キプロス危機 「ユーロの矛盾と地政学リスク」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013032702000143.htmlより、
東京新聞【社説】キプロス危機 EU病を根治する時だ
2013年3月27日

 地中海の島国キプロスの金融財政危機が世界を揺るがせた。難航の末、ユーロ圏からキプロスへの金融支援で収束には向かいそうだ。その場しのぎの危機対応を、欧州はいつまで続けるつもりか。
 アベノミクス効果で沸く日本の株価も一時急落させたキプロス問題。欧州の小国の危機が地球規模で混乱を巻き起こす構図はギリシャ問題と同じだ。「なぜ」「またか」と疑問を感じた人も多いだろう。根っこにあるのは、共通通貨ユーロが抱える矛盾と、それゆえ危機がくすぶり続ける脆弱(ぜいじゃく)な欧州経済である。
 キプロスは二大銀行を再編してユーロ圏から最大百億ユーロ(約一兆二千億円)の支援を受けることで、とりあえず財政破綻とユーロ離脱の事態は回避された。しかし、代償はあまりに大きかった。
 それは、支援の条件として二大銀行の十万ユーロ(約千二百万円)を超える大口預金者に負担を強いる「特例措置」が取られたことだ。負担は30~40%もの預金カットといわれる。ギリシャ危機でも同国の国債を持つ民間銀行に「借金棒引き」を強制するという「特例」の前例があり、その場しのぎの対応が繰り返されたのである。今後も危機のたびに理不尽な特例が続くのではないかと、不安や疑念を増幅させた罪は重い。
 キプロスはユーロ圏の0・2%に満たない経済規模で観光と金融業が国を支え、特に金融は低い税率や緩い規制でタックスヘイブン(租税回避地)のようにして発達。歴史の接点が多いロシアの企業や富裕層の大口預金が集まった。
 銀行界の資産規模は国内総生産(GDP)の七倍以上にまで膨らみ、その多くが隣国で関係が深いギリシャの国債や投融資だった。それが不良債権化し銀行危機に陥ったが、国家財政では救済する余力がなかった。同様に金融立国の小国で経済規模に占める金融業の割合が高いルクセンブルクやマルタも「対岸の火事」で済ますことはできないであろう。
 ユーロ圏で経済規模が二~五位で頭文字をとると「FISH(フィッシュ)」となるフランス、イタリア、スペイン、オランダの不況も深刻化するなど危機拡散の火種がくすぶっている。
 小康状態になると危機対策の手を緩めるのがEU病だ。長引く欧州危機を収束するには、通貨は共通なのに銀行監督や財政は国ごとという矛盾の解消に向け、統合一元化の枠組みを進めるしかない。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 3月 26 日(火)付
キプロス危機―ユーロの矛盾ふたたび

 小康状態だった欧州の金融システムが、地中海の小国キプロスから不意打ちを受けた。
 発端は主要銀行の経営悪化である。その救済が財政危機に連鎖しないよう、欧州連合(EU)のユーロ圏諸国が100億ユーロ(約1兆2300億円)の支援を表明し、キプロスにも58億ユーロ(約7100億円)の負担を求めた。
 しかし、その資金を銀行預金への臨時課税でひねり出すことにキプロス国民が猛反発し、混迷が深まった。
 曲折の末、キプロス2位の銀行を分割・再編する形で破綻(はたん)処理し、10万ユーロ(1230万円)以上の高額預金を大幅にカットすることで、辛うじてユーロ圏とキプロスが合意した。
 ユーロ圏が拡大している時期には、特に経済小国でバブルが発生した。キプロスでも安い税金や緩い規制を目当てに、外国から多くの預金が集まり、金融資産は国内総生産(GDP)の7倍にも及ぶという。
 ところが、預金を膨らませた主要銀行がギリシャ危機をきっかけに運用に行き詰まり、金融不安が高まった。
 通貨は共通なのに、財政・税制や金融監督は国単位というユーロの根本的矛盾がここでも露呈したといえる。
 さらに問題を複雑にしたのはロシアからアングラマネーを含む多額の預金が流入していて、ユーロ圏とロシアとの利害対立を招いたことだ。ロシアは11年末に金融支援をし、一度は安定を取り戻した経緯があったが、今回は支援を断った。
 「ユーロ離脱」という事態は避けられたとはいえ、経済規模でユーロ圏の0・2%しかない小国が欧州を振り回すほど、ユーロの足元はもろい。
 政局不安のイタリア、経済が停滞するフランス、秋の総選挙を控えて内向きなドイツ――。危機に対応するユーロ圏内の結束には遠心力が働いている。
 混迷のさなか、キプロスに譲歩を迫るため欧州中央銀行(ECB)が資金供給を止めると圧力をかけたことが、金融システムの安定性に影を落とす恐れもある。
 「最後の貸手」としてのECBの信頼性に疑問符がつけば、キプロスだけでなく、ギリシャやスペイン、イタリアなど他の問題国からの資金流出も誘発しかねない。
 危機の拡散を防ぐため、ユーロ圏はキプロス支援をしっかり実行するとともに、金融監督を統一する銀行同盟などの枠組みを早く軌道に乗せていかなければならない。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO53214740W3A320C1EA1000/より、
日経新聞 社説 キプロスに潜む地政学リスク
2013/3/26付

 財政破綻に直面した地中海の島国キプロスへの支援は、単にユーロ圏の経済安定だけの問題ではない。混乱の根にあるのは、欧州連合(EU)とロシアがせめぎ合う地政学的な対立だ。
 最大100億ユーロ(約1兆2000億円)の支援策が決まり、キプロスがユーロ圏を離脱する事態はとりあえず回避された。交渉の決着は歓迎したいが、地中海地域が不安定になりかねない紛争の火ダネを残した点が気がかりだ。
 合意によると、ユーロ圏から支援を受ける条件として、10万ユーロ超の大口預金者が、銀行再建の資金負担を強いられる。当初は小口を含めて銀行預金に一律に課税する案で合意していたが、国民の猛烈な反発で撤回された。
 必要な資金を一般預金者から広く薄くかき集める当初の案は、いかにも稚拙だった。国民が怒り、取りつけ騒ぎが広がったのは、当然である。ロシアと関係が深いアナスタシアディス大統領が、ロシアの企業や資産家とみられる特定の大口預金者の負担を減らそうとしたとみる向きもある。
 キプロスは経済規模がユーロ圏全体の0.2%にすぎない。産業は金融と観光が主で、文化や歴史の接点が多いロシアからの預金と訪問者への依存が大きい。2007年に欧州各国がキプロスのユーロ加盟を承認したのは、同国を欧州側に引きつけておく外交上の思惑があったとされる。
 支援策はできたが、副産物としてEUとロシアの溝が従来以上に深まる可能性がある。この地域の安定はEU、ロシアなどの微妙な力の均衡の上に成り立っている。国際関係の複雑さは変わらない。
 支援策の迷走で、預金保険で守られているはずの預金が台無しになりかねないとの不安が、ユーロ圏の他国にも広がった。たとえ小国でも、国内の混乱が世界的な危機再発の引き金となる可能性があることを忘れてはならない。ユーロ危機が収束に向かっていると楽観せず、欧州各国は小国の扱いにも細心の注意を払ってほしい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130326k0000m070081000c.htmlより、
社説:キプロス合意 抜本策は待ったなしだ
毎日新聞 2013年03月26日 02時30分

 この3年余り何度となく経験したユーロ圏の危機の中でも、最悪と呼べる混乱だったのではないか。地中海の島国、キプロスへの金融支援をめぐり欧州諸国と国際通貨基金(IMF)が繰り広げた失態は、恒久的な危機回避の枠組み作りが待ったなしであることを強く印象付けた。
 なんとか期限内の合意を取り繕ったことで、多額の不良債権を抱えた金融機関とともに、キプロス経済が破綻する事態は避けられた。同国がユーロ離脱を余儀なくされていれば、金融不安が他のユーロ加盟国に飛び火し、単一通貨そのものが崩壊の危機に直面、世界経済を混乱の渦に巻き込んでいたかもしれない。
 だが、ほっとしている場合ではない。合意内容が十分か、機能するのか、予断を許さない。ドイツをはじめとするユーロ圏の中核国は、今回の失敗を教訓とし、先送りを繰り返してきた宿題に緊急性をもって取り組むべきである。
 欧州連合(EU)など支援する側が犯した重大な失敗の一つは、当初「預金課税」という形で、本来は元本保証があるはずの10万ユーロ以下の預金者にまで、損失を負担させようとしたことだ。もし実現していたら、銀行への取り付けが、ユーロ圏の他の国へも連鎖していた恐れがある。
 幸い回避されたとはいえ、保証されているはずの元本でも目減りする可能性があることを図らずも示し、ユーロ圏の預金保険制度に対する信頼を無用に傷つけてしまった罪は小さくない。今後、影響が出ないか注視が必要だ。
 キプロスが支援を最初に要請してから約9カ月も費やしておきながら、欧州中央銀行(ECB)が緊急融資の引き揚げという最後通告を突きつけ、わずか数日のうちに難題の解決をキプロスに課したことも、極めて危ない綱渡りだった。
 当初、170億ユーロが必要とされながら、実際の支援額が100億ユーロに圧縮され、さらにキプロスが自助努力として58億ユーロの捻出を強いられたのも理解に苦しむ。
 キプロスでは、預金の引き出し制限により、市民生活や経済活動に甚大な影響が出ている。ギリシャやスペインなどでも、緊縮財政の長期化で、経済の疲弊とともにドイツやEUなどへの嫌悪が市民の間でさらに高まりはしないか気がかりだ。
 最近では、危機に対応してきた「トロイカ体制」と呼ばれる、EU、IMF、ECB三者の協調に乱れが生じているとの指摘もある。これ以上の長期化は多くの意味で危険だ。銀行行政や財政の統合に向けた包括的な枠組み作りを急いでほしい。9月に予定されるドイツの総選挙後まで待っている余裕などない。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130324k0000m070076000c.htmlより、
社説:キプロス危機 一国だけの責任なのか
毎日新聞 2013年03月24日 02時31分

 またか。そうあきれずにはいられないユーロ圏の混乱劇だ。今度は、人口110万人、経済規模でユーロ圏の0.2%に満たない小国が、世界経済を振り回そうとしている。地中海の島国、キプロスだ。
 欧州債務危機の発火点、ギリシャと緊密な関係にあり、保有するギリシャ国債の不良債権化により大手金融機関が経営危機に陥った。銀行界の資産規模は国内総生産の7倍以上と巨大で、国家財政に救済余力はない。そこで欧州連合(EU)などの国際支援を仰いだのだが、支援の前提だった計画がキプロス議会で否決され、支援も宙に浮いてしまった。
 小国の問題だと看過できないのは、対応を誤ると、信用不安が他のユーロ加盟国に及び、ユーロの存続まで脅かされかねないからである。
 キプロス問題には、これまでの欧州債務危機になかった要素も複雑にからんでいる。大手行の大口預金者にロシアの企業や富裕層が多数含まれている点だ。低い税率や緩やかな規制が、ロシアなど海外からの資金を引き付けてきた背景がある。
 ロシアとの友好関係を維持したいキプロスの政治家は、問題銀行の処理に伴ってロシアの預金者が多額の損失を負う事態を避けたい。議会が否決した最初の処理策に、小口預金者の損失負担(預金課税)が盛り込まれていたのは、そのためだ。
 しかし、大口預金者なら、預金が全額保護されない場合を十分想定しておくべきだ。応分の負担は当然だろう。小口の預金者にまで損失をかぶせようとしたのは間違いだった。
 より大きな問題は、なぜいまだにこうした混乱が繰り返されるのか、ということだ。抜本的な危機克服策を先送りしてきた欧州諸国の責任は重い。欧州中央銀行(ECB)はキプロスが25日までに新たな資金捻出策をまとめなければ、命綱となっている緊急融資を打ち切ると“最後通告”したが、EUもECBも当事者意識がなさすぎではないか。
 EUが、ギリシャ国債を保有する民間銀行に元本削減を求めた時点で、キプロスの銀行危機も想定できたはずである。だが、ドイツを中心とした欧州の主要国は、場当たり的な支援策で時間を稼ぐだけで、金融行政や財政の統合といった宿題に本気で取り組んでこなかった。
 ユーロ圏で一本化した銀行監督当局が圏内銀行の不良債権処理を主導し、必要に応じて直接、銀行に資本注入できる仕組みを整えていたら、今日の混乱は回避できただろう。
 民主主義のプロセスには時間と政治のエネルギーがかかる。とはいえ、難題先送りにより、いかに被害が拡大したかを、欧州の指導者らは、真剣にとらえねばならない。

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