直視すべき憲法9条と現実の乖離 小林節氏
http://www.nnn.co.jp/rondan/ryoudan/index.htmlより、
一刀両断 -小林 節-
直視すべき憲法9条と現実の乖離
日本海新聞 2013/6/4の紙面より
今年の憲法記念日(5月3日)前後の憲法論議は、自民党が提案した96条の先行改正(改憲手続き条件の緩和)に集中してしまった。
しかし、このいわば禁じ手のような手続きの先行緩和に訴えてまで自民党が改憲にこだわるのは、周知のとおり、憲法9条と現実の乖離(かいり)がもはや説明不能な状態に陥っているからである。
日本国憲法は、まず前文で、「諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と宣言し、それを受けて9条で、「戦争…を放棄」し(1項)「戦力は…保持しない」と誓った。
しかし、その時すでに北方四島はソ連(現ロシア)に軍事占領されており、後に竹島は韓国に軍事占領され、北朝鮮には領海・領土・国民をじゅうりんされ、かつミサイルでどう喝され、さらに、中国は尖閣諸島を軍事占領する構えで迫って来ている。
そのような現実に対して、わが国は、まず、国際法上確立された、独立主権国家の自然権としての自衛権を根拠に、自衛「戦争」を想定した自衛隊という「戦力」のごときものを保持し続けて来た。
しかし、侵略戦争に対する反省から、政府は自衛は許されるとしても、間違っても再び侵略戦争を行うことがないように、(憲法条文上は何も書かれていないが、)(歴史的反省から来る)解釈上の自制として、専守防衛、海外派兵の禁止、集団的自衛権の不行使という制約を自らに課して来た。
ところが、それでいて、イラク戦争でわが国は、米軍の戦闘部隊の航空輸送に協力し、アフガニスタン戦争では、パキスタン沖で海上封鎖作戦中の米軍に現場で給油支援を行った。これらの行動の本質は、米軍の戦闘支援つまり海外派兵そのものであるが、政府は、戦場で引き金をしていない以上、他国の武力行使と一体化していないので問題ない…と詭弁(きべん)を弄していた。しかし、これらの米軍に対する協力がイスラム勢力の恨みを買って、アルジェリアで邦人が狙い撃ちにされた。
もはや、憲法条文と現実の関係の整理は急務であろう。その際、私なら次のような内容の新9条を提案したい。
1.侵略戦争は絶対に行わない。
2.独立主権国家として、自国が侵略の対象にされた場合には自衛戦争は行う。そのために自衛軍を保持する。
3.国連決議による要請があり、かつ、国会による事前承認がある場合に限り国際貢献を行う。
(慶大教授・弁護士)