時代の風:新たな「大航海時代」 増田寛也氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130414ddm003070107000c.htmlより、
時代の風:新たな「大航海時代」=元総務相・増田寛也
毎日新聞 2013年04月14日 東京朝刊

 ◇海の開発と環境、調和を
 ポルトガルの首都リスボンから東へ車で約1時間半、コルクガシやオリーブの木が続く道を行くとエボラという町に着く。古い城壁に囲まれた旧市街ではローマ時代、イスラム教、キリスト教の影響を受けた建物が混然と同居する。世界遺産に登録されており、私は3月下旬にこの地を訪れた。イースターの祝日であったが、目指す中心部にあるロマネスク様式の大聖堂は、ミサの後で他に訪れる人もなくひっそりとたたずんでいた。1584年9月、天正遣欧少年使節の伊東マンショと千々石(ちぢわ)ミゲルがこの大聖堂でパイプオルガンの腕前を披露し、人々の喝采を浴びたと伝えられている。そのオルガンは、2階の張り出し部分で落ち着いた光を放っていた。

 ポルトガルはどこか懐かしさを感じる国である。カステラ、オルガンなど日本語となっている言葉も多く、同じ海洋国家として周囲の海から多大な恩恵を受けている。ちなみに、最近の魚介類の1人当たり消費は日本を抜いている。一方、1755年のリスボン大地震と大津波で死者約6万人と壊滅的な打撃を受けたことでも、日本と似ている。

 15〜16世紀、このポルトガルがいち早くアジアに進出した。1498年、バスコ・ダ・ガマがインドに到達し、マカオの要塞(ようさい)を極東の拠点としたのが1557年、そのわずか二十数年後に、早くもキリシタン大名が派遣した4人の少年が日本からはるかアフリカ南端を回ってヨーロッパに渡った。彼らの覚悟と苦労のほどはいかばかりであったことか。実際、初めて目にする異国の風景や文化は、少年たちの目にどのように映ったことだろう。その驚きは想像もつかないが、ポルトガルの人々には一行の堂々たる姿が感動を与えたようだ。今回、各地で彼らが歓待を受けた足跡に触れることができた。

 少年使節から遅れること30年、支倉常長の慶長遣欧使節は、1613年に日本を出航し、少年使節と逆回りのメキシコ経由でヨーロッパに入り、7年後に日本に戻った。昨年、支倉一行が乗船した帆船サン・ファン・バウティスタ号の復元船を、津波で被害を受けた宮城県石巻市の記念館で見ることができたが、よくぞこの程度の小さな船で太平洋の荒波を乗り越えたものだと、彼らの勇気にいたく感心した。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130414ddm003070107000c2.htmlより、
 しかし、当時は、この大きさが当たり前だったのだろう。しかも、その頃の航海は季節の変化に合わせて、ただひたすら「風を待つ」ことが重要だった。私の愛読書、辻邦生の「安土往還記」の結び、主人公が織田信長の死後、日本を離れてインドのゴアに戻るくだりは「私は大殿(シニョーレ)の死を知って一年後、季節風に送られる最初の船に乗ってこの王国を離れた。その日はおだやかな日和で、ジェノヴァの船乗りたちが順風(ブレッツァ)と呼ぶ風が海のうえを吹きわたっていた」で結ばれている。

 小さな船を操り何カ月も順風を待ち、香辛料や金、銀を求め、風を頼りに海図なきままに大航海に乗りだす。ポルトガルやスペインによって幕を開けた大航海時代は、戦争の歴史でもあった。勇気ある船乗りが競って新航路を開拓し、富を独占するために国家が争った。各国は植民地を手に入れ、過酷な収奪を行い、やがて、オランダ、イギリスが海の覇権を握ってゆく。

 1994年に発効した国連海洋法条約は海洋を人類の共有財産とし、資源開発の権利と平和利用や環境保全の義務を定めている。先月、日本は愛知・三重県沖の海底に広がるメタンハイドレートから、天然ガスを海洋で取り出す実験に世界で初めて成功した。南鳥島沖の海底の泥に高濃度レアアースが含まれていることも確認した。広大な海洋には豊富な資源が眠っている。各国も海洋開発による資源獲得に一段と力を入れている。新たな大航海時代の幕開きである。しかし、これを国家の覇権争いにすべきでない。海洋は、二酸化炭素吸収源、気候システムの環境調整役としてきわめて大きな役割を果たしている。各国が技術開発を急ぐのは、新たに人類の共有財産を生み出し、資源に限りのある地球を救うためのものでもある。

 政府は間もなく、新たな「海洋基本計画」を策定する。海洋国家日本が、海洋の平和的開発と海洋環境の保全との調和を図る視点に立って、積極的に世界をリードしていくべきだろう。=毎週日曜日に掲載

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