風知草:原発輸出は「富国無徳」 山田孝男氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130506ddm003070180000c.htmlより、
風知草:原発輸出は「富国無徳」=山田孝男
毎日新聞 2013年05月06日 東京朝刊

 原発輸出はおかしい。福島原発はなお不安定で、日本の原発システムは未完のままだ。不備があるから再稼働が滞っている。
 にもかかわらず、外国に売る。「先様がよくてこっちも助かるならいいじゃないか」という考えには同意できない。自国の経験に学び、友好国の安全も親身に考える徳に欠ける。「富国、無徳」はいけない。
 福島原発事故が暴いたものは、巨大システムの中で細分化された専門家の無力だ。平和と繁栄に慣れ、イザという時に根幹を制御できない社会の弱さだ。不安は常に技術進歩で解消という皮算用、希望的観測を疑わぬ慢心である。
 おくればせながら連休中に「カウントダウン・メルトダウン」(船橋洋一、文芸春秋。上・下)を読了した。原発事故直後、国民が垣間見た戦後日本社会の亀裂の深層を証言で描き、先月、大宅壮一ノンフィクション賞に決まった。
 筆者は朝日新聞の元主筆である。定評ある取材力もさりながら、私が最も印象深く読んだのは、後始末に駆り出された多くの人々が事故の中に「敗戦」を見ていたということだ。彼らは自ら戦史とダブらせて状況を語り、しかも、あぶり出された「敗因」はいまだ取り除かれていない。
 高線量下の電源復旧作業に作業員を走らせる現場責任者が「神風特攻隊を送り出す気持ちだ。零戦も燃料もない」と訴えた。東京電力本店が現場の応援要請に応えぬ様子を見た政府高官は「ガダルカナル」だと思った。先の大戦で日本軍が大敗した島の名だ。
 役に立ったのは東電の顧問やOBなど旧世代の技術者。新世代はマニュアルのない世界は苦手−−。技術官僚のこの観察も日露戦争以降、実戦を知らぬ軍人が増えて安定感を失った旧軍の歴史を思わせる。
 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)があるのに政府は発表に伴う混乱を恐れて情報を伏せた。海洋気象学者が猪瀬直樹東京都知事のノンフィクション「昭和16年夏の敗戦」を引き、情報無視の伝統を嘆いた。
 対米開戦前の1941年春、近衛内閣が官民の若手エリートにシミュレーションを求めた。結論は「奇襲で緒戦には勝てるが、長期化し、ソ連参戦で必敗。開戦回避を」だった。
 ところが、東条英機陸相は黙殺した。「諸君の研究の労は多とするが、これはあくまで机上の演習でありまして、実際の戦争というものは君たちが考えているようなものではない。日露戦争にしても勝てるとは思わなかったが、勝てた」という理由で−−。
 一連のエピソードは、平和一筋で盤石の経済大国を築いてきたはずの、戦後日本の頼りなさを浮き彫りにしている。原発が戦争並みの危機を招く装置であることも明確にした。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130506ddm003070180000c2.htmlより、
 しかも危機は去っていない。政権は代わったが、原発管理の主体は「言われたことを仕方なくやる組織文化」「上向き・内向き志向」の東電(原子力安全委員会課長)のままだ。
 読み終えてテレビをつけると、安倍晋三首相が現れた。トルコで原発受注の優先交渉権獲得を発表、「事故の教訓を世界と共有します」と訴えていた。
 事故の最大の教訓は何か。原発には二面性があるということだと私は思う。繁栄も生み出すが、時として国土喪失に至る−−。
 国内では事故に懲りて原発離れを探り、中東では稼ぎ優先の原発ビジネス。二枚舌も使いようだが、徳望ある「新しい国」にはふさわしくない。(敬称略)(毎週月曜日に掲載)

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中