「人民日報」(海外版)によると、党員の汚職調査を担当する王岐山(おうきざん)党中央規律検査委書記が、党幹部参加の座談会でこう発言したとされる。「多くの学者がポスト資本主義の本を読んでいるようだが、その前の時期の『旧制度と大革命』を読んでほしい」
http://mainichi.jp/opinion/news/20130318ddm003030115000c2.htmlより、
「旧制度と大革命」とは、フランスの歴史学者、トクビルがフランス革命(1789年)の原因についてまとめた著作だ。人民日報は「フランスの貴族は自分の地位に固執し、特権を享受して人民への関心を示さなくなり、社会の不平等を拡大させた」と紹介し、「中国も社会の階層が固定化し、フランス革命の時期に似ている」などと伝えた。
習主席は演説で「ぜいたくの風潮などには断固として反対し、腐敗を完全に消し去らなければならない」と危機感を改めて訴えた。腐敗問題はこれまで再三、問題視され、総書記就任直後から幹部の処分も続いた。だが、根絶にはほど遠い。腐敗撲滅に向けた抜本的対策には、法治の徹底、報道の自由化、民主的な選挙が不可欠だ。「人民民主を拡大し、法に基づく統治を進め、自治制度を改善し、責任ある政府を建設する」。習主席はこう強調したが、政治改革への踏み込んだ言及はなかった。
果たして、愛国精神だけで党の求心力を維持できるか。その限界が見えた時、習指導部は国民の視線をそらすため、これまで以上に対外政策で強硬になりかねない−−この危うさをはらんでいる。
◇人事、保革両派に配慮
全人代期間中に決まった国家・政府の人事には、昨年から続いている党内各勢力によるポスト争いの結果が反映されている。火種は今も残り、習主席は保守派と改革派の双方に配慮せざるを得ない立場に置かれている。
今回の人事で特に目立ったのが胡錦濤前国家主席や温家宝前首相に近い幹部の登用だ。
李克強(りこくきょう)首相や李源潮国家副主席、劉延東副首相、汪洋(おうよう)副首相はいずれも胡前主席と同じ中国共産主義青年団(共青団)の出身。改革志向が強いとみられている。王毅外相も胡前主席に近いとされ、馬凱(ばがい)副首相や、経済政策を取り仕切る徐紹史・国家発展改革委員会主任は温前首相との関係が深い。
一方、共青団と一線を画す習主席ら「太子党」(高級幹部子弟)や、保守の色合いが濃い江沢民元国家主席に近いとされる幹部は、張高麗(ちょうこうれい)筆頭副首相、前外相の楊潔〓(ようけつち)国務委員(副首相級、外交担当)ら一部にとどまった。
昨年の党大会では、9人から7人に削減された政治局常務委員(党最高指導部)のうち、共青団出身者は李克強氏だけだった。有力視されていた李源潮氏や汪氏は外れ、格下の政治局委員(25人)にとどまっていたが、今回の人事で2人が次の党大会で常務委員入りをうかがえるポストを得た形だ。ただ、李源潮氏を副主席に選出した際には、全体の4%に当たる批判票も出ており、今回の人事に対する反発があることをうかがわせた。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130318ddm003030115000c3.htmlより、
習主席は当面、江、胡両氏の総書記経験者らの影響力を意識しつつ、党内のバランスを取らざるを得ない状況となっている。習主席は演説で「中国の夢を実現するには、中国の精神を高めなくてはならない。これは愛国主義を中心とする民族精神であり、改革創新を中心とする時代精神だ」と述べた。微妙な立場を反映しているのか、江氏を意識した「愛国」と、胡氏に配慮した「改革」という二つの言葉を並べた。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130317/k10013259921000.htmlより、
李克強首相が会見 主権と領土を守る
3月17日 17時7分
中国の李克強首相は全人代=全国人民代表大会の閉会を受けて、首相就任後、初めて記者会見し、「国家の主権と領土を守ることは、中国の揺るぎない意志だ」と述べ、今後も沖縄県の尖閣諸島などに対する主張を強めていく姿勢を示しました。
全人代で、温家宝氏に替わる新しい首相に選出された李克強氏は全人代の閉会を受けて北京の人民大会堂で記者会見しました。
この中で李首相は、「中国は発展して強国になったとしても、覇権を唱えることはない」と述べ、国際社会の間にあるいわゆる「中国脅威論」は当たらないと反論しました。
そのうえで李首相は、「平和発展の道を歩むことは、中国の固い決意だ。同時に国家の主権と領土を守ることも中国の揺るぎない意志だ」と述べ、今後も沖縄県の尖閣諸島や南シナ海の島々などに対する主張を強めていく姿勢を示しました。
また李首相は、北京などで深刻になっている大気汚染について、「皆さんと同じように重苦しい気持ちだ。長年にわたって蓄積された問題には、これまで以上に強い決意をもって対処しなければならない」と述べました。
そのうえで、「汚染のひどい地区については原因の調査を進めており、期限を設けて処理していく」と述べ、早急に対策を講じて、改善に努めたいという考えを示しました。
さらに、経済政策について李首相は、中国の景気の見通しが依然として不透明で、2020年までにGDP=国内総生産と国民の所得を2010年の2倍に増やす目標の達成は容易ではないとしながらも、インフレの抑制と同時に内需の拡大や技術革新などを通じて安定した経済成長を目指したいという方針を示しました。
一方、外交面について李首相は、アメリカとロシアとの関係については触れたものの、日中関係や北朝鮮の核問題についての言及はありませんでした。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130317/k10013253861000.htmlより、
習主席 主権を断固守るため軍強化を
3月17日 12時19分
中国で開かれていた全人代=全国人民代表大会は17日午前、閉会し、国家主席就任後、初めて演説した習近平氏は、「国家主権を断固として守らなければならない」と述べ、主権を確保するためにも軍の強化が必要だと訴えました。
およそ2週間にわたって開かれてきた全人代は、17日午前、ことしの経済成長率を7.5%程度などとする目標を盛り込んだ政府活動報告などを採択して閉会しました。
閉会にあたって、今回の全人代で国家主席に就任した習近平氏が初めて演説し、「中国の夢を実現していくには、愛国主義が必要だ」と述べ、国民に団結を呼びかけました。
そのうえで習近平主席は、「『戦争に勝てる強い軍隊』を作るため、能力を高め、国家主権を断固として守りぬかなければならない」と述べ、主権を確保するためにも軍の強化が必要だと訴えました。
一方、習近平主席は、演説のなかで「中国の夢」ということばを何度も繰り返し、国民の生活を向上させ、格差を解消することなどを訴えましたが、政治の民主化については言及はありませんでした。
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013031600269より、
対日強硬路線は継続=習指導部外交がスタート-中国
【北京時事】中国の習近平氏が国家主席、李克強氏が首相に就任したのに続き、楊潔※(※=竹カンムリに褫のツクリ)国務委員(外交担当)、王毅外相ら外交ラインの人事も16日に決まった。新指導部は国内の権力基盤固めを優先するため、「国内の結束のため対外的に強硬姿勢に出る可能性が高い」(中国の国際問題研究者)。沖縄県・尖閣諸島をめぐり対立する日本との関係改善への糸口は当面つかめそうもない。
習氏は主席就任後、オバマ米大統領やプーチン・ロシア大統領、オランド仏大統領と相次いで電話会談し、協力を確認。李首相もメルケル・ドイツ首相やシン・インド首相と電話会談した。習氏は最初の外遊でロシアを訪れるが、「海洋進出で対立する米国をけん制する狙い」(中国関係筋)とみられる。
開会中の全国人民代表大会(全人代)では14日に政府機構改革案が可決され、国家海洋局の権限強化が決まった。「海洋強国」を目指し、海洋監視船や漁業監視船など各部門の海洋部隊を統合、尖閣周辺での活動も強化する見通しで、領海侵犯をめぐる日本とのにらみ合いも激化しそうだ。
軍事面では習氏は総書記就任後、陸海空3軍やミサイル部隊の第2砲兵部隊の視察を続け、「戦争に勝利できる部隊建設が新しい情勢下における目標だ」と戦争準備を指示。軍内部では対日開戦論など過激な主張も浮上している。
一方で劉少奇元国家主席の息子で習氏にも近い劉源・総後勤部政治委員(上将)が「戦争の代償は大きい。別の手段で解決できるなら極端な暴力は必要ない」と発言するように、開戦論を戒める声も根強く、軍も強硬論一辺倒ではない。
対日関係で唯一好材料と言えるのは日本通の王毅氏の外相就任だ。2006年10月には駐日大使として安倍晋三首相の訪中に尽力、靖国問題で冷え込んだ関係を修復させた。ただ「日本に甘いと判断されれば、王氏の立場に差し支えが出てくるだろう」(外交筋)との見方もあり、新外相が柔軟性を発揮できるかは不透明だ。(2013/03/16-20:47)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130316/k10013247331000.htmlより、
中国 閣僚級人事決まり新体制スタート
3月16日 18時58分
中国の全人代=全国人民代表大会で16日、閣僚級の人事を決める投票が行われて政府の新しい陣容が決まり、習近平国家主席と李克強首相を中心とする新体制が名実ともにスタートしました。
中国の北京で16日午後、全人代の全体会議が開かれ、出席した2900人余りの代表が閣僚級の人事を決める投票を行いました。
その結果、▽党の序列7位の張高麗政治局常務委員を筆頭に、▽女性で前の国務委員の劉延東氏、▽前の広東省書記の汪洋氏、▽前の国務委員の馬凱氏の4人が副首相に就任しました。
また副首相級の国務委員には、▽国防相を兼任する常万全氏、▽前の外相の楊氏ら5人が就任しました。
主な閣僚は、▽外相に元駐日大使の知日派、王毅氏、▽財政相に元財政次官の楼継偉氏、▽商務相に前の商務次官の高虎城氏が新たに就いたほか、▽中央銀行に当たる中国人民銀行の総裁は周小川氏が留任します。
これで中国政府の新しい陣容が決まり、習近平国家主席と李克強首相を中心とする新体制が名実ともにスタートしました。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013031601001711.htmlより、
中国で李克強新政府が発足 外相に王毅元駐日大使
2013年3月16日 18時19分
【北京共同】中国の第12期全国人民代表大会(全人代=国会)第1回会議は16日午後、全体会議を開き、李克強新首相(57)の指名に基づき副首相、国務委員(副首相級)、閣僚を含む国務院(政府)人事案を承認、李首相を中心とする新政府が正式発足した。
新政府は急速な大国化の一方で貧富の格差拡大、環境汚染の深刻化、周辺国との摩擦など国内外に重要課題が山積する中、今後5年間の中国を率いる。
外相には知日派で日本語が堪能な王毅・元駐日大使(59)が就任。日本政界ともパイプがあり、沖縄県・尖閣諸島問題で悪化した日中関係にどう対処していくかが注目される。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130316/k10013246301000.htmlより、
中国新外相に元駐日大使の王毅氏
3月16日 17時17分
中国の新しい外相に、元駐日大使の知日派、王毅氏が就任しました。
日中関係が悪化するなか、事態の打開に向けた糸口を探ろうという習近平指導部の姿勢を示すものだという受け止めが広がる一方、中国国内に強硬な世論が根強いなか、日本に対して厳しい構えを崩さないという見方もあります。
中国の北京で、16日午後、全人代=全国人民代表大会の全体会議が開かれ、出席した2900人余りの代表が閣僚級の人事を決める投票を行いました。
投票は、李克強首相が指名した候補者について賛否を問うもので、その結果、新しい外相には、元駐日大使の知日派、王毅氏が、投票総数の99.4%に当たる2933票の賛成を得て就任しました。
王氏は59歳。
中国外務省の日本課長や東京の中国大使館の参事官などを歴任し、2004年から2007年まで駐日大使を務めました。
中国の外相にいわゆる知日派が就任するのは、10年前まで務めていた唐氏以来のことです。
日中関係が悪化するなか、日本をよく知る王氏が外相に起用されたのは、事態の打開に向けた糸口を探ろうという習近平指導部の姿勢を示すものだという受け止めが広がっています。
その一方で、中国国内に強硬な世論が根強いなか、知日派として日本に融和的だとみられれば苦しい立場に追い込まれかねないことから、日本に対して厳しい構えを崩さないという見方もあります。
王毅氏はどういう人物か
外相に起用された王毅氏は北京出身の59歳。
王氏は、中国を大混乱に陥れた文化大革命の時期に、7年余りにわたって東北部の黒竜江省に下放されました。
その後、大学入試が再開されたのに伴い、北京の大学に入学して日本語を専攻し、卒業後、中国外務省に入りました。
外務省では政府要人のスピーチを起草する名文家として知られ、日本課長や東京の中国大使館の参事官などを歴任しました。
2004年、当時の小泉総理大臣の靖国神社参拝などで日中関係がぎくしゃくするなか、駐日大使に就任。
関係の立て直しに向けて日本側と調整を進め、2006年10月の安倍総理大臣の中国訪問につなげました。
このときの日中首脳会談で、両国は共通の利益を拡大する「戦略的互恵関係」を打ち出しています。
王氏は2007年まで3年間の大使在任中、日本の地方自治体との交流にも積極的に取り組みました。
趣味は山登りで、富士山など各地の名山に登っているほか、世界遺産に登録されている鹿児島県の屋久島なども訪れています。
駐日大使になる前の外務次官時代には、北朝鮮の核問題を話し合う6か国協議の初代議長を務めたほか、2008年からは台湾問題を担当する閣僚として、経済面を中心に台湾との交流を積極的に推し進めました。
王氏の外相への起用は、こうした実績が習近平国家主席をはじめとする指導部から高く評価されたためとみられます。
中国の外相にいわゆる知日派が就任するのは、10年前まで務めていた唐氏以来のことです。
日中関係が悪化するなか、指導部があえて知日派を投入した思惑について、王氏と長年の交流がある元駐中国大使の宮本雄二さんは「王氏の外交官としての資質を評価したもので、日本との間で極めて難しい尖閣諸島の対立を抱えるなか、力を発揮してほしいという指導部の強い気持ちがあったと思う」と指摘しています。その一方で、宮本さんは「日本を知った人物が、中国の外交政策決定のなかで重要なポジションについたことは歓迎すべきことだが、中国国内では、知日派という色眼鏡で見られているので、そこは意識していると思う」と述べ、中国の国内世論を意識して日本に対する厳しい姿勢を崩さない可能性もあると分析しています。