黄金週間に考える 「五月病に負けないために」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013050602000132.htmlより、
東京新聞【社説】黄金週間に考える 五月病に負けないために
2013年5月6日

 ゴールデンウイーク明けに心身の不調をきたす「五月病」。新入生や新社会人が環境の変化で陥るようです。「一人で頑張りすぎない」が対処法です。
 「印税の全額約二億円を東日本大震災の被災地に寄付」-。
 三月下旬、ドイツの日刊紙『ビルト』が報じ、日本の新聞にも転載された記事に驚かされました。贈り主はサッカー日本代表で主将を務め、ドイツ・ブンデスリーガで活躍する長谷部誠選手。東日本大震災の直後に発売された著書『心を整える。』(幻冬舎)は、発行部数が百三十五万部に達し、スポーツ選手の著書としては過去最高になったそうです。

◆弱さゆえの心の準備
 いわゆるスポーツ根性論にありがちな「精神を鍛える」類いのものでなく、いかに心を安定的な状態に保つかを説いています。なぜ、これほどまでに売れているのでしょうか。震災後の意識の変化も大きく影響したようですが、それは後ほど触れることにして、それだけ悩める人、心を整えたい人が多いことの証左ではないか。
 長谷部選手が「心を整える」ことを重視しているのは「自分が未熟で弱い人間だと認識しているから」と言います。弱さゆえに、心の準備に神経と時間を費やすのだと。二十代半ばの若者ながら努力家、勉強家らしい物の見方としっかりした記述が光ります。
 「五月病」の対策にも大いに参考になりそうです。五月病というのは正式な医学用語ではありません。重くなれば、うつや適応障害といった心の病気にまで発展しますが、多くは期待と現実のギャップや環境の変化に戸惑うことから起きる心の症状を総称したものと国立精神・神経医療研究センターの大野裕・認知行動療法センター長は解説します。

◆相談することが大事
 例えば、希望を抱いて地方から大都会に来たが、住み慣れないうえ、大学に行けば知らない人ばかり数百人も入る大教室。一人で頑張りすぎて、心身の疲労がたまってくるのが五月ごろなのです。もっとも最近は、競争社会の激化などで五月どころか通年化しているともいわれますが。
 動物がストレスに遭った時にとる対応は「闘う」「逃げる」「固まる」の三つしかないのだそうです。人間の肉体的能力は限られているため、原始から協力し合って自分たちを守ってきた。それは現代社会にも通じます。一人で考えすぎると行き詰まってしまうので誰かに相談する。話をすることで理想と現実のギャップを客観視でき、それが対処法になります。
 苦しみや悲しみを分かち合ってくれる、それが人間です。長谷部選手は発売直前に起きた大震災に配慮して発売延期も検討したそうですが、結局印税すべてを被災地に寄付することを選びました。その思いに共鳴して本を買った人も多かったと思います。
 反響はネット上でも広がりました。「選手生命は短いのだから引退後の貴重な蓄えにすればいいのに、すごい」。被災地からのすてきなコメントも見つけました。「長谷部、本田、長友、香川ら、やはり日本代表だよ、みんな形こそ違えど、風化させずにずっと支援してくれてる。被災者でもある俺が素直にそう思えるんだ。オフになるといっぱい来てくれる。本当に感謝しきれないわ」
 そんな今なお困難な状況が続く被災地で、売れ続けている本があります。ビクトール・フランクルの『夜と霧』(みすず書房)です。第二次大戦中にナチスの強制収容所に入れられ奇跡的に生還した精神科医フランクルが自ら体験した過酷な経験をつづった書。生きる意味や希望を見つける手がかりにしたいと、世界中で読み継がれてきた名著です。
 「どうして人生はうまくいかないのか」「どうしたら幸せになれるのか」と私たちは考えがちです。それは「自分中心」に人生をみるからです。そうではなく、何のために生まれてきたかという「使命」中心に人生を見つめるようフランクルは求めます。
 つまり「生きる意味は」と人生を問うのではなく、問題に直面するたびに人生から問われる使命に全力で応えればいい。人間が人生を問うより先に、人生から人間が問われているのです。

◆絶望の先に光がある
 フランクルはポジティブ思考で前向きになるようなごまかしを戒めました。苦悩を直視し、悩んで悩んで悩み抜く。絶望の先に光があると諭しました。長谷部選手も「迷った時こそ、難しい方の道を選ぶ」。難しい道ほど自分に多くのものをもたらすと言います。
 若葉がまぶしい季節です。どうか悩むことを恐れずに。そして一人だけで頑張りすぎないように。
 大丈夫、人間はそう簡単には負けないのです。

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