記者の目:スーチー氏来日 岩佐淳士氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130425k0000m070133000c.htmlより、
記者の目:スーチー氏来日=岩佐淳士(アジア総局)
毎日新聞 2013年04月25日 00時40分

 ミャンマーの最大野党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー議長(67)が27年ぶりに訪日した。ミャンマー民主化のシンボルは今、国内で深刻化する民族・宗教対立への対応を巡り、国際人権団体から批判を浴びる。スーチー氏は現実的な政治家として民主化を実現に導く強い覚悟を示すが、人々は「真の国民和解」というより大きな理想も彼女に託している。
 ミャンマーは135以上の少数民族を抱える多民族国家だ。1948年の独立以来、高度な自治権を求める各少数民族と国軍との内戦は途絶えたことがない。現在も民主化の陰で一部の少数民族は抵抗を続け、北部カチン州では内戦が激化する。また、西部ラカイン州では「世界で最も迫害されている民族」とされる少数派のイスラム教徒・ロヒンギャ族が多数派の仏教徒との抗争に巻き込まれている。
 スーチー氏はこれらの問題に積極的な発言をせず、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチから「偏見に苦しむ少数派のために立ち向かっていない」と酷評される。

 ◇少数派に冷たい中立的な発言
 スーチー氏は東京大の講演で「私はマジシャンではありません。何かを口にしただけですべてを消し去ることはできない」と話し、こうした批判にいらだちをのぞかせた。日本記者クラブの記者会見では「派手ではないが必要な発言をしている」と反論した。スーチー氏は、対話こそが国民和解の唯一の手段だと訴え、そのために民主主義の基盤となる「法の支配」の確立が重要だと繰り返した。その主張は現実的で理路整然としていたが、「それぞれが自分たちを唯一正しいと考えていては和解はできない」とした中立的な発言は声の小さい少数派には冷たくひびく。
 スーチー氏の父で「建国の父」と称される故アウンサン将軍は、少数民族に自治権を認める「パンロン合意」をまとめ国家統合の礎を築いた。このため、少数民族側はスーチー氏を信頼し、旧軍事政権に対して共闘してきた。だが、あるカチン族の女性は「少数意見を尊重できないノーベル平和賞受賞者なんているんですか。私たちはもうスーチー氏には頼らない」と憤る。
 最近のスーチー氏はときに「政権寄り」と非難され、一方では「現実路線を歩んでいる」とも評価される。かたくなに理想を求める運動家が現実的な政治家として最初の妥協をしたのは、昨年4月の国会議員当選直後だった。スーチー氏は当初、自らの公約に反する「憲法護持」の就任宣誓を拒否したが、国民から批判をあびて撤回。旧軍政の弾圧には決して屈しなかったスーチー氏は「テインセイン政権のもとで進む民主化を後戻りさせてほしくない」と願う世論の前に、信念を曲げた。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130425k0000m070133000c2.htmlより、
 世界最貧国に甘んじるミャンマーの多くの国民は経済発展を望み、再び米欧の経済制裁強化を招きかねない政権とスーチー氏の対立を望まない。また非民主的な憲法の改正にもスーチー氏と政権の協力が必要となる。政権批判を控えながら民主化実現を目指す今のスーチー氏のやり方には多くの国民が賛同している。

 ◇政治家として厳しい道歩む
 だが、現政権が進める民主化の延長線上にスーチー氏の目指す本当の国民和解があるのだろうか。
 国軍による空爆にさらされるカチン族の武装勢力幹部は「今行われているのは(多数派の)ビルマ族中心の民主化だ」と訴える。隣国バングラデシュからの不法移民とみなされ、仏教徒と対立するロヒンギャ族の人権問題は無視されている。東京・渋谷で行われたスーチー氏と在日ミャンマー人との集会で出会った仏教徒の男性は「ロヒンギャは単なる不法移民で(和解が必要な)少数民族とは違う。スーチー氏も同じ考えのはずだ」と強調した。国全体を覆う「民主化」の大合唱の中で少数意見はかき消され、民族・宗教間の溝は逆に深まっているように見える。
 旧軍政下で通算15年に及ぶ自宅軟禁を受けながら民主化を訴え続けたスーチー氏からその信念を支える強さが失われてしまったとは思わない。毎日新聞との会見で「求めるものを実現するには大統領になる必要がある」と語った彼女は、政治家としてのより厳しい道をあえて歩んでいる。政権と交渉し、民意をくみ取りながら具体的な結果を残さなければならない現実の政治には、幻想を形に変える魔法の言葉などないかもしれない。それでも、国民和解の実現にはミャンマーの人々が現状の価値観を乗り越える勇気を持つ必要がある。そしてそれを与えられるのは、やはりスーチー氏しかいないと思う。

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