成年後見と選挙権 「公選法改正は当然だ」

 

http://mainichi.jp/opinion/news/20130422k0000m070096000c.htmlより、
社説:成年後見と選挙権 公選法改正は当然だ
毎日新聞 2013年04月22日 02時30分

 成年後見が付くと選挙権が剥奪されるのは憲法違反だ。被後見人もわが国の国民であり、主権者として選挙を行うのは当然−−。知的障害の女性が起こした成年後見訴訟で東京地裁はそう判断した。ところが、政府は「各地の選挙で直ちに被後見人の取り扱いが混乱する」(新藤義孝総務相)と控訴した。国民の大事な権利を奪ったままでいいはずがない。選挙権の自動的な剥奪はやめるにしても、何らかの線引きが必要と考えているのかもしれないが、そんなことが可能とも思えない。
 自ら意思表示し、自分の行為の結果を理解できる能力のない人に選挙権を認めると、悪用されて不正が横行する恐れがあるとも言われる。不正に厳重に対処するのは当然だが、予防的措置として被後見人から一律に選挙権を剥奪することは許されるのか。そもそも能力とは何だろう。
 目が見えず耳が聞こえない人は、いつ選挙があり立候補者が誰かを知ることが難しかった。投票所にひとりで行くのも大変だろう。だが、指点字というコミュニケーション手段を母親が見つけたことで東京大学教授になった福島智さんのような人もいる。全身が動かず言葉もしゃべれない難病患者の脳にセンサーを付け、ロボットを使って意思を具体的な行動に表す研究も進んでいる。
 選挙の意味や政策など抽象的な概念を理解することは苦手でも、立候補者の誠実さや思いやりなど人格への深い洞察力や直感力のある障害者はたくさんいる。似たような判断基準で投票している人は多いはずだが、どうして障害者だけ問題にされるのか。欧州で日本の障害者の芸術作品が高く評価されているが、著作権や財産権を守るために後見人を付ける障害者が多い。海外で日本の価値を高めている人々から政府は選挙権を奪っているのである。
 科学技術の進歩、周囲の環境やコミュニケーションの配慮によって個人の「能力」はいかようにも変わりうる。知能指数の測定にしても数多くの方法があり、そのどれもが完璧ではない。もちろん偏差値のような単純な尺度で測ることなどできない。もともと人間の能力とは捉えどころのない宇宙のようなものなのだ。
 欧米諸国では制度改革が進み、現在多くの国で選挙権剥奪は撤廃されるか、極めて限定的に運用されている。民主主義の根幹の権利だからこそ誰にでも認めることが原則なのだ。重い障害のために投票できない人は現実にいるが、国が選挙権を剥奪するのとはまったく意味が違う。そうした人にもどう選挙権を保障するかを考えるべきであり、日本政府の発想は逆転している。すぐに公職選挙法を改正すべきだ。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 3月 29 日(金)付
後見裁判控訴―権利を奪い続けるのか

 判決が説くもっとも大切なところを見ず、国民に正面から向きあっていない。そう言わざるを得ない、誤った対応である。
 成年後見制度をめぐる裁判で敗訴した国(政府)が、控訴の手続きをとった。
 公職選挙法は、十分な判断能力がなく後見人がついたお年寄りや知的障害者には、選挙権を与えないとさだめている。
 東京地裁は今月14日、「主権者としての地位を事実上奪うものであり、参政権を保障した憲法に違反する」と述べた。控訴とは、この奪い、奪われた状態を変えないことを意味する。
 国の言い分はこうだ。
 後見をうけている人にも選挙権を認めると、不正投票に利用されるおそれがある。判断能力に応じてどんな線引きができるかを検討し、法律を改めるにしても、時間が必要だ。控訴せずに判決を確定させた場合、法改正までの間、全国の選挙事務に混乱が生じる――。
 東京地裁が判決理由の中で、「相応の能力を備えていない人には選挙権を与えないという考え自体には、合理性がある」と述べたことが、ひとつの支えになっているとみられる。
 だが、実際にそのような「線引き」ができるだろうか。
 そもそも裁判で国側は「選挙権の適切な行使が可能か否かを個別に審査する制度はつくれない」と主張してきた。そこで、おもに財産を管理する能力の有無を判定する成年後見制度を、性格の異なる選挙に「借用」したのではなかったか。
 そんな借用は認められないと裁判所に指摘されたので、別のものさしを探す。そしてそのものさしが見つかるまで、主権者から権利を取りあげ続ける。
 こんな手前勝手なふるまいが許されるはずがない。
 公選法の問題の規定を、まず削除する。そのうえで、どうしても「線引き」や不正投票を防ぐ措置が必要だというのなら、しかるべき手当てをする。
 それが本来の道だ。控訴は、政府と国会の考え違いのつけを国民に回すことに他ならない。
 おりしも一票の格差をめぐって厳しい判決があいついだ。成年後見訴訟とあわせ見えてくるのは、民主政治とそれを支える選挙の重要性を、正しく理解しようとしない政治の姿だ。
 連立与党をくむ公明党の北側一雄副代表は、官邸から「役所(総務省、法務省)が控訴するよう強く言っている」と説明をうけた、と話した。
 何とも情けない。民主主義の根幹にかかわる話である。政治が決断しなくてどうするのか。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013032902000143.htmlより、
東京新聞【社説】成年後見訴訟 人権より事務手続きか
2013年3月29日

 国民の基本的人権より役人の選挙事務が大切だ。成年後見人がついた人に選挙権を認めた東京地裁判決に対し、控訴した国の理屈とはそういうことだろう。人権救済の先送りは到底許されない。
 ダウン症で知的障害のある茨城県牛久市の女性が「投票に行きたい」として、国を訴えた裁判である。後見人がついて選挙権を失ったからだ。公職選挙法のそんな規定は憲法違反だと主張した。
 東京地裁は十四日、ほぼ全面的に原告の主張を認める判決を出した。これに対して政府は二十七日、与党内の反対の声を押し切って東京高裁に控訴してしまった。
 新藤義孝総務相が述べた控訴理由は、おおむね二点に集約される。まず新たな立法措置には時間がかかること。そして全国各地の地方選挙での混乱を避けること。つまり選挙事務の問題なのだ。
 規定を見直す時間稼ぎのために違憲判決の確定を先延ばししたわけだ。法律の欠陥を放置してきた国会の怠慢の後始末に、控訴を利用したと見られても仕方ない。
 新たな立法措置とはなにか。認知症や障害によって後見人がついた人に、選挙権を行使する能力があるか否かを調べる仕組みづくりを想定しているらしい。あまりに非現実的だ。だれがどうやって能力の範囲を線引きするのか。
 憲法はすべての成人に選挙権を保障している。主権者である国民の負託を受けた為政者が、主権者の投票能力の有無を決めることは民主主義に反する。権利をどう行使するか、あるいは棄権するかは国民の判断に委ねられている。
 選挙の混乱とはなにか。後見人がついている人を選挙人名簿に登録して投票案内を出すのに、実務上どんな支障があるのか。知的障害や精神障害があっても後見人がついておらず、選挙権を行使している人はすでに多くいる。
 他人に唆されて不正投票に及ぶ恐れがあると国は心配する。だが、不正行為は障害や病気のある人に限った話ではないし、そもそも国は一審でどんな実害があるのか立証できなかった。
 曖昧な「恐れ」で基本的人権である選挙権を奪い続けるのは、国の権力乱用と言うほかない。
 財産や契約上の不利益から判断能力の弱い人を守るのが成年後見制度だ。障害や病気があっても自立して生きられる社会を目指すノーマライゼーションの理念に基づく。後見人がつくと選挙権を失う規定はこの理念に逆行するのだ。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130319/k10013309721000.htmlより、
公明 後見人いても選挙権を
3月19日 15時49分

公明党は、「成年後見制度」を巡って、「後見人がつくと選挙権を失う公職選挙法の規定は憲法に違反する」とした東京地方裁判所の判決について、政府に控訴しないよう求めるとともに、後見人がいても選挙権を認めるよう、今の国会での法改正を目指すことを確認しました。
東京地方裁判所は今月14日、病気や障害などで判断力が十分でない人に代わって財産を管理する「成年後見制度」を巡り、「後見人がつくと選挙権を失う公職選挙法の規定は憲法に違反する」という初めての判決を言い渡しました。これを受けて、公明党は成年後見制度に関する合同会議を開き、原告の名兒耶匠さんらを招いて、話を聞きました。
この中で、名兒耶さんは「後見人をつけたことで投票ができなくなり、投票はがきも届かずに悔しい思いをした。両親とともに投票に行けるようにしてほしい」と訴えました。
これに対し、公明党の北側副代表は「おわびしたい。立法府の責任として法律を見直し、政府に控訴を断念するよう働きかけたい」と述べ、政府に控訴しないよう求めるとともに、後見人がいても選挙権を認めるよう、今の国会での法改正を目指すことを確認しました。

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013031900389より、
成年後見、議員立法も=山口公明代表

 公明党の山口那津男代表は19日午前の記者会見で、成年後見人を付けると選挙権を失うとした公職選挙法規定の見直しに関し、「選挙制度は優れて立法府の課題だ。与党として結論を見いだし、議員立法の道も探るという検討もあってもいい」と述べ、議員立法での法改正もあり得るとの考えを示した。(2013/03/19-12:07)

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO52976050Z10C13A3EA1000/より、
日経新聞 社説 選挙に行ける後見制度に
2013/3/19付

 成年後見制度は認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人を守り、支援するための仕組みである。家裁が後見人を決め、本人に代わって財産を管理したり、契約を結んだりする。ところが後見人が付くと、選挙権は自動的に失われることになる。
 この公職選挙法の規定が合憲かどうかが争われた裁判で、初の司法判断が示された。東京地裁は「一律に選挙権を奪うことは許されず、参政権を保障した憲法に違反する」として、選挙権を求めていた原告女性の訴えを認めた。
 極めて妥当な判断といえる。選挙権は民主主義の根幹をなす重要な国民の権利であり、それを制限することは例外中の例外であるべきだ。国は判決を重く受け止める必要がある。控訴することなく、すみやかに法律の改正にとりかからなくてはならない。
 判決も指摘するように、私たちは選挙を通して、どのような政策が実現されたら幸せかといった意見を表明する。ハンディのある人であればその思いはなおさらであろう。後見人を付けた人は、財産管理の能力が不十分だとしても、選挙権の行使とは関係がない。一律にこれを奪ってしまうやり方には、やはり問題がある。
 成年後見制度は2000年に、それまでの禁治産制度にかわって導入された。法律上の権利を取り上げるのではなく、障害がある人の権利を広げるための制度変更だったのに、選挙権の剥奪はそのまま引き継いでしまった。
 後見人がいる人は全国で13万人以上に上る。私たちの社会は障害がある人も分け隔てなく暮らしていける「ノーマライゼーション」の実現を目指している。障害のある人にも政治参加の道を開き、この理念に恥じない新しい後見制度にしていく必要がある。
 東京地裁の定塚誠裁判長は判決の後、「どうぞ選挙権を行使して社会に参加してください。堂々と胸を張って生きてください」と語りかけた。だれもが同じ思いを抱いたのではないだろうか。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130318/k10013275421000.htmlより、
成年後見制度巡り“公選法改正”で一致
3月18日 14時33分

政府・与党は、病気や障害などで判断力が十分でない人を対象にした「成年後見制度」を巡り、東京地方裁判所が「後見人が付くと選挙権を失う公職選挙法の規定は憲法に違反する」という判決を言い渡したことを受けて、後見人がいても選挙権を認めるよう、今の国会での法改正を目指すことで一致しました。
東京地方裁判所は今月14日、病気や障害などで判断力が十分でない人に代わって財産を管理する「成年後見制度」を巡り、「後見人が付くと選挙権を失う公職選挙法の規定は憲法に違反する」という初めての判決を言い渡しました。これについて18日に開かれた政府与党協議会で、公明党の井上幹事長は「判決は重く、政府・与党として、きちんと法改正を含めて対応すべきだ。与党内で調整したい」と述べました。
これに対し、自民党からも同調する意見が出され、後見人がいても選挙権を認めるよう、今の国会で公職選挙法の改正を目指すことで一致しました。
このあと自民党の石破幹事長は記者会見で、「法改正については、おおかた異論のないところだと思う。今の状態を早く改めなければならず、時間に限りのある話だ」と述べました。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130318/plc13031803140006-n1.htmより、
産経新聞【主張】選挙権剥奪は違憲 国は速やかに法の改正を
2013.3.18 03:14 (1/2ページ)

 成年後見人が付くと選挙権を失うとした公職選挙法の規定について、東京地裁は、参政権を保障した憲法に違反するとの判断を示した。
 成年後見制度は財産などを適切に管理・処分する能力が乏しい人が不利益を被ることを防ぐために設けられたもので、選挙権行使の能力を一律で判断する基準にはなり得ない。
 極めて妥当な判断だといえる。国は速やかに、公選法の改正に動くべきだ。
 公選法は、後見開始の審判を受けた成年被後見人について「選挙権を有しない」と定めている。
 成年後見制度は平成12年、禁治産制度から移行する形で始まった。旧制度では禁治産者に選挙権を認めていなかった。新制度もこれを引き継いだ格好だ。
 国側は、投票能力を持たない人に選挙権を与えれば第三者が不正な働きかけを行うなどの可能性があり、選挙の度に能力を個別に審査することは事実上困難だから、成年後見制度を借用せざるを得ないと主張してきた。
 選挙権は国政参加の機会を保障する基本的権利である。財産管理能力の有無をみる家庭裁判所の審判結果を「借用」し、被後見人から一律に選挙権を奪ってきた公選法と成年後見制度には、重大な不備があったといえる。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130318/plc13031803140006-n2.htmより、
2013.3.18 03:14 (2/2ページ)
 一方で判決は、選挙権を制限するには「選挙の公正確保が不可能か著しく困難と認められる、やむを得ない事情がなければならない」とし、能力による一定の制限を認めた。
 公選法の整備に当たっては、成年後見制度とは独立した判断基準や、「やむを得ない事情」とは何かを具体的に明示することも検討課題となる。
 東京地裁での判決後、定塚誠裁判長は選挙権の確認を求めたダウン症の女性に「どうぞ選挙権を行使して、社会に参加してください。堂々と胸を張って生きてください」と語りかけた。法廷には大きな拍手が鳴り響いたという。
 胸に響く言葉だが、一人、法廷の女性のみに告げて拍手で終わらせてはならない。同様の訴えは埼玉県、京都市、札幌市でもある。成年被後見人は全国で、約13万6500人にのぼる。
 国は法の整備を急ぎ、不当に選挙権を奪われている人に、投票権復活の知らせを速やかに届けなくてはならない。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130317k0000m070084000c.htmlより、
社説:成年後見裁判 違憲判決は当然だ
毎日新聞 2013年03月17日 02時33分

 政治に最も強い関心を持つのは公の政策がどうなるかで自らの生活が影響を受ける人々であろう。判断能力にハンディがある認知症のお年寄りや知的障害者は特にそうだ。ドイツでは選挙になると候補者が障害者の暮らす場へ次々に訪れ、わかりやすい演説を競い合っているという。理にかなった風景ではないか。
 ところが、日本では判断能力にハンディがあって成年後見人がつくと、選挙権が剥奪される。以前の禁治産制度から2000年に成年後見制度に切り替わったとき、障害を理由に資格を制限される欠格条項の見直しが進められたが、なぜか選挙権剥奪はそのまま引き継がれた。
 改善を求める声がなかったわけではない。障害者や家族などの関係団体は何年も前から見直しを求めてきた。法律の専門家の中にも制度の欠陥を指摘する人は多かった。それにもかかわらず制度改正への動きは起きなかった。選挙制度にかかわることは国会議員が主導権を発揮しなければ動かないといわれる。
 であるならば、選挙の際に後見制度改正に熱心な候補を選べばいい。それが民主主義の原則というものだ。しかし、そのための選挙権が剥奪されているのだ。不当な差別を受けている当事者がその差別を解消するためのルールの変更にすら関与できない、という理不尽さを理解しなければならない。
 知的障害の女性が起こした成年後見訴訟で、東京地裁判決は選挙権剥奪を憲法違反と初めて判断した。判決は、ものごとを正確に理解し意思表示できる「事理弁識能力」を欠く者に選挙権を付与しないのは「立法目的として合理性を欠くとはいえない」としながらも、民法が被後見人を事理弁識能力を欠く者とは位置づけていないと指摘し、障害者も「我が国の『国民』である」「主権者として自己統治を行う主体であることはいうまでもない」と述べた。
 成年後見人が付いている高齢者や障害者は計13万人もいる。財産管理や権利擁護が必要でも選挙権を失いたくなくて後見制度の利用を控えている人も多い。公職選挙法を所管する総務省や国会議員は制度改正に着手すべきだ。
 先進各国では権利制限を弱める方向で後見制度を改正してきており、その流れに逆行しているのが日本だ。欧州では後見制度そのものを廃止し、障害者の権利性をより強く確保した「意思決定支援」などの新制度に変えることも議論されている。日本では親族の後見人による金銭流用の不正が多く、弁護士などの専門職後見人は費用負担の面から広がらない。現行制度には問題が多数指摘されている。これを機会に抜本的に見直してはどうか。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 3月 15 日(金)付
後見と選挙権―民主主義が問われた

 自分を守り、助けてくれる仕組みだと聞いていたのに、投票に行けなくなってしまった。選挙権を返してほしい――。
 成年後見制度を利用して後見人をつけたダウン症の女性がそう訴えていた裁判で、東京地裁は「後見を受けている人には選挙権を与えないと定めた公職選挙法は、参政権を保障した憲法に違反する」と述べた。
 得心のゆく判断である。
 このシステムは、法律上の権利を一律にとりあげる「禁治産制度」にかわって、2000年4月に施行された。
 病気や高齢で判断力の衰えた人について、残された能力に応じ、本人がやるもの、他人に委ねるものを柔軟に区分けする。そうやってハンディを負う人も自分のことはなるべく自分で決め、ふつうの生活を送れる社会にする。それが目的だった。
 なのに、実際に後見される立場になると、民主主義社会を築いていくうえでもっとも大切な権利である選挙権を、そっくり奪われる。政治に自分の声を届ける道をふさがれ、事実上、主権者の地位を追われる。明らかにおかしな話だ。
 選挙権の扱いは、法律をつくる段階でも議論になった。
 禁治産者は投票することはできなかったが、法務省は制度の切りかえを機に、この制限をなくすよう唱えた。だが旧自治省の反対で実現しなかった。
 今回の裁判でも、国側は「判断力に欠ける人が選挙権をもつと、不正な働きかけを受けたり第三者に悪用されたりするおそれがある」と主張した。
 そういうケースがないとはいわない。しかし局所的な不公正を気にして、より重要な「全体としての公正」を見ていないのが、いまの規定ではないか。
 判決が「不公正・不適正な投票が相当に高い頻度で行われ、国政選挙の結果に影響を及ぼすといえるだけの事情はない」と指摘し、国側の言い分を退けたのはもっともである。
 公選法にこのような問題があることを伝え、改善を強く訴えてこなかったメディアも反省しなければならない。似たようなかたちで、障害を理由に、資格の取得や公共施設の利用が制限される例はある。時代に即した不断の見直しが必要だろう。
 原告は制度の矛盾をつくと同時に、選挙権があるのを当たり前と受けとめている私たちに、投票を通じて政治に参加する大切さを改めて教えてくれた。
 民主主義とは何か。社会とつながるとはどういうことか。それらを考えるときに、必ず立ち返るべき裁判となった。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013031502000169.htmlより、
東京新聞【社説】選挙権と後見制 政治参加に道を開け
2013年3月15日

  後見人がついた知的障害者にも選挙権は保障される。東京地裁はそう認め、投票権はないと定めた公職選挙法の現行のルールは憲法違反と断じた。国は法改正を急ぎ、政治参加に道を開くべきだ。
 ダウン症で知的障害がある。原告の女性は成人してから国政選挙であれ、地方選挙であれ、選挙公報を読んで両親と一緒に欠かさず投票してきた。
 ところが、計算が不得手という娘の将来を心配し、父親が二〇〇七年に後見人になると、投票の案内が届かなくなった。選挙権を失ったのだ。
 女性は国を訴えた。後見人がついた人とそうでない人の一票にどんな違いがあるのか、と。
 認知症や精神障害、知的障害があるような人は、お金や不動産を管理、処分したり、介護や福祉のサービスを契約したりするのが難しい場合がある。
 そんな人にふさわしい援助者をつけて権利を守る仕組みが成年後見制度だ。能力が全くないとされる成年被後見人は選挙権がなくなる。これが公選法のルールだ。
 東京地裁の判決は原告の言い分を認めた。「成年被後見人が総じて選挙権を行使する能力を欠くわけではない」と言い切った。公選法のルールを明快に違憲、無効とした判断を大いに評価したい。
 判決が指摘するように、この制度は判断能力の乏しい人が財産上の不利益を被らないよう権利を保護するのが主な目的だ。家族の先行きを案じて利用する人は多い。
 だが、後見人がついていても自由に日常生活を送り、結婚したり、遺言したりもできる。人としての自己決定を重んじ、支えるための制度を、選挙権を奪う根拠としているルールこそ言語道断だ。
 この判決の意味は重い。生まれつき障害のある人、不慮の事故や病気で障害が生じた人、高齢化で能力が衰えた人。世の中にはハンディキャップを抱えた人がいる。
 「さまざまな境遇にある国民が、どんな施策がされたら幸せかの意見を、選挙で国政に届けることこそが民主主義の根幹」とも判決は述べた。もっともだ。
 障害のある人も、ない人と同じように選挙権を使い、政治に参加できるようにする。当たり前の立法作業が求められる。
 明治時代から続いた差別的な禁治産制度を一九九九年に改めたのは、ノーマライゼーションという理念に基づくものだった。選挙権を奪ってはこの理念に反する。目指すべきは共生社会だ。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中