皆保険の土台揺るがす改革論 吉田啓志氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130404k0000m070131000c.htmlより、
記者の目:皆保険の土台揺るがす改革論=吉田啓志
毎日新聞 2013年04月04日 00時47分

 混合診療の解禁論が浮上してきた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に加われば解禁される、との見方があるうえ、政府の規制改革会議が再び混合診療の拡大を主張し始めたからだ。しかし、世界一とされる日本の医療を支えてきた国民皆保険制度は揺らいでいる。混合診療の解禁は皆保険の土台を崩しかねず、とても賛成できない。
 混合診療とは、公的保険が適用される保険診療と保険適用外の自由診療を組み合わせた治療を指す。自由診療分は全額自己負担でも、保険診療分は1〜3割の負担で済む。だが、厚生労働省は(1)効果や安全性が不明な自由診療が増える(2)公的保険のカバー範囲が狭まり、所得で受けられる医療に差が生じる−−として混合診療を原則禁止し、実施すれば保険が利く部分も含めて全額自己負担としている。
 これに対し、治療の幅が広がり医学の進歩に役立つと主張するのが規制改革会議だ。小泉政権時代の同会議は混合診療を禁じた未承認抗がん剤の費用負担に苦しむがん患者を前面に出し、「消費者の権利」を訴えて解禁を迫った。
 その結果、06年に「保険外併用療養費制度」ができた。保険外の高度な医療や未承認薬の中でも、厚労省の先進医療会議が安全性を確認し、かつ要件を満たす病院などが手掛けるものは混合診療が可能となった。ただし専門家が保険適用に向けた評価をすることが前提で、ずっと混合診療対象というわけではない。
 同制度は治療の有効性や安全性のチェックに関して従来より事前規制を緩め、事後規制色を強めたものだ。患者の負担軽減と安全性をぎりぎりバランスさせた仕組みで、私はこれ以上大幅に拡大することは危険だと考えている。

 ◇薬価高止まり、格差生じる恐れ
 しかし、安倍政権の規制改革会議は納得していない。高度な治療や未承認薬が保険適用されれば、政府は公費の膨張を懸念して公定価格を低く抑える。製薬会社などにすれば利潤が小さくなるため、自由に価格設定できる自由診療対象のまま、公的保険の利く治療と併用し続けられる方が望ましい。規制改革会議が「成長戦略」の観点から混合診療の拡大を主張し始めた真意はその辺にもある。
 高額にもかかわらず売れている医薬品が永久に混合診療の対象となるなら、製薬会社にとってその薬に保険適用を求める誘因は小さくなる。保険が利くはずの薬にあえて保険適用を申請しなければ、薬価は高止まりする。全額自己負担となるため所得の低い人は服用できず、受けられる医療に貧富の差が生じる。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130404k0000m070131000c2.htmlより、
 公的保険の適用範囲が広がれば、企業が従業員と分担する保険料の総額も膨らむ。経済界が公的保険外の治療が増えることを望むのは理解できなくはない。ただ、その分企業負担は軽減されるだろうか。自由診療が一般化すれば、国民は高額の医療費に備えて民間保険に入るとみられる。果たして企業は、その保険料負担を従業員だけに押し付け、社会的責任を果たさないことが許されるだろうか。
 自由診療が幅をきかす米国では、従業員200人以上の企業の場合98%が社員に民間保険を提供している。人材確保の面から日本でも一定の負担を迫られるだろう。自由診療の拡大によって米国は医療が高度化した一方、医療費は国内総生産(GDP)の17.6%(2010年、日本は9.5%)に達した。4000万人が無保険で公的医療費こそ少ない米国だが、企業の私的医療費の負担は重い。大手自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)は負担に耐えかね、倒産した。自由診療の拡大が必ずしも企業の負担軽減にはならないことを米国の事例は示している。

 ◇自助努力に転嫁、安易で拙速だ
 昨年はiPS細胞(人工多能性幹細胞)が脚光を浴びた。同細胞の活用を軸とした再生医療は将来、画期的な効果をもたらす半面、医療費を高騰させるだろう。限りある公的医療費をどう振り分けるか、抜本的見直しが避けられないのは確かだ。それでも、だから自助努力でまかなうというのは安易で拙速過ぎる。
 税と社会保障の一体改革で自民党が成立を主導した社会保障制度改革推進法は「保険給付対象の適正化」を主題に掲げた。逼迫(ひっぱく)する国家財政の下、保険適用対象を選別して自己負担を増やしていく、と読める。条文からは定番の文言「国民皆保険制度の堅持」が消え、代わりに「医療保険制度に原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」と記された。「全国民が等しい医療を受けられる」という皆保険の定義を、単に「全ての国民が加入する仕組み」へと矮小(わいしょう)化する動きに思えてならない。(編集編成局)

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