被災3県の復興事業 用地取得、後手の法整備
http://mainichi.jp/opinion/news/20130519ddm003040162000c.htmlより、
クローズアップ2013:被災3県の復興事業 用地取得、後手の法整備
毎日新聞 2013年05月19日 東京朝刊
◇国の迅速化モデル、地権者不明を想定 全国に相続人、交渉が負担
東日本大震災の被災自治体が目指す「津波に強い街づくり」に必要な復興用地取得が遅れている。多くの人が亡くなり土地登記の不備もあって、買収交渉先の地権者や相続人を割り出すこと自体が難しい上、職員の手が足らず交渉も進まないためだ。国がモデル事業とした岩手県釜石市・片岸地区の防潮堤再建ですら、2015年度の完成予定に間に合わない可能性もある。実態に合った抜本的対策を求める現場に対し、「財産権の侵害」との批判を恐れる国は及び腰で、平行線のままだ。【金寿英、宮崎隆】
コンクリート壁が途切れた箇所から、田畑に海水が流れ込む。地盤沈下も手伝い水が引かない。震災前は、約200世帯の民家と田畑が混在する田園地帯だった周囲は、殺風景な更地のままだ。大槌(おおつち)湾の最奥部にある市北端の片岸地区。その光景は、長さ1キロ、高さ6・4メートルの防潮堤が大津波で破壊された約2年前と大差ない。地区の自宅が流された山崎長也(たけや)さん(76)は「防潮堤がなくては安心して家を建て直せない」と嘆く。
県は従来より8・1メートル高い防潮堤再建を計画、新たに買収する5・2ヘクタールの用地取得が、国の取得迅速化対策のモデル事業になった。
先月公表された対策の柱が、地権者らに代わり、家裁が選任する弁護士らが土地を売却できる民法の「財産管理制度」の積極活用。昨年6月の県の事前調査などから「地権者らが震災で亡くなった」「震災前の相続登記がなされていない」といった土地が多いと見込み、権利者の所在が分からない場合などに対応する既存制度の活用を打ち出した。
だが登記簿などを精査すると、実態とのズレが浮かんできた。同制度で取得が容易になるのは、地権者が売却に前向きなケースと合わせても、買収交渉が必要な土地42件の半数程度。4割弱は相続人に当たる148人が全国に散らばり、約1割は抵当権が付いているため金融機関などとの交渉が要る。国の対策だけでは、地権者と交渉する自治体の負担は軽減されない。
県の県土整備企画室の小笠原隆行管理課長は「交渉には多大な労力と時間を要する。公共の利益などにかなえば、私有地を自治体が使用できる制度などを創設してほしい」と話す。国は土地収用法手続きの審査期間短縮化も打ち出し、県は4月に手続きに入っている。復興庁は「既存の法制度の枠組みで運用改善を図った。過度な私有財産の制約は憲法に抵触する恐れがある」と慎重な物言いだ。
「住まい」に直結する土地区画整理事業や防災集団移転促進事業(防集)でも、用地確保が課題だ。
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例えば、津波で壊滅したJR大船渡駅周辺33・8ヘクタールの区画整理。海岸から250メートルで海抜が低く、建ち並ぶ住宅や個人商店が根こそぎ流された。大船渡市は土地かさ上げなどで安全を確保する計画だ。しかし住民説明会では、かさ上げが19年度までかかることや、公共用地に充てるために私有地の一部を差し出す減歩への不満が噴出。地権者約100人は昨年11月、見直しの要望書を市に出した。仮設の寝具店を営む菊池武男さん(66)は「家を流され、減歩で土地まで取られるなんて」と嘆く。
6地区約1300世帯の防集で約10ヘクタールの取得を目指す大槌町では「被災した親類を住まわせたい」と売却を断られる土地も。応援職員を含む約10人では交渉のノウハウも人手も足らず、町都市整備課の担当者は「スピード感を持って進めているというところに達していない」とこぼす。
◇住民合意遠く
死者・不明者700人以上を出した宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)地区は、再建計画策定という復興の入り口段階で足踏みが続く。移転を望む住民の意向を十分把握せずに、有識者らの議論を基に市が現地再建を掲げたためだ。二転三転の末、市は3月、防集と区画整理を併用する方針を示した。今夏の事業認可取得を目指すが、用地買収交渉が始まるまでの道のりは長い。
市の現地再建は「病院や学校などの公共施設を閖上単独で維持する」狙い。当初5500人居住を想定したが、人口流出が相次ぎ3000人規模に縮小した。だが昨夏の住民アンケートでは計画地への居住を望む被災者は計約34%、3000人に届く保証はない。
市内の仮設住宅で暮らす佐藤徳子さん(54)は「自宅跡を売っても二束三文にしかならないし、自力再建する蓄えもない。いつ災害公営住宅が建つかも分からず、焦っている。納得はしていないが、市の計画に従うしかない」とため息をつく。
福島第1原発事故で全町避難を続ける福島県楢葉町では、津波で被災した民家98戸を含む沿岸部約15ヘクタールを来春までに買い取る高台移転計画が全く進まない。対象地の不動産賠償に関し東京電力は今年3月、宅地や建物などは手続きを始めたが、田畑や山林は「賠償基準が決まっていない」と福島広報部。町の担当者は「基準が示されないと、避難している所有者に買い取りに応じてもらえない」と語気を強める。【金森崇之、蓬田正志】