時代の風:憲法改正条項の改正論 中西寛氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130428ddm003070061000c.htmlより、
時代の風:憲法改正条項の改正論=京都大教授・中西寛
毎日新聞 2013年04月28日 東京朝刊

 ◇心許ない政治家の技量−−中西寛(ひろし)
 安倍晋三首相は最近、きたる参院選で憲法改正、なかんずく憲法改正に関する手続きを定めた96条の改正を争点にする意向を示している。自民党は改憲を党是としてきたのだから、改憲を掲げて選挙を戦うのはある意味で潔い。しかし憲法改正は具体的な条項の改正を巡って行われるのが本筋で、改正条項という技術的規定についての改正を提起するのは、国民にとって判断が難しい。世界的にも憲法改正条項だけの改正というのは恐らく例がないだろう。

 言うまでもなく、護憲か改憲かというのは戦後日本政治の最大の争点である。もちろんその中心には、憲法9条をめぐる対立があった。私自身は、憲法9条に関する限り改憲論である。憲法9条、特にその第2項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という条項は、敗戦直後の日本が長期的に非武装状態に置かれることを前提として制定されたものであった。しかし冷戦のために状況が変化して再軍備が実現した以上、サンフランシスコ講和条約で独立した時か国連に加入した時に本来は改正されるべきだったのである。しかし国内政治の分裂状況の中でそれは実現せず、政府は解釈をもって自衛隊を合憲としてきたのが現実だが、そもそもから言えば9条、特にその第2項は改正されて然(しか)るべきだと考える。

 従って、護憲派か改憲派かと言えば私は改憲派ということになろう。しかし護憲、改憲のレッテル貼りには意味がないと思う。憲法を変える、変えないは目的ではなく手段である。変えることで良くなるなら変えればよいし、変えることで悪くなるなら変えるべきではない。私は、近年の「ねじれ国会」で明らかになった衆参両院の権限関係の曖昧さや、地方自治に関する規定の不足も現憲法の弱点であり、改正に値すると考えている。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130428ddm003070061000c2.htmlより、
 しかし自民党などが現在提起している改正条項の改正案の妥当性には疑問を抱く。憲法96条では衆参両院の総議員数の3分の2以上の賛成で改正を発議し、国民投票ないし国政選挙の際の投票での承認を要するとなっている。各院議員の3分の2という発議要件を過半数に改めようというのが改正案である。しかしこれでは現状から考えて改正が容易になりすぎるのではないだろうか。両院の過半数というなら、出席議員の過半数で採決される通常の法律の採決にかなり近づく。国民投票の要件はあるが、一度も憲法改正が行われたことのない現状で考えると国民投票は大事のように思えるが、憲法改正の発議が繰り返されると改正支持者以外の投票率が低下してしまうことも予想される。そうなると憲法改正がほとんど普通の法律なみの容易さで実現することになる。

 国会の過半数で憲法を変えるということが絶対的に悪いわけではない。憲法を法律とさして変わらない扱いにすることもあり得るし、イギリスのように特定の憲法典をもたない国もある。しかしそのためには国民の意識と立法者たる政治家の法律を扱う技術が伴っていなければならない。国民の憲法に対する意識は今のところ、普通の法律に対してと大きく異なっていることは明らかであろう。

 それ以上に懸念をもつのは政治家が憲法を含めた法律を取り扱う能力である。侮辱するなと叱られそうだが、よい例が中選挙区から小選挙区比例代表並立制への選挙制度の移行である。中選挙区制の時代を知る世代の議員で、小選挙区制への移行がよかったという声は圧倒的に少ない。それではどうして賛成したのかと問うと、要するに「雰囲気」に流されたということのようである。その時と今と比べて、制度や法律に関する見識で今の政治家は格段の進歩を遂げたと自信のある政治家は果たしているだろうか。

 もちろん経験から学ぶことは大事である。しかしそれなら、違憲判決の出た1票の平等をめぐる選挙区割りの是正問題や、「ねじれ国会」で問題となった憲法上規定のない参院の問責決議や予算関連法案の取り扱いといった格好の練習問題がある。この程度の問題について議論を尽くして解決できないようでは、憲法改正を云々(うんぬん)するのは心許(こころもと)ない。後になって「あの時は雰囲気で憲法を変えました」と言われては国民も立つ瀬がないだろう。=毎週日曜日に掲載

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