週のはじめに考える 「世論は外交を動かすか」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013052602000138.htmlより、
東京新聞【社説】週のはじめに考える 世論は外交を動かすか
2013年5月26日

 外交は、政治家や外務省だけのものではありません。国家間には、歴史も経済も人の往来もあります。では、私たちはどう参加すればいいのだろうか。
 国民の声は、世論という形であらわれます。
 その世論と外交との関係でいうと、戦争の後の日本での大きな動きとして、一九六〇年の日米安保改定、その十年後の自動延長が思い出されます。
 その時、世論はどう動いたか。
 学生や労働者たちの安保反対デモに対して、少なからぬ日本人は距離を置いていたようです。その結果として、デモは政治を動かさず、逆に政治が外交を思い通りに動かしたのです。

◆ジョンソン氏不出馬
 同じころ、アメリカではベトナム反戦運動が政治を動かそうとしていました。
 ペンタゴン、国防総省への行進がありました。戦況もよくない。当時のジョンソン大統領は大統領選への不出馬を決めます。世論が許さないのです。選挙に勝てないのです。
 次いでニクソン大統領は、空前の大規模デモに遭います。包囲されたホワイトハウスの奥で耳をふさいでいた、という話すら伝えられたものです。
 そういう時の世論とは何だったのか。
 ニクソン氏は、キッシンジャー特別補佐官を用いて、戦争を終結させます。その隠密外交は世界を驚かせましたが、戦争を終わらせたのは、実はアメリカ世論だったのではないでしょうか。世論の正義に政治がついてきたわけです。
 目下、アメリカではオバマ大統領がシリアへの軍事介入に極めて慎重です。政治家には介入を求める声もあるのですが、世論が慎重なのです。アフガニスタンやイラクの戦争の痛手と後悔はなお消えていないのです。世論は殺されたり、殺したりする兵士の立場で、ものを考えてもいるのです。

◆民間にも外交はある
 そういう大きな世論のある一方で、外交に挑もうとする小さな世論もあります。民間の運動です。
 たとえば、ちょうど来月公開の「李藝(りげい) 最初の朝鮮通信使」という題の日韓共同製作ドキュメンタリー映画が、それに当たるでしょう(日本の外務省、在日韓国大使館など後援)。
 通信使の足跡を韓国の俳優ユン・テヨンさんがたどる内容です。
 李藝は朝鮮王朝前期、日本では室町時代の外交官。少年時、母親を倭寇(わこう)に拉致されます。母親を取り返そう、取り返すには国同士の理解が必要だとして四十回以上も日本に渡航。母親はついに見つからなかったが、六百人以上の同胞を連れ戻したといいます。
 映画は、長崎県対馬市の寺に立つ「通信使李藝功績碑」の紹介から始まり、博多、山口、広島、岡山を経て京都へと進みます。
 博多では独特の祭りの掛け声、おっしょい、が、韓国のワッソヨに似ていて、テヨンさんが驚く場面もあります。
 宿所の寺では、漢字の筆談が交わされたといい、しょうゆを入れてきた高麗焼の大壺(つぼ)が今も大切に保管されていたりします。
 昨夏の李明博大統領(当時)の竹島(韓国名・独島)上陸では映画製作の継続が危ぶまれたそうです。両国の外交も世論も硬化しました。一政治家の無思慮な行動が民間外交をつぶしかけたのです。
 悪化した事態の打開には、外交上は首脳会談などが必要となるでしょうが、その実現には少なからぬ世論の支持が前提となるでしょう。それなくしては成果は永続しません。
 世論は時にうつろいやすいなどともいわれます。だが、それは政治が誤り、マスコミが誤導した場合でしょう。
 戦前の日本外交の失敗を述べた文書が外務省にあります。戦前の外交官で戦後首相になった吉田茂が、調べさせたものです。
 外務省職員による印象的な一文があります。こう言います。
「外務省が、内政上の基盤をもたず、国民と遊離していたことがいけない」
 国民なくして外交なし。吉田の嘆いた外交敗北の真相でしょう。
その意味で、私たちは一人ずつが外交の担い手なのです。

◆相手国民もまた同じ
 外交は、その昔、貴族的で秘密主義を無上の価値としたものでした。しかし、今の国民国家時代には正当な世論をより重んじるべきです。なぜなら、国民は外交相手の国民も自分とまた同じだと考えるようになってきたからです。
 グローバル化時代、ネット時代の外交とは、世論が政治に動かされるのではなく、世論は外交を動かしもすると考えるべきではないでしょうか。つまり私たちには、それだけの重みも未来もかかっているのです。

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