出生前診断 「命の選別にならぬよう」

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 4月 8 日(月)付
出生前診断―不安に応える仕組みを

 高齢出産の年齢になって待ちに待った妊娠、と思ったら悩ましい問いかけが迫ってきた。
 そんなふうに感じている人たちも多いかもしれない。
 今月から、一部の大学や病院で新しい出生前診断の検査法が研究として始まった。
 約20万円かかるが、お母さんの血液を少し採って調べれば、2週間ほどでおなかの中の胎児に染色体異常があるかどうか高い精度でわかるという。お母さんのおなかに針を刺し、胎児が浮かぶ羊水を採って調べる検査は、判定が確実だがわずかに流産のリスクがある。新しい検査法はずっと簡便で安全だ。
 といっても、無条件でお勧めはできない。事前に知っておいた方がいい事実が、少なくとも二つある。
 まず、新検査法で診る対象はダウン症など三つの先天異常に限られる。先天異常をもった赤ちゃんが生まれる頻度は4%ほどだ。対象の三つはあわせて0・7%程度。新検査法で異常が見つからなくても、ほかの先天異常をもって生まれてくるかもしれない。生物としてそういうものなのだ。
 もうひとつ、新検査法の精度はお母さんが35歳の場合で約80%と見込まれ、間違いがありうる。診断を確定させるには少し胎児が育ってから、羊水検査などを受ける必要がある。
 新検査法を受けるか。確定でない結果をどう受け止めるか。特に染色体異常の可能性がわかったらどうするか。分岐点が次々に現れる。それも胎児が日々育つ妊娠中のことである。精神的な負担は大変なものだろう。
 こうした点をふまえ、日本医師会と日本産科婦人科学会などは当面、専門医がいて遺伝相談の体制もある施設での実施を、ごく限定的に認めた。採血して米国の検査会社へ送ればほかでもできるが、しないよう呼びかけている。妥当な方針だ。
 日本ダウン症協会は「ダウン症の人の実際の姿を知らずに、不幸と決めつけることがないようにしてほしい」と、受診者への説明に参加させるよう学会に求めている。一般の人からの相談にも随時応じている。そうしたことも知っておきたい。
 遺伝子研究は急速に進んでいる。がんやアルツハイマー病など遺伝的な要因をもつさまざまな病気について、なりやすさを採血だけで診断する技術が開発されつつある。
 遺伝相談にあたれる臨床遺伝専門医は全国で約1千人、認定遺伝カウンセラーは140人と不足している。重い選択を支える仕組みを整える必要がある。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/130313/bdy13031303240001-n1.htmより、
産経新聞【主張】新型出生前診断 母子への支援を忘れるな
2013.3.13 03:23

 おなかの赤ちゃんがダウン症などの染色体異常かどうかが分かる新しい出生前診断の指針が日本産科婦人科学会から公表された。4月から一部の病院で始められる。
 妊婦に負担がかからず簡単に調べられる利点がある半面、人工妊娠中絶が増え、命の選別につながってしまうとの反対意見も強い。指針を厳守し、慎重に進めてほしい。
 指針では、対象者を高齢出産と胎児に染色体異常の可能性がある妊婦に絞った。晩婚化が進み、高齢で子供を産む妊婦は増えている。こうした女性ほど、ダウン症など遺伝子異常を持つ子供を産む確率は大きくなる。
 新型出生前診断の精度はかなり高く、従来の妊婦の腹部から羊水を採取する検査に比べて危険度も小さい。
 診断は一般診療でなく、臨床研究として慎重に実施される。妊婦や家族には、専門的立場でのカウンセリング(相談)も用意する。検査結果にショックを受けて必要以上に深く悩んだり、よく考えないまま人工中絶を決断したりしてしまうことへの対応だ。
 遺伝子に詳しい産科医と、小児科医の常勤も求めた。しかも施設は産科学会など多くの学会を束ねる日本医学会の下に新設した機関で審査して決められる。
 これだけ慎重に、しかも医学界を挙げて取り組んだのは、「命の選別」という重い問題が避けられないからだ。さらに将来、血液による遺伝子検査で他のさまざまな異常の診断が可能となれば、社会的影響も大きい。
 検査を受けるに際しては、妊婦や家族も診断の特徴や問題点をできるだけ理解しておいてほしい。厚生労働省も初めて研究班を設置するが、臨床研究で出てきた問題点をひとつひとつ解決していく必要がある。
 診断や治療技術の進歩は、技術の観点のみを重視しすぎると大きな過ちや悲劇を生み出すリスクをはらんでいる。技術の進歩が人を排除したり、厳しい偏見にさらしたりする事態を拡大させることだけは避けねばならない。
 さまざまなハンディを抱える人たちが、ともに暮らしていける社会をめざすべきだ。母子への支援も広げたい。今回の議論を機に、社会全体の意識や仕組みを整えていくのも、技術の進歩とともに重要なことである。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013031202000138.htmlより、
東京新聞【社説】出生前診断 もっと深く考えたい
2013年3月12日

 妊婦の血液で胎児の染色体異常を調べる新しい出生前診断の実施指針がまとまった。安易に使われないためにルールをどう整えるのか。命の選別という倫理問題も絡むだけに慎重に進めてほしい。
 新型の母体血胎児染色体検査は、ダウン症などの先天的な障害を調べるものだ。
 これまでも出生前診断法はあったが、新型の検査法は精度が極めて高い。しかも血液検査という簡単な方法で診断ができるため、医療現場で安易に広がり妊娠中絶が増えるのではないか、と懸念されている。
 そうなる前に検査ルールの整備を目的に日本産科婦人科学会は実施するための指針を公表した。
 対象を高齢妊娠や染色体の疾患などが疑われる人、染色体異常の妊娠歴がある人などに限定した。
 検査で何が分かるのか、検査結果の受け止め方、障害を受け入れようとする親の支援など十分なカウンセリングが欠かせないとして、実施する施設には産婦人科医と小児科医の常勤を求めた。うち一人は臨床遺伝専門医の資格を持つことが要件とした。
 実施施設の認定・登録制度も設けて監視する。準備中の施設は臨床研究として四月にも始める。
 検査は、千人に五人の頻度で生まれる一部の染色体異常のみが対象である。先天性の障害や疾患が限定的にしか分からない。しかも確定的な診断ではない。
 検査を十分に理解してもらうにはカウンセリングが不可欠だが、臨床遺伝専門医は約千人、専門のカウンセラーは百四十人と少ない。対象者や施設を限定した慎重さは当然だ。人材育成とともに症例を積み、検査体制を整えてもらいたい。
 指針には拘束力はないが、厚生労働省は医療現場に指針の尊重を求めた。生命の否定につながりかねないだけに、全ての関係者が守るべきものだろう。
 一方で、検査は妊婦の権利でもある。新型検査の普及も止められない。今後、技術が進めば出産前に異常が分かる障害や疾患の範囲も広がるだろう。
 以前の検査は治療につなげられたケースもあったが、今は治療法のない異常が分かってしまう。技術進歩で命の選別という倫理的な問題に直面している。
 臓器移植での脳死は、国会でも議論された。何のために出生前診断を行うのか、妊婦や医療関係者だけの問題ではない。ここは立ち止まって、深く考えたい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20120929k0000m070111000c.htmlより、
社説:新出生前診断 技術発展見据え議論を
毎日新聞 2012年09月29日 02時30分

 妊婦の血液を使い胎児がダウン症であるかどうかを高い精度で判定する。米国の会社が新しい出生前診断法を開発した。国内でも、国立成育医療研究センターなど約10施設が近く「臨床研究」を始めるという。
 これまでも、おなかの中の胎児がダウン症かどうかを調べる検査はあった。胎児がつかっている羊水を採取して調べたり、妊婦の血液を分析して胎児がダウン症である確率を示す「母体血清マーカー」などだ。
 しかし、正確に診断できる羊水検査には流産のリスクが伴う。血清マーカーは判定の精度が低い。今回の検査は「流産リスクがなく」「精度が高い」点に加え、妊婦の血中に流れる胎児のDNAを利用している点でこれまでの検査と異なる。
 だからこそ、その利用にあたっては、検査の特徴をしっかり把握した上で、妊婦や家族への情報の伝え方を十分に吟味する必要がある。
 まず、注意しなくてはならないのは新技術の位置づけだ。対象は高齢出産など高リスクの妊婦で、ダウン症を検出する精度は99%以上という。しかし、ダウン症ではないのにそうだと判定する「偽陽性」がなくなったわけではない。「陽性」と判定されたら羊水検査で確定診断することが前提だ。羊水検査に取って代わる確定的検査ではなく、全妊婦を対象にするものでもない。
 ダウン症の場合にそうではないと判定される「偽陰性」も排除されていない。限界のある技術であり、それを丁寧に説明する必要がある。

http://mainichi.jp/opinion/news/20120929k0000m070111000c2.htmlより、
 新検査をきっかけに、妊婦や家族の決断を支援する体制も強化する必要がある。ダウン症の子どもたちは、通常2本の21番染色体を3本持って生まれてくる。知的な発達に遅れがあったり、心臓に疾患があったりすることも多いが、医療や教育が進んだため、ほとんどの人が普通に学校や社会で生活している。書家になった女性もいる。
 こうした情報を伝えつつ、相談にのるカウンセリングの専門家が必要だ。そのために資金を投入し人材育成も進めねばならない。産み育てることを決めた家族を支える社会的な体制もさらに整えていく必要がある。
 今回の検査は、ダウン症に焦点があてられているが、他の染色体異常も検出できる。今後、さらに解析技術が進むと、染色体異常だけでなく、胎児の遺伝子変異や遺伝子の型などまでが検査対象になる可能性がある。そうなれば、これまで以上に検査を受ける人が増えるかもしれない。
 私たちは胎児の遺伝子情報をどこまで知る必要があるのか。それをどう使うのか。技術の将来を見据え、議論を続けることが大事だ。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit2より、
朝日新聞 社説 2012年9月6日(木)付
出生前診断―重い課題に向き合う

 人の意志で命を左右することにつながる技術だ。どう考え、どのように使うか、ていねいに議論を進める必要がある。
 お母さんの血液を少し採って調べれば、おなかの中の胎児がダウン症かどうか、99%の精度でわかる。そんな米国生まれの検査法が登場した。
 新しい検査は簡単なだけに、はらむ問題は大きい。軽い気持ちで受けて、思わぬ結果を聞いて動揺したり、人工妊娠中絶を選ぶ人が増えたり、といったことが予想される。
 日本産科婦人科学会は「安易に実施することは厳に慎むべきだ」とする緊急声明を発表し、ルール作りに向けた検討を始めるとした。
 この検査は当面、本格的な導入に備えた研究という位置づけなので、始めるのは一部の医療機関にとどまる。だが、多くの問い合わせが集まっている。
 これまでの血液検査は確率しかわからなかった。判定が確実な羊水検査は、お母さんのおなかに針を刺すため、わずかだが流産の危険があった。新しい検査への関心が高いゆえんだ。
 背景には、妊婦の4人に1人が35歳以上という高齢出産の時代を迎え、高齢になるほど、胎児の遺伝子に異常が起きる確率が高くなることがある。
 遺伝子の重い異常を持った子が生まれる確率は30歳の385分の1に対し、40歳では63分の1になるとされる。出生前の診断で胎児の異常がわかったことによると見られる中絶が増えていることも事実だ。
 ダウン症は、染色体の一部が1本多いことによって起きる。知的発達の遅れや心疾患になることが多い。一方で、発達はゆっくりだが、豊かな感性や知性を発揮して活躍する人もいる。
 こうした特徴や育て方などについて、きちんとした説明ができる態勢が欠かせない。
 検査を受けるかどうかもふくめて、最終的には親の判断だ。検査の結果が意味するものは何か、どう解釈すればいいか、十分なカウンセリングをして親の判断を支えることが大切だ。
 障害がある人への支援制度が十分にあれば、子にとっても親にとっても心強い。その意味で、この問題は私たちの社会そのものが問われている。
 そうしたことを一つひとつ、考えていきたい。
 科学の進歩により、遺伝子でさらに多くのことがわかるようになるだろう。うまく使えば、早めの対応が可能になる一方で、倫理問題も避けて通れない。重い課題だが、しっかり向き合いたい。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012090602000149.htmlより、
東京新聞【社説】出生前診断 命の選別にならぬよう
2012年9月6日

 妊婦の血液で胎児にダウン症などの染色体異常があるか分かる新しい出生前診断が試験的に始まる。高精度で妊婦に負担をかけずに診断できるが、かえって安易に使われる懸念が強い。
 新検査法は簡単に診断できる。血液中の胎児のDNAを調べ、ダウン症などの原因となる染色体異常の有無を調べる。妊娠十週から可能で、精度は99%以上という。
 国立成育医療研究センターなど一部の医療機関が九月にも、臨床研究として実施する。参加施設全体で二年間で約千人を検査する。
 検査は、早く異常を見つけ治療に役立てたり、養育の準備のためだが、従来より高精度で容易な検査だけに安易な拡大を危ぶむ。
 三十五歳以上の妊婦だと染色体異常のリスクが高まる。晩産化で検査のニーズは増えるだろう。だが、障害を理由に人工妊娠中絶が増えては、命の選別につながる。母体保護法は中絶の条件に胎児の異常は認めていない。
 日本産科婦人科学会や日本ダウン症協会も安易な実施には強い懸念を表明した。当然だ。
 臨床研究には、外国で導入が進むこの検査法が日本で普及する前に、専門家が管理する実施ルールをつくる狙いがある。
 専門外来の設置やカウンセリングを合わせて実施するという。慎重に進めてもらいたい。ただ、実施体制を整えるには課題も多い。
 出産を控えた夫婦には検査の意味や、結果の丁寧なカウンセリングが必要だ。ダウン症でも出産、養育につながるように障害や社会の養育支援について十分に理解してもらうことも重要になる。
 カウンセリングを担う専門医は産婦人科医では全国に百四十人ほどで、人材育成は急務である。
 実施体制の整備にはスピードも求められている。現状は技術の進歩に規制が追いついていない。小宮山洋子厚生労働相は学会に実施指針の策定を求めたが、生殖医療に関する法整備も不十分だ。出生前診断は生命倫理の問題である。診断のあり方や適用基準を考える幅広い議論を期待したい。
 ダウン症児の養育への不安は理解できるが、実際に産み育てている家庭は障害を多様性の一つとして前向きにとらえている。
 プロゴルファーの東尾理子さんは「どんな赤ちゃんでも幸せ。障害は特別なことではない」とダウン症児の可能性のある出産を決めている。夫婦が納得して出産できる支援を整えるべきだ。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中