南海トラフ地震 「予知から減災へ」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130530/dst13053003270001-n1.htmより、
産経新聞【主張】南海トラフ地震 予知への幻想を断ち切れ
2013.5.30 03:27 (1/2ページ)
中央防災会議の作業部会がまとめた「南海トラフ巨大地震対策」の最終報告に、「確度の高い地震予測は難しい」とする見解が盛り込まれた。東海地震の直前予知見直しを迫る内容だ。
最終報告は、南海トラフ沿いで起きうる最大級の地震=マグニチュード(M)9・1=を想定し、対策の基本的方向と具体策を示したものだ。南海トラフ全域を見据えた対策を推進するため、法的枠組みの確立も求めている。
新たな災害法制を築くためにはまず、大規模地震対策特別措置法(大震法)を撤廃し、予知にけじめをつけなければならない。
日本の地震対策は、東海地震を「直前予知の可能性がある唯一の地震」とする大震法を中核に構築された。平成15年に策定された対策大綱は、予知を目指す東海地震と予知体制がとられていない東南海・南海地震が分かれている。
このため、現行法では過去に単独で発生した記録がない東海地震の対策はあるが、繰り返し日本列島を襲ってきた東海・東南海の連動型や東海・東南海・南海の3連動型地震に備える防災対策がない。大震法の存在自体が、日本の地震防災の欠陥といえる。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130530/dst13053003270001-n2.htmより、
2013.5.30 03:27 (2/2ページ)
古屋圭司防災担当相は、予知体制の見直しについて「前兆現象が観測された場合の情報発信や防災対応を議論する場を設けたい」と述べ、「観測点を増やし、科学的知見を集約すれば、予測の確度は上げられる」と観測網の充実に期待を示した。
議論の場は当然必要だが、予測への幻想になってはいないか。
阪神大震災後、地震観測網は大幅に拡充されて、多くの科学的知見が得られたが、予知に関しては「極めて困難」との認識が強まった。「想定外」だった東日本大震災で海溝型地震のモデルが揺らぎ、予測研究の方向性は定まってはいない。
「30年以内の発生確率が60~70%」とされる南海トラフ地震の切迫度と地震学の現状を考えると、防災に結びつく実用的な確度で予測の実現を期待するのは、いささか楽観的に過ぎる。
過度の期待を含め「予知幻想」の根は深い。予知から予測に言葉をすり替えても、幻想を断ち切ることはできない。
今後の予測研究が正しく理解されるためにも、地震学者が予知にけじめをつけるべきである。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013053002000126.htmlより、
東京新聞【社説】南海トラフ地震 3・11胸に減災対策を
2013年5月30日
「南海トラフ巨大地震の予知は困難」と内閣府が最終報告をまとめた。東海地震でも、もはや予知情報を期待できない。建物の耐震化や食料・水の備蓄など、きめ細かな減災対策を積み重ねよう。
「前兆滑り」…。地震発生前に震源のプレートが滑る現象を「ひずみ計」でつかみ取れば、東海地震の予知ができるという前提は、もはや崩れたといえる。
駿河湾から四国沖、九州南部へと延びる南海トラフでは、東海、東南海、南海の三連動地震が起きる恐れがある。だが、前兆滑りが検知されない場合でも地震が起きうる。
以前から、東海地震予知の限界は専門家の間で指摘されていたが、今回の内閣府の発表はそれを確認した形となった。
一九六〇年代から始まった地震予知の夢は、やはり夢でしかなかったのか。七八年に施行された大規模地震対策特別措置法(大震法)は、東海地震の予知を期待したものだっただけに、根拠を失ったに等しい。東海に限らず、より広域的に自治体を支援する法整備が今後、求められよう。
三連動によるマグニチュード8クラスの地震が起こる可能性は、三十年以内に60%から70%という数字もある。あす起こっても不思議ではない。対策は迅速、かつ着実に進めていくしかない。
南海トラフ巨大地震の最悪の想定は、死者三十二万三千人、経済被害二百二十兆円と既にはじき出されている。同時に有効な減災対策を打ち出せば、死者六万一千人、経済被害百十二兆円に抑え込めるという試算もある。
事前に手を打つ減災策こそ最も現実的なのだ。建物の耐震化と同時に、水道・ガスなどライフラインの対策も立てねばならない。防潮堤や避難施設も確保したい。
だが、ピーク時には、九百五十万人にものぼる避難者をどうするか。国は「高齢者ら災害弱者を優先に」という方針で、おのずと個人の「自助」と、助け合いの「共助」を求めることになる。
物資不足は最初の三日間よりも、四日目以降に食料も水も不足分が倍増する。簡易トイレや毛布も足りない。医薬品はどうか…。各家庭が一週間以上の備蓄をする必要がある。日常生活に目配りをした準備を心掛けよう。
名古屋・大阪圏を直撃する大震災となる。交通網の途絶、断水と停電…。大混乱の中で、まず身を守らねばならない。3・11の教訓を胸に刻み、危機に備えたい。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 5月 29 日(水)付
南海トラフ地震―「予知困難」を出発点に
南海トラフの巨大地震が、いつ、どの地域を中心に、どんな規模で起きるか。それを直前に予知することは難しい。
国の有識者会議がまとめた最終報告書はそう認めた。
政府の地震対策は、見直しを迫られる。東海地震への対策の法制度は、予知は可能であり事前避難ができるという前提で組み立てられている。
東海から九州にかけての広い地域が、不意打ちで大地震にみまわれる。そうなっても被害を最小限に食いとめ、人とモノの支援が被災地に行きわたるようにするには――。
そんな視点で対策をたてなおさねばならない。
多くの人命にかかわる原発や新幹線、高速道路、地下街などの安全対策は急務だ。
一方で、いつ来るかわからないからこそ、各地域で今からできることを地道に積み重ねることが大切になる。
自治体はまちづくり計画の見直しを始めるべきだろう。
たとえば、大津波からの避難が難しい地域では、建築に一定の制限をかける。お年寄りや幼い子ども、障害のある人の施設は高台に移すか、高い建物に建てかえる。報告書はそんな策を列挙している。
避難者は最大で全国1千万人近くにおよび、避難所の不足がみこまれる。被災地にとどまらなくてもよい人には、帰省や疎開をすすめる。そういう提案もしている。
まちづくりの見直しも、避難所不足の解消も、地域で話し合わなくては進まない。裏を返せば、地域の防災力を高めるかぎは共助だといえる。
アパートのあの部屋に、独り暮らしのお年寄りがいる。あちらの家族は地元を離れられない仕事だ。うちは県外に親類がいる。そうした個人情報を、地域でどのように、どこまで共有できるかが課題になるだろう。
もう一つ、報告書が強調しているのは防災教育だ。予知できない震災に備えるには、将来の世代に防災の知恵を受け継ぐことが大切だからだ。
災害の科学的な知識を学ぶ。自分が住んでいる街の危ない場所を知る。避難訓練をする。
いまはそうした内容がいろいろな教科に散らばっている。しかし、学んだことが行動に結びつくには、もっと体系的に教える必要がある。文部科学省はそのためのカリキュラムの検討を進めている。
いざというとき自ら行動し、身を守れる実践的な力を養う。世界有数の地震国にはそういう教育が欠かせない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO55585640Z20C13A5EA1000/より、
日経新聞 社説 南海トラフ地震対策は予知から減災へ
2013/5/29付
東海沖から九州沖で想定されるマグニチュード(M)9級の「南海トラフ巨大地震」について、内閣府の有識者検討会が最終報告をまとめた。この地震が起きれば「東日本大震災を上回る国難になる」とし、都道府県の枠を超えた広域の防災対策を提言した。
検討会がこれまで報告してきたように、この地震が起きるのは千年に一度以下とみられるが、死者は最大32万人、経済被害は220兆円に及ぶ恐れがある。頻度が低いからといって対策を怠ったり、予想される被害の大きさに目を背けたりすることはできない。
提言は、津波対策について防潮堤だけに頼らず迅速な情報伝達で人命を守ることや、耐震補強の促進、救援やがれき処理を広域で支える体制づくりが必要とした。対策はひととおり盛ったといえるが、それを国がどう具体化するかや財源の確保には課題が多い。
なかでも問題になるのが、南海トラフの一部で起きる東海地震の対策をどう見直すかだ。国は「東海地震は直前予知が可能」として防災の前提にしてきた。
いまの仕組みでは、駿河湾周辺で地殻のひずみが観測されると、気象庁の有識者組織が前兆かどうか判定し、首相が警戒宣言を出すことになっている。東海地方を中心に交通機関や店舗の営業を止め、被害の軽減を狙っている。
だが仮に前兆をとらえても震源域が東海だけなのか、九州沖まで及ぶのか予測は困難だ。西日本の地震が先行し、駿河湾では前兆が表れない可能性もある。検討会はこれらの問題点を指摘したが、体制をどう見直すか示さなかった。
政府の地震調査委員会も先週、東海・東南海・南海地震が連動するM8級地震が「30年以内に60~70%の確率で起きる」と予測した。これらが同時発生する恐れが高いなら、なおのこと東海に限った予知体制には疑問が残る。
南海トラフ地震に備え、自治体の対策を後押しする特別法をつくる動きがある。新法制定に合わせ、東海「予知」を定めた大規模地震対策特別措置法(大震法)を廃止すべきだ。大震法で手当てしてきた地元自治体向けの防災財源は、新法で広域の支援策に切り替えるのも一案だろう。
東日本大震災では予知や予測に頼る防災の限界が改めて浮かび上がった。大震法を廃止し、事前の備えにより被害を極力抑える「減災」を強めたい。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130529k0000m070110000c.htmlより、
社説:南海トラフ地震 減災対策を加速させよ
毎日新聞 2013年05月29日 02時30分
マグニチュード(M)9級の巨大地震の規模や発生時期を確度高く予測することは困難だと結論づけた。
南海トラフ巨大地震の中央防災会議作業部会の最終報告だ。
一方で、南海トラフのどこかでM8〜9級の地震が30年以内に発生する確率について、政府の地震調査委員会が「60〜70%」との予測を先日、公表した。切迫性は相当高い。
作業部会の予測では、最大クラスの地震が発生すれば九州から首都圏に至る広域を30メートル級の津波が襲う。死者は最大32万人となり、経済的損失は220兆円に及ぶ。途方もないスケールの被害だ。
効果的な減災対策をどう実施し、大切な国民の命を守るのか。まさに国家の存亡をかけた取り組みと位置づけられる。政府は早急に大綱作りに着手し、具体的な減災目標と政策達成のスケジュールを明確に示すべきだ。法整備も急ぎ、メリハリをつけた予算措置をとってもらいたい。
作業部会は今回、「事前防災」という表現で、ハード、ソフト両面での対策を促した。津波への備えや建築物の耐震化、火災や液状化対策、ライフラインやインフラの確保など多岐にわたる。
東日本大震災では震源から遠く離れた首都圏や近畿圏の高層ビルが長周期地震動によって大きく揺れた。こうした新たなタイプの地震被害への対応も必要だ。
ただし、ハードの整備といっても財源には限りがある。総花的に金を使うのではなく、大勢の命にかかわる対策を優先するのは当然である。大きな津波が発生した時に迅速に避難できる態勢の整備と、建築物の耐震化は喫緊の課題だ。
最大32万人の死者想定の7割は津波によるものだ。だが、試算によると適切な避難などによりこの数字は6万人余りに減らせる。高台への避難路確保や避難用タワーの整備は待ったなしだ。
同様に、現在79%の住宅耐震化率を100%に引き上げれば、経済的被害は半減する。耐震化は圧死による人的被害も防げる。学校など公共施設を優先して対応を急ぐべきだ。
超広域の被害に備え、都道府県や市町村単位で防災協定を結ぶなど広域支援の枠組み作りも検討すべきだ。
それでも必要な物資が長期間届かない事態が想定される。国の防災基本計画で「3日分」が目安だった水や食料の家庭備蓄を「1週間分以上」にするよう作業部会は促した。また、被災程度の大きい被災者から優先的に避難所に受け入れる制度の導入も提言した。
共助、自助の大切さが一層、クローズアップされた。防災教育を通じた啓発にも力を入れてほしい。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130529ddm003040100000c.htmlより、
クローズアップ2013:南海トラフ最終報告(その1) 戸惑う防災の現場
毎日新聞 2013年05月29日 東京朝刊
◇避難所に殺到…「追い返せない」/地震直後…自主組織任せに限界
「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」(WG)が28日公表した最終報告は、巨大地震の予知を困難と結論づけ、「減災」のための「事前防災」を従来以上に強調する内容となった。示された対策は多数の項目で構成されるが、防災対策の現場を担う自治体からは「どこまで実現可能なのか」と戸惑いの声も上がる。自治体を支援する国の財源対策も進んでいない。巨大地震対策は多くの課題を抱えながら、新たな一歩を刻んだ。
WGが多数の対策を網羅した最終報告について、自治体からは「参考になる」と評価する声もある一方、個別の対策に対しては「本当に実現できるのか」とため息も漏れる。
WGは今年3月に公表した第2次被害想定で、避難者が最も増えるのは地震発生から約1週間後で最大約950万人と推計、うち約500万人が避難所に殺到するとした。最終報告は、避難所で受け入れる被災者の優先順位を判断する「トリアージ」を実施し、住宅被害が軽微な人には自宅へ戻るよう促すことを求めた。
トリアージは救急でも活用され、判断の個人差をどうなくすかが課題だが、WGはトリアージを誰が何を基準に行うかは示していない。大阪市危機管理室の担当者は「集まってくる被災者を追い返すことも、受け入れた被災者を追い出すことも難しい」と話す。
また、報告は避難所運営について「自治体職員が主体的に関わるのは困難で、自主防災組織などによる運営体制を整備すべきだ」とした。だが浜松市の松永直志危機管理課長は「地震発生直後は住民も放心状態。自治体が関わりを持たざるを得ない」と指摘。地震発生後、複数の課題が「ほぼ同じタイミングで起こる」として、「人の問題、金の問題などで現状では対策しきれないものもある」と話す。
国、都府県、市町村がどう役割分担するか、報告では不明確な対策も多い。愛知県防災危機管理課の担当者は「対策の現場を担うのは市町村だが、物流の確保など単独では難しい。連携、分担を詳細に詰めていく必要がある」と指摘する。
静岡県は現在、東海地震を想定した県内の被害想定や行動計画を南海トラフ巨大地震も踏まえた想定に改定中だが、課題は財源だ。県は1979年以降、地震防災対策費として2010年末までに累積約8820億円を投じてきたが、国からも同約1兆1473億円の補助を受けている。小川英雄危機管理監は「南海トラフ地震の備えでは対象自治体が広がり、静岡県に今まで以上の国の支援は期待できない。避難や備蓄への意識を高めるソフト対策はますます自治体の役割になる」と気を引き締める。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130529ddm003040100000c2.htmlより、
最終報告は地震予測のさらなる研究を課題に挙げている。三重県防災企画・地域支援課の担当者は「5分、10分でも前に地震発生が分かったら、救える命は増える。津波から逃げられる確率を高めて」と注文を付けた。【斎藤広子、高橋昌紀、谷口拓未、樋口淳也、飯田和樹】
◇財源確保、国に課題
自民、公明両党は南海トラフ巨大地震対策の最終報告が公表された28日、大きな津波被害が想定される自治体に対する公共施設の高台移転などへの財政支援を盛り込んだ「南海トラフ巨大地震に伴う地震・津波被害対策を進める特別措置法案」をまとめた。6月上旬にも国会に提出する方針だが、会期が残り少ないことから成立は秋の臨時国会に持ち越され、成立後も対策の具体化に向けて財源確保が課題となる。
「東日本大震災以降の防災対策では津波への手当てがほとんどなかった。財政次第だが強力に後押ししていく」。28日、与党防災減災プロジェクトチームの小委員会後の記者会見で、座長の林田彪衆院議員(自民)が胸を張った。
自公両党は昨年6月にも南海トラフ特措法案を提出したが廃案となった。政権奪還後、関係9県からヒアリングし、自治体の避難施設建設事業費の3分の2を国が補助する特例を新たに盛り込んだ。学校の高台移転は2分の1、病院や福祉施設は3分の1を補助する方向で検討している。また、事前防災を重視したインフラ整備に集中投資する「防災・減災等に資する国土強靱(きょうじん)化基本法案」も今月20日、国会に提出した。
課題は財源。参院選をにらみ景気対策の大規模予算を組んだ安倍政権も、長期金利上昇を受けて今後は財政再建路線を強めざるを得ない。林田氏も全体の事業規模は明言しなかった。
一方、野党側は「防災に名を借り、公共事業重視の時代に先祖返りしようとしているのでは」(民主党幹部)と警戒しつつ、防災・減災が必要との認識は共有する。民主党幹部は「対案を作ることもあるし、一緒にやることもあるかもしれない」と述べた。みんなの党の江田憲司幹事長は記者会見で「防災・減災は大切」としながらも「自民党にとって選挙の恩返しは大規模工事」とも指摘した。【福岡静哉、高橋恵子】
◇備蓄「普段の買い物、余分に」−−被災地支援NPO・浦野常務理事
最終報告は飲料水などの家庭備蓄について、多くの自治体が呼びかけてきた「3日分」でなく、「1週間分以上」の必要性を訴えた。各家庭は何を、どれだけ備えればいいのだろう。被災地支援を続けるNPO法人「レスキューストックヤード」(名古屋市東区)の浦野愛常務理事からアドバイスを受けた。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130529ddm003040100000c3.htmlより、
一般家庭は備蓄スペースが限られ、工夫が必要だ。浦野理事は、米や食材については「普段から使う物を余分に買う感覚」を勧める。これらの食材は、日ごろ料理などに使っていき、使った分を補充するといい。
普段は使わないが、災害に備えてあえて購入すべき品もある。尿と便を固め、燃えるごみとして捨てられるようにする凝固剤のセットだ。浦野理事は「排せつ物は深刻な衛生問題をもたらす」と警告する。
野外で調理しなければならなくなっても、都会はたき火をする場所を見つけるのが難しい。おすすめはカセットコンロという。
連絡手段として必要な携帯電話の充電やライトに使う電池も不可欠だ。
浦野理事が「覚えておいた方がいい」と推す調理方法がある。米と水、または刻んだ食材を入れたビニール袋ごと湯の中で煮炊きする調理方法「パッククッキング」。時間や燃料などのエネルギーを節約できる。栄養分を逃がさない利点もあり、災害とは関係なく既に広まり始めているという。方法が本やウェブサイトで紹介されている。
浦野理事は東日本大震災の被災地で、被災後2週間がたっても救援物資が届かない現状を目の当たりにした。「本当は2週間の備蓄が理想。でも、ハードルが高いので、まずは1週間分を目指して」と話している。【花岡洋二】
http://mainichi.jp/opinion/news/20130529ddm002040089000c.htmlより、
クローズアップ2013:南海トラフ最終報告(その2止) 迫られる対策転換
毎日新聞 2013年05月29日 東京朝刊
◇「予知可能」の前提崩れ
「規模や発生時期などを高い確度で予測することは困難」「このまま相当期間、東海地震が発生しなかった場合には、東南海、南海地震と同時発生の可能性も生じてくる」。南海トラフを震源とする地震の予知・予測の可能性を検討してきた調査部会は、28日の報告書にこう記した。国が「唯一直前予知ができる可能性がある」と位置付けてきた東海地震。その対策の根本的な転換を迫る内容だ。
調査部会は、被害予測をまとめた作業部会の下部組織で、地震予知や測地学の専門家6人で構成する。南海トラフのような海溝での地震は、陸側のプレート(岩板)と、これに沈み込む海側プレートとの境界がずれて起きる。一部がゆっくりと動き出し(前兆すべり)、その後加速して全体が動き、地震に至ると想定されている。東海地震の前兆を捉えようと、1970年代末から国策で特別な観測体制が敷かれてきた。
だが今回、調査部会は最新の研究成果を踏まえ、こうした手法による予知を「一般的に困難」と位置付けた。前兆すべりを検知する前に「いきなり地震に発展する」ことや、「検知されたとしても地震が発生しないことはあり得る」との見解だ。
東海地震が予知できることを前提にした大規模地震対策特別措置法(大震法)は、前兆すべりを捉えた場合、首相が警戒宣言を発令し、鉄道や大規模施設の営業などの経済活動を止める手続きを定める。実際に地震が起きなくても経済損失は東海地方だけで1日1700億円に上ると試算され、気象庁内部にも「現実的でない」との見方が強い。
世界的にも確実な予知の成功例はなく、調査部会は、警戒宣言を柱にした大震法についても「現在の科学の実力に見合っていないという認識が強まっている」と指摘した。さらに、東海の予知体制を「(海外から)短期予測(予知)を検証する場所として見なされている」と皮肉を交えて報告した。「まだ実験レベルの国策」だという意味だ。
28日の記者会見で古屋圭司防災担当相は「予測は極めて重要な技術。観測体制を強化して研究を推進する必要がある」と、前向きな姿勢を示した。だが、調査部会座長の山岡耕春(こうしゅん)名古屋大教授は「直前予知は難しく、大震法の運用は変えるべきだ。仮に前兆現象を捉えた場合も、経済活動に大きな制限をかけない工夫が必要だ」と強調する。
日本地震学会の会長である加藤照之東京大教授は「地震予知と大震法を今後どうすべきかは科学の議論ではなく国民の判断だ。科学者は今の地震学のレベルを分析して説明する役割しかできない」と、広範な議論を求める。【渡辺諒、八田浩輔】