やはりおかしい自民党の憲法観 小林節氏

http://www.nnn.co.jp/rondan/ryoudan/index.htmlより、
一刀両断 -小林 節-
やはりおかしい自民党の憲法観
日本海新聞 2013/5/28の紙面より

 安倍内閣の下で例年になく盛り上がった憲法論議に参加したために、私は、自民党の「日本国憲法改正草案」を何回も精読する機会を得た。

 その結果、やはり、自民党の「憲法」観は根本的にズレていると指摘せざるを得ない。

 まず、国法体系全体の中における憲法の位置・役割について自民党は誤解している。民法、刑法等の法律は、国家(主権者・国民大衆の代表)の意思として、国民大衆の言動を規制するものであるが、憲法だけは、唯一の例外として、国民大衆の最高意思として、国家権力担当者(国民の代表、政治家以下の公務員たち)を規制するものである。

 にもかかわらず、自民党の草案では、102条(憲法尊重擁護義務)の第1項でまず、「全国民」(これには非権力者たる大衆も含まれる)にその義務を課し、次いで第2項で「公務員」にもその義務を課している。これは、勝手な、憲法の意味転換であり、規制の方向も順番も逆である。

 また、いわゆる人権総則(つまり、全ての人権に適用される原則)に当たる12条で、人権を濫用(らんよう)してはならないことと、人権が公益に反してはならないことを規定しているのは当然としても、21条(表現の自由)にだけあえてその規定を再度付記してあるのは、異様である。表現の自由は自由と民主主義の基であるので最も大切に扱われるべきだとする理解が憲法学の常識であるが、自民党草案はその真逆である。

 さらに、9条の二第3項では、国防軍は法律の定めるところにより国際協力活動(つまり海外派兵)ができると規定している。これは、要するに、国会の過半数を握っているからこそ政権を保持している党派の意向でいつでも海外派兵できる仕組みである。

 しかし、海外派兵などという、国家の命運に関わる重大な歴史的・政治的決断こそ、時の相対多数決で簡単に決定できないように、憲法で厳重に条件を明記しておくべき事項であろう。例えば、時の政府が派兵したいと考えても、国連決議(国際社会の合意)と国会による事前承認(個別具体的な国民的合意)がなければ出兵させないくらいの厳格な条件が憲法典の中で明記されているべきである。

 このように、自民党の憲法草案は、権力を厳格に縛るべき憲法という役割を離れて、国民を厳格に縛り権力に大きな自由を与えようとする、少々おかしなものである。
(慶大教授・弁護士)

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