今、平和を語る:豊田直巳さん

http://mainichi.jp/area/news/20130527ddf012070037000c.htmlより、
今、平和を語る:フォトジャーナリスト・豊田直巳さん
毎日新聞 2013年05月27日 大阪夕刊

 ◇戦争の勝者は権力者だけ 国家の「神話」にだまされるな
 イラク戦争から10年という節目の今春、「終わらないイラク戦争」(勉誠出版)=写真<1>=が刊行された。フォトジャーナリストの豊田直巳さん(56)ら3人が編者となって、平和活動家や大学教員ら13人の報告や論考をまとめた。レバノンや旧ユーゴスラビアの内戦からイラク戦争と、最前線の現場を撮ってきた豊田さんに聞いた。

−−豊田さんの写真には子どもたちがいます。
 豊田 1983年にパレスチナを訪ねたとき、難民キャンプで生まれ育った2世や3世に出会い、戦争の終結でニュースから消えた現場にも、ずっと人がいるのだと初めて意識しました。一つの象徴が子どもです。現在形でいえば、子どもたちをどう守っていくのか−−その現実を突きつけられました。

−−湾岸戦争やイラク戦争では劣化ウラン弾が使われ、イラクの子どもたちの健康障害は今なお深刻です。
 豊田 バグダッドのがん病棟で出会った6歳の少女は、やせ細った腕と大きく腫れあがった頭髪のない頭で、小さな体をベッドに横たえていました。寝返りを打つこともできず、撮影の2日後に亡くなったそうです。ショックでした。産婦人科の医師から見せてもらった写真には、脳みそが頭から漏れ出ていたり、目が一つしかなかったり……親に見せられないまま死んでいった赤ちゃんが写っていました。特殊なケースでないのは、「子どもの墓地」と呼ばれる、そうした子どもたちの埋葬場が示しています。
 サマワでは脚が1本しかない「人魚のような赤ちゃん」が生まれました。医師は「親が放射線を浴びたか、化学物質を浴びたかでしょう」と推測しています。異常出産は劣化ウラン弾が使われた戦争の後で激増しているのですから、戦争と無関係だとは思えません。

−−サマワから帰還した米兵の子どもにも異常が見られました。
 豊田 ニューヨークに住む米兵は頭痛と倦怠(けんたい)感に襲われ、頭部にむくみが出たため、尿検査をしたら劣化ウラン弾による被ばくが判明したそうです。アメリカの新聞で知って、私は彼に会いに行きました。イラクから帰国後に奥さんが妊娠し、女の子が生まれたのですが、右手には指が2本しかなかったのです。当時1歳に満たなかった可愛い女の子は、3本の指がないのを自覚していません。両親は将来、どう説明したらいいのかと苦しんでいました。

http://mainichi.jp/area/news/20130527ddf012070037000c2.htmlより、
 帰還米兵の子どもに、サマワの「人魚の赤ちゃん」と重なる異常出産が起きているのを知って、戦争で勝者になるのは遂行した権力者だけだと痛感しました。従軍した戦勝国の兵士を含めて一般の人たちは、敗者としての道を歩まされる、これが戦争の本質です。

−−日本政府はイラク戦争を支持し、「人道支援」の名目でサマワに自衛隊を派遣しました。
 豊田 外国から見れば自衛隊は、明らかに軍隊です。私が取材した軍隊は、どこの国であっても人道支援などしません。人道支援は軍隊以外の国際機関やNGOが取り組んでいます。イラクもそうで、市民は軍隊を怖がっていました。だから米兵は緊張した面持ちで、常にイラク市民に自動小銃を向けていたのです。そんな状況下で、自衛隊を派遣するのは非常識でしょう。

−−軍隊についての見方は。
 豊田 イラクの武装勢力による日本人監禁事件(2004年4月)が起きたとき、米軍に解決を依頼する動きがあったので、民放テレビに出演して「軍は人質を解放しません、軍の解決策は皆殺しです」と話しました。国家組織として上意下達で動く軍は、国家のための解決しか念頭になく、捕らわれた家族や親族のための問題解決はしません。そこが警察とは違うし、そういう組織が軍隊なのです。米軍に限らず、私が取材で歩いた国は全てそうでした。
 武力によって問題が解決した戦場はありません。武力は武力を呼んで、問題の解決を困難にさせるだけです。

−−著書の「フクシマ元年」(毎日新聞社)=写真<2>=にこうあります。<ヒロシマ、ナガサキからチェルノブイリへ、そしてイラク戦争へと過ちを繰り返し続けた私たちの過去は、「安全神話」信仰の歴史と重なる>
 豊田 為政者は本質を隠すため安全神話をつくるのです。原発の「安全神話」が崩壊した今、フクシマの放射能はもう大丈夫ですよ、という「安心神話」に姿を変えてきたように思います。そうして無関心層を増やし、フクシマを忘れさせたいのではないですか。その手に乗らないためにも、安心神話にだまされてはなりません。フクシマを忘れず、子どもたちや避難者を支援していくことが大切です。

−−「終わらないイラク戦争」から引きます。<再軍備や戦争準備を推し進めようとする者たちは、ことさら国家の危機を煽(あお)り、あるいは国際貢献などという美しい物語を創作してきたのです>。警戒すべき「安心神話」は。
http://mainichi.jp/area/news/20130527ddf012070037000c3.htmlより、
 豊田 アジアの脅威に対抗するために日米同盟を強化する、それが国益であり安全保障だと政府・与党は言います。本来、安全保障は国際刑事裁判所が担うべきです。しかしアメリカは、軍隊で問題を解決したい国だから未加盟です。そんなアメリカに追随する必要から、日米同盟と「核の傘」による「安心神話」をつくっていると思います。そのうえで日米同盟の強化には、改憲して国防軍を保持することだと言う。恐ろしい神話ですよ。福島の原発事故で教えられたように、神話が崩壊した後にだまされたと気づいても遅すぎます。<聞き手・専門編集委員、広岩近広>=次回は6月24日掲載予定

 ■人物略歴
 ◇とよだ・なおみ
 1956年静岡県生まれ。日本ビジュアルジャーナリスト協会(JVJA)会員。83年から中東を中心にアジア、アフリカなどの紛争地を巡り、東京電力福島第1原発事故後は何度も福島入りして、各地で写真展を開いている。2003年に平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞を受賞。「写真集 イラク戦争下の子供たち」(第三書館)や「戦争を止めたい」(岩波ジュニア新書)など写真集や著書多数。

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