胆管がん 労災死「なぜ繰り返す」

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年 4月 6 日(土)付
胆管がん労災―職業の病を防ぐ責任

 発病率は、日本人平均の1200倍という高さだった。
 元従業員らに胆管がんが多発した大阪市内の印刷会社を、大阪労働局が家宅捜索した。健康を守る措置を怠った疑いがあり、会社と社長を書類送検する方針だ。
 3月末に国が労災と認めたのは16人で、うち8人が亡くなった。昨年までの約21年間に同じ作業場で働いた人の、ほぼ4人に1人が胆管がんになった。認定された16人には元従業員に加え、今も同社で働く人もいる。
 厚生労働省は昨年、是正を勧告した。同社は換気施設などを改善して操業を続けている。労災事件での強制捜査は異例だが、それだけ異常な事態ということだ。なぜ、こんなことになったのか。
 産業界で使われる化学物質は6万種類といわれ、今後も未知の健康被害が出てくる恐れがある。職場での病を防ぐため、事件を頂門の一針とすべきだ。
 この印刷会社でがんが突出して多いことから、厚労省は昨年9月に検討会を設置した。同社の印刷機の洗浄剤に含まれる化学物質が原因となった可能性が高いとの見解を得て、労災認定に結びつけた。
 原因が科学的に確定しない段階ながら、救済を急ぐ判断を示した。そこは評価できるが、被害がここまで拡大する前に打つ手はなかったのか。
 この会社では、作業場ができて5年後の1996年に胆管がんの患者があらわれ、昨年まで発症が続いた。従業員から「においがきつい」「換気が不十分」との声があり、体調を崩す人も相次いでいた。
 それでも会社側は、法が義務づける産業医や衛生管理者を選任せず、労使で職場環境の問題を話し合う衛生委員会も設けていなかった。職場の健康管理の仕組みが機能していれば、救えた命があったはずだ。
 3年前の厚労省の全国調査によると、対象企業の13%は産業医を置いていなかった。中小・零細企業の経営者が制度を理解していない側面もあるようだ。国は違法状態の解消に向けて、具体策を練るべきだろう。
 今回の印刷会社の問題は、元従業員らが、職業病の患者を支援する民間団体・関西労働者安全センターに相談したことで明らかになった。不安に思ったら、こうした団体に早めに相談してみるのも得策だ。
 健康的な職場づくりは経営者の責務だ。不況で逆風が続いても、従業員の健康を守ってこその会社である。その当たり前を、ぜひ徹底してほしい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130403k0000m070142000c.htmlより、
社説:胆管がんで捜査 徹底解明で再発を防げ
毎日新聞 2013年04月03日 02時30分

 従業員ら17人が胆管がんを発症した大阪市中央区の印刷会社「サンヨー・シーワィピー」に対し、大阪労働局が労働安全衛生法違反の疑いで強制捜査を始めた。発症者のうち8人が死亡した事態を重く受け止めたものだ。被害が広がる前に、なぜ対策を取れなかったのか。労働局は同社と社長を書類送検する方針だが、刑事責任を追及するとともに、実態解明を進めて再発防止につなげなければならない。
 同社の従業員に胆管がんが多いことは、学者の調査で昨年5月に明らかになった。厚生労働省の立ち入り調査で、会社は労使一体で安全対策に取り組む衛生委員会を設置せず、産業医や衛生管理者も置いていなかったことが分かった。これらはいずれも50人以上の労働者を使用する事業所に必要なもので、厚労省は是正勧告した。安全を軽視した会社の体制が従業員の健康をむしばんできたと言えよう。
 また、厚労省が作業室の再現実験をしたところ、排気装置の不備で、汚れた空気の半分が室内に戻るという劣悪な労働環境だった。従業員が「換気が悪い」と言っても改善されなかったという。従業員の安全を管理する意識が乏しかったと言わざるを得ない。対策を怠ってきた経緯を詳しく調べてほしい。
 厚労省の専門検討会は先月、インキ洗浄剤に含まれる化学物質「1、2−ジクロロプロパン」「ジクロロメタン」を高濃度で長期間浴びると発症すると推定した。同社の場合、労災申請した従業員ら16人が「1、2−ジクロロプロパン」に約4〜13年間さらされて発症した可能性があると指摘した。
 印刷職場での胆管がん発症は、これまで知られていなかった。そのため本来なら時効で請求権を失った人も補償を受けられるよう、労災申請の時効の起算日を改め、16人の労災を認めた。職業がんは潜伏期間が長く、労災と気づきにくい。労災認定に柔軟な対応が今後も求められる。
 社長らは先月末、遺族らに補償する意向を初めて示す一方で、化学物質の発がん性の認識はなかったと述べた。だが、健康管理が適切であれば被害は早期に防ぐことができたはずである。被害の広がりをいつ認識し、どう手を打とうとしたのかを説明する必要がある。
 同様の労災申請者は、今年に入って申請した同社の1人を含めて、宮城、愛知、福岡県など全国に48人いる。1社の特殊な職場環境で起きた労働災害ではない。従業員の生命・健康を守る立場の経営者が行うべきことを再確認し、企業や業界は、適正な衛生管理に一層取り組んでもらいたい。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013022102000151.htmlより、
東京新聞【社説】胆管がん初認定 労災死、なぜ繰り返す
2013年2月21日

 印刷会社で働いていた人に胆管がんが多発している問題で、本人や遺族が請求している労災のうち、大阪のケースが初めて認定に向かう。働き盛りの命が失われた教訓をすべての企業で刻みたい。
 胆管がんは肝臓から十二指腸につながる管の部分にできるがん。日本では年間一万人以上が確認され、年齢的には七十代が多い。厚生労働省が今回初めて認定しようとしている大阪の印刷会社の十六人は、発症者が二十~四十代に集中、発症率が通常の六百倍と異常に高い。同じように働いていた人は不安だ。胆管がんの労災請求は同じ会社から複数申請が相次ぎ、大阪、宮城などで六十二人に上る。厚労省は三月の専門家会議で認定の考え方をまとめる。大阪以外の四十六人についても判断を急ぐべきだ。
 発症者に共通するのは「ジクロロメタン」「1、2ジクロロプロパン」を含む洗浄剤を使う場所で働いていたことだ。これらの物質は動物への発がん性が指摘されている。大阪の場合は、一九九一年から地下の工場で作業が行われていた。換気装置はあったが、不十分で、蒸発した溶剤の濃度が上がる。約十年前にこの洗浄剤が使われなくなるまで、従業員は繰り返し有害物質を吸い込んでいた可能性がある。
 今回のように工場で化学物質を含む洗浄剤が使われる場合、「有機溶剤中毒予防規則」があり、換気や定期健診が義務づけられる。ジクロロメタンなど五十四の化学物質が対象になっているが、ジクロロプロパンは対象ではない。会社側は防毒マスクをつけさせていなかった。
 過去にもアスベスト被害など化学物質や環境によって職業病が数々引き起こされた。再発防止のために規制が作られ、強化されてもまた、新たな問題が起きてきた。
 胆管がんの問題は化学物質をどう管理するのかと、あらためて問う。次々に新しい化学物質が生まれる中、毒性の検査や、規制が追いついていないのが現状だ。会社は従業員の健康を守らねばならない。十分な換気やマスクという初歩的な安全対策が取られていなかったのは悔しい。
 厚労省の調査で、有機溶剤中毒予防規則の対象になる印刷会社のうち、八割で何らかの違反があった。ジクロロメタンは印刷会社だけでなく、塗料溶剤などにも使われていた。国は他の業種にまで調査対象を広げるべきだ。経営者はもう一度、安全を点検してほしい。

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