夫婦のあり方 「別姓も選べるように」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013053102000139.htmlより、
東京新聞【社説】夫婦別姓訴訟 選択制の議論を進めよ
2013年5月31日
「夫婦別姓を認めない民法規定は憲法違反」と訴えた裁判は、原告敗訴に終わった。だが、結婚後の改姓で不利益をこうむる人もいる。若い人ほど希望が多い選択的別姓制を議論してはどうか。
民法の規定では、結婚に際し、「夫または妻の姓を称する」と中立的な表現になっている。だが、実際には96%が、夫の姓を選んでいる。この実態は結婚前の姓を名乗りたいと望む女性の側からは、差別的と映る。男性の姓を強制されているのと同然だからだ。
男女平等や個人の尊厳などに反すると訴えた裁判で、東京地裁は「結婚前の姓を名乗る権利まで憲法で保障されていない」などとして、原告の主張を退けた。一方で「姓名は人格権の一部」と認め、「結婚後の改姓で人間関係やキャリアに断絶が生じ、不利益が生じる恐れがある」とも述べた。
ここで浮かび上がるのは、「選択的夫婦別姓」という制度である。夫婦が希望すれば、それぞれの姓を名乗ることができる仕組みだ。女性も自分の価値観で姓を選ぶことができる。
一九八〇年代から、この考え方が広がりをみせ、九六年には法制審議会で、同制度を含む民法改正案要綱がまとめられた。だが、法案としては一度も国会に提出されたことがない。
「家族の一体感が失われる」「子どもがきょうだいそれぞれ別の姓になる可能性がある」など、反対論が根強いからだ。
実際に今年二月に内閣府が公表した世論調査でも、「同じ姓を名乗るべきだ」という反対の声が36・4%、「婚姻前の姓を名乗るようにしてもかまわない」という賛成の声が35・5%と拮抗(きっこう)する。世論は真っ二つに割れているのだ。
ただし、二十代に限ると、反対派が21・9%で、賛成派が47・1%と、選択制を肯定的にとらえている。その傾向は三十代、四十代もほぼ変わらない。
明治時代の民法は「家」への帰属を重視していた。しかし、家族や姓の在り方については、時代や社会によって変化しうる。女性の社会進出も増えている時代だ。家族が多様化し、姓もまた個人的な権利という考えが浸透すれば、法も変化が求められよう。
選択的夫婦別姓は、民主党政権下でも議論に上がったが、立ち消えになった。結婚前の姓を「通称」として使えるように法改正を望む声もある。どんな立法政策がいいか、論議を一歩進めたい。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 5月 30 日(木)付
夫婦のあり方―別姓も選べるように
妻も夫も、もとの姓のままでもいいし、どちらかの姓にあわせてもいい――。そんな結婚のしかたは、いつになったらできるのか。
夫婦は夫か妻の姓を称する、と民法は定めている。この規定が個人の尊厳を保障する憲法にかなうのかが裁判で問われた。
東京地裁の判決は、結婚と改姓の間で悩んでいる人たちに、解決策を示さなかった。
生まれながらの姓を、結婚で変える影響は小さくない。
仕事で築いた実績や人間関係は、姓を変えることで途切れかねない。
新しい姓を名乗ることで、本来の自分でなくなったような気持ちになる人もいる。
厚生労働省の統計では96%の夫婦は夫の姓にしており、女性に改姓の負担が集中している。
旧姓を使っていいと認める職場は広がっているが、すべてではない。身分証明になる運転免許証などの姓と通称が違うことで生じる不便や混乱は、しょっちゅうのことだ。
裁判をおこした5人もこうした悩みを抱えており、見回せば近くにいそうな人たちである。
婚姻届を出さずに、夫婦として暮らす「事実婚」を選ぶ人たちもいる。だが、税制上の控除や相続権など、法律上の結婚で認められる利益をあきらめなければならない。二人の間の子どもは婚外子となる。
女性の社会進出が進み、家族のかたちは多様になり、予想できた問題である。とうに立法で解決しておくべきだった。
法務省は96年に、夫婦は希望すればそれぞれ結婚前の姓を名のれる選択的別姓の制度をふくむ民法改正案要綱をまとめた。この案では、子どもたちの姓は一方の姓に統一される。
ところが、与党・自民党の一部の国会議員から「家族の崩壊を招く」「家族の一体感が損なわれる」などの反対が出て、法案提出に至らなかった。民主党政権でも実現せず、法案は17年間、日の目を見ていない。
姓が違う夫婦がいても、それぞれの考えを尊重した結果だ。そこに家族崩壊の兆しをみるのは、ゆきすぎではないか。
民法が夫婦同姓としたのは、結婚制度に不可欠であるとか、結婚の本質にもとづくものだなどの説明がされているわけではない。それは今回の判決も認めている。
国連の女性差別撤廃委員会も、結婚によって姓の変更を強制するのは問題があると指摘してきた。欧米の多くの国は、同姓かそれぞれ旧姓を名乗るかを選べる仕組みにしている。