1票の格差解消への道 松下英志氏
http://mainichi.jp/opinion/news/20130424k0000m070143000c.htmlより、
記者の目:1票の格差解消への道=松下英志
毎日新聞 2013年04月24日 00時56分
衆院選の小選挙区を「0増5減」とする関連法改正案を巡り与野党が対立する中、「まず今回の改正案を成立させるよう強く求める」(14日本紙社説)との論調もあるが、ちょっと待ってほしい。「1票の格差」を巡る一連の訴訟で司法が下した判断は、0増5減とは相いれないからだ。
◇区割りの仕方、違憲状態を踏襲
改正で1票の格差は最大1.998倍になるとされる。昨年の総選挙時の最大2.425倍(有権者が最多の千葉4区と最少の高知3区との格差)から改善されるように見えるが、その総選挙を巡って先月判決が言い渡された一連の訴訟計16件のうち、広島高裁が「選挙無効」と判断した広島1区の格差は1.541倍、同2区の格差は1.924倍だった。同高裁岡山支部が無効とした岡山2区に至っては1.412倍だ。
これらの判決の根拠となった2011年の最高裁判決は、昨年の総選挙と同じ区割りだった09年衆院選を「違憲状態」(1票の格差は憲法で定めた「法の下の平等」に反するが、是正に要する合理的期間はまだ過ぎていない)と判断した上で、各都道府県にまず1議席ずつ配分し残りを人口比で割る「1人別枠方式」の廃止を求めた。
しかし、0増5減では法律の条文から1人別枠方式という文言は消えるものの、区割りの考え方は同方式を踏襲したものに過ぎない。
16件の判決のうち2件は11年最高裁判決にならい昨年の総選挙を違憲状態としたが、14件は是正に要する合理的期間も過ぎたとして「違憲」と踏み込み、さらにうち2件は、判決の影響が大きいことを考慮してもやむをえないとして選挙無効と断じた。
このうち岡山支部判決は0増5減について「都道府県単位で最少選挙区数を2としており、1人別枠方式を基礎としたものに過ぎず、格差是正のための措置とは言い難い」と厳しく批判。0増5減が実現しても、次回選挙で同様の判断を下す可能性を強くにじませた。一連の判決の中には法改正の動きを評価したものもあるが、0増5減の妥当性を直接的に認めてはいない。改正の内容こそ問われていると読むべきだろう。
◇抜本的な改革、棚上げの懸念
改正を巡る与野党の対立には党利党略もあるとされ、とりわけ民主党は政権与党として昨年の衆院解散時に0増5減を決めながら、現在は非協力的だと非難されている。だが、一連の判決が出されたのは今年3月で、解散時と現在の対応を同じ土俵で論じられないのは当然だ。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130424k0000m070143000c2.htmlより、
訴訟を手がけた二つの弁護士グループのうち「一人一票実現国民会議」を率いる升永英俊弁護士は、0増5減について「害しかない」と一刀両断し、「(格差是正は)50年かかって一寸刻みで1.998倍になった。(国会議員の)みんながそこで止めたいと思っている」と、0増5減の導入で抜本改革が棚上げされることを懸念する。
米国では1983年、0.7%の格差があったニュージャージー州での下院議員選挙を連邦最高裁が「無効」と判断。2002年にはペンシルベニア州の下院議員選挙の小選挙区間で、最大で19人の人口差があったことが違憲とされ、ただちに1人差まで縮小された。
升永氏は、今後3年間で抜本改革を実現すべきだと主張する。「米国でやれて日本でやれないことはない。今の制度は多数決ではなく、住所で差別される少数決。それをほんの少しよくして引き続きやるのが0増5減。少数決がおかしいと思うなら(1人1票に基づく)多数決しかない」
そうした思いを受け止めたとも言える一連の司法判断の重みを、今一度考えるべきだ。(特別報道グループ)