水産業復興特区 「桃浦の挑戦を評価する」
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年 4月 25 日(木)付
水産業特区─改革への起爆剤に
宮城県が国に申請していた「水産業復興特区」が認められた。石巻市桃浦地区の漁師と県内の水産卸会社がつくる会社が、今秋から漁業権を直接持ち、カキ養殖を本格化させる。
沿岸部での養殖にかかわる漁業権は、漁業法で県が漁協に最優先で与える仕組みだ。
東日本大震災を受けて成立した復興特区法は被災地に限ってこのしばりをなくし、桃浦地区では地元漁師らによる法人も漁業権を持てるようになった。
桃浦地区の漁師は、津波で船や養殖施設、自宅を失い、漁協の組合員として自力で漁を再開するのが不可能になった。このうちの十数人が卸会社に資金や経営ノウハウを提供してもらい、養殖業の再建をめざす。
後継者不足、不安定で少ない収益など、震災前から課題は山積していた。
会社の社員となって給料を受け取る形に改め、収入を安定させる。若い担い手を呼び込む。漁協頼みの販売からスーパーなどに直接売り込んで、加工や流通までにらんだ6次産業化や産地のブランド化を進め、利益を確保する――。
こうした新たな取り組みには、会社が漁業権を持ち、安定した基盤を築くことが欠かせない。被災地の漁師の挑戦に期待したい。
残念なのは、宮城県漁業協同組合や全国漁業協同組合連合会が、この特区に反対し続けていることだ。
漁業権を漁協と会社がそれぞれ持つと、漁場でのトラブルにつながりかねない。漁師らの会社自体が今は漁協の組合員になっており、このままで十分ではないか。こんな主張である。
会社が目指す6次化やブランド化は、本来、漁協こそが取り組むべき課題だろう。
宮城県漁協は今後、漁協による共同販売事業のあり方を見直していくという。これまでの努力が十分だったか、共販制度がもたらす手数料頼みに陥っていないか、よく検討して改革案をまとめてほしい。
消費者の魚離れと漁師の高齢化が同時に進む苦境は、被災地に限らず全国に共通する。
漁業権のあり方は、政府の規制改革論議でもたびたびテーマとなってきた。漁業権が既得権益化し、それが漁業の変革を妨げていないか、改めて検証が必要だろう。
水産業特区の試みを、被災地での例外的なケースにとどめてはなるまい。
漁業を取り巻く課題を見つめ直す機会ととらえ、改革への起爆剤としたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO54214730R20C13A4PE8000/より、
日経新聞 社説 水産特区を再生にいかそう
2013/4/21付
宮城県は漁業権の一部を企業に開放する水産業復興特区の認定を政府に申請した。漁業協同組合に反対意見は強い。だが、漁協と企業が対立するだけでは水産業の再生につながらない。漁業者は企業が持つ販売力や資本力を利用し、新しい仕組みを試してほしい。
国内沿岸で漁業を営むためには、都道府県知事から漁業権を取得しなければならない。だが、現在の漁業法で漁業権の取得は、地元の漁業者や漁協が優先される。
復興特別区域法で定めた水産特区は、3種類ある漁業権のうち、養殖業に与える区画漁業権の一部について、民間企業も同じに扱っていいと改めるものだ。
政府が水産特区を認めれば、宮城県はまず石巻市のカキ生産会社に漁業権を与え、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた養殖業の再生につなげたい考えだ。
漁協の反対意見は、企業の参入によって海域の漁業全体が混乱してしまう不安からだ。しかし、漁業権を取得できる企業は、地元の漁業者が参加するなど一定の条件が付き、他の漁業者への影響にも配慮する必要がある。いくつもの条件を満たし、初めて一部の漁業権を取得できる部分開放だ。
農業と同じく、漁業も人口減少と高齢化が同時進行している。将来への不安が強いため、漁船も古いものを使い続けているケースが多い。宮城や岩手、福島県などの沿岸ではこうした構造問題の上に震災被害が加わる。福島や周辺の漁業者には、水産物の放射能汚染に対する風評被害も深刻だ。
漁業も農業も再生に向けて肝要なのは、これまでの仕組みの維持ではなく、競争力を高め、若い人が働いてみたいと思う産業に変えていくことだ。そこに企業が持つノウハウや資本力をいかしたい。
地元漁業者の不安を和らげるために、今後も水産特区について政府や自治体の分かりやすい説明は必要だ。宮城県の水産特区の試みを、全国の漁業者や漁協が取り入れてみたいと考えるように成功させてほしい。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130420k0000m070128000c.htmlより、
社説:水産業復興特区 桃浦の挑戦を評価する
毎日新聞 2013年04月20日 02時30分
震災から3年目にしての進展である。漁業権を民間企業に開放する「水産業復興特区」を宮城県が国に申請した。東日本大震災で被災した同県石巻市の桃浦(もものうら)地区が対象で、申請が正式に認められれば新設された企業が漁業権を得る見通しだ。
反対する県漁協との対立が解けぬままの申請となったが、特区が成功するかどうかは日本の水産業の将来に影響し得るといっても過言でない。挑戦をぜひ、軌道に乗せたい。
漁業法は優先順位を定める形で漁業権を事実上、漁協に独占させている。宮城県はこの規制をゆるめ、民間企業にも開放するプランを震災復興策として提案、復興特区のメニューのひとつとして制度化された。
これに名乗りをあげたのがカキを養殖する桃浦の漁民だ。地元の漁民と仙台市の水産物専門商社が連携し有限責任会社(LLC)を設立した。漁民は「サラリーマン漁師」となり、カキの生産・加工・販売を一体で担う「6次産業化」を図る。
当初、県が目指した12年度中の申請が実現せず、対象も桃浦だけとなったのは、県漁協が特区への反対姿勢を崩していないためだ。漁協側は民間参入で生産調整や漁場管理などの秩序が乱れ「浜を分断・混乱させ復興の妨げになる」と主張する。
大手資本が漁業に参入し、漁場を荒らすことへの警戒を頭から否定はしない。だが、桃浦のケースは地元漁民自ら計画を主導し、宮城の商社と連携したものだ。
震災で生活の基盤を直撃される中「漁協任せ」に限界を感じ、将来の展望が開けずにいたのがLLCに参加した漁民らの実感だった。復興対策のみならず漁業再生を考える先進モデルとして、貴重な試みではないか。国も可能な限り後押しし、地域の振興に資する形で支えてほしい。
復興特区制度は復興支援策の目玉として導入された。産業活性化のため規制緩和や税負担軽減などを認める「復興推進計画」は3月末までに56件が国の認定を受けた。
税制や金融の特例が活用される一方で、さまざまな課題も指摘されている。たとえば、法律で定めるメニュー以外でも被災した自治体が特区方式の活用を国と協議できるシステムはあまり機能していない。
被災地に新たな企業を設ければ法人税を実質5年免除する特例も要件の厳しさなどからほとんど生かされていない。特区の税制特例は震災発生から5年間の期限があり、地元には延長決定を希望する声も強い。
復興特区で被災地が抱える課題の多くは地方の産業が共通に抱える問題でもある。日本全体の産業再生という観点から、政府は運用を真剣に再点検すべき時だ。