記者の目:水俣病最高裁判決 笠井光俊氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130604k0000m070145000c.htmlより、
記者の目:水俣病最高裁判決=笠井光俊(水俣通信部)
毎日新聞 2013年06月04日 00時09分

 水俣病患者を認定する国の基準は妥当かどうかが争われた訴訟で最高裁は4月、要件とされてきた複数症状がなくても認定できるという判断を示した。行政の認定制度を事実上否定して改善を求めた形で、国もその検討を始めざるを得なくなった。しかし判決から1カ月たっても改善の方向性は示されていない。かつて新潟で勤務し新潟水俣病も取材してきた私は、基本的なことを改めて訴えたい。「国は被害実態に向き合え」と。
 訴訟は、1950年代に熊本県水俣市に住み、70年代に認定申請した女性2人(ともに故人)について、認定するよう求めたものだった。2人は原因企業・チッソが排出した水銀に汚染された魚と知らずに食べ、手足のしびれといった感覚障害を患った。ただ、国が77年に定めた現行認定基準は、感覚障害を基本としつつも、運動失調や視野狭さくなど「複数症状の組み合わせ」を要件としたことから、申請を棄却された。
 しかし、汚染された魚をある程度食べ、水銀を摂取した時に表れる最も基礎的な症状の感覚障害があれば、それは水俣病と言っていいのではないか。とてもシンプルな訴えであり、最高裁は今回、素直にそれを受け入れた。

申請から40年
翻弄された遺族
 「申請からの40年近くはいったい何だったのか」
 判決後、熊本県から認定通知書を受け取った2人の遺族が、期せずして同じ言葉を発したのが耳に残る。被害者団体などから「患者切り捨て制度」と批判されても国がかたくなに守ってきた現行の認定制度によって、いかに長く翻弄(ほんろう)されてきたかが、その言葉に凝縮されている。
 2人のように、外見からは症状があるのかないのか分かりにくい患者は、実はたくさんいる。そもそも水俣市周辺の不知火海沿岸に当時住み、魚を食べたことがない人がいるのだろうか。摂取量など、わずかな差によって病状に違いが出るだけで、住民全員が公害の犠牲者だと思う。昭和電工が水銀を流した新潟県の阿賀野川周辺も同様だろう。
 それなのに、軽度の患者が「補償金目当てのニセ患者」という汚名を着せられることがあった。地域の有力者がそう発言し、国も、そうした差別や偏見を積極的にとがめなかったのが水俣病の歴史である。約20年前、初任地の新潟支局で接した新潟水俣病第2次訴訟原告で「新潟水俣病被害者の会」会長だった南熊三郎さん(故人)が「被害者なのに『ニセ患者』呼ばわりされる汚名をすすぎたいから提訴したんだ」と言ったのを、今も覚えている。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130604k0000m070145000c2.htmlより、
 国は「何もしてこなかったわけではない」と反論するだろう。95年の「政治決着」、09年の水俣病被害者救済特別措置法(特措法)と2度にわたり、「認定しない」軽度の患者を救済する仕組みを作った。しかし、差別や偏見に苦しみ、地域経済を支える加害企業に気兼ねする人たちを鼓舞して、被害が告白できるよう努力したのは、あくまでも被害者団体や民間医師たちであり、行政ではなかった。昨年7月に申請が締め切られた特措法でも団体が申請を促し、国の予測を大幅に上回る約6万5000人が手を挙げた。当時の副環境相は患者掘り起こしを「慎んでもらいたい」と思わず本音を口にした。
 被害の実態を正面から見ることを避け続けた国が最高裁判決を受けて認定制度の改善の検討に入ったといっても、被害の全体像を調べないままでは、過去の救済策と同様、その場しのぎの継ぎはぎの改善策しか出てこないだろう。今度こそ被害に即した認定制度運用見直しを実現しなければならない。

被害者団体側は
統一行動が必要
 一方、被害者団体側にも注文を付けたい。熊本県や鹿児島県では過去、数十に上る団体が林立した。時に被害者団体に対する行政などの分断工作もあったという。各団体は、訴訟や自主交渉などそれぞれの方針で動いてきた。それは水俣病問題解決に向けての原動力になった一方、混迷要因となった面もある。胎児性患者が60歳目前になるほど高齢化が進む中、各団体は過去のしこりや利害を乗り越えて協力し、統一した行動を取るべきではないか。改めて全国的な連合体を作って国と対する際は、熊本・鹿児島での混迷の歴史を冷静に見ることができる、新潟の団体が主導した方が比較的進めやすいのではないかと私は考える。
 水俣病問題について、国が考える「解決」と、被害者が考える「解決」は異なる。最高裁判決を踏まえ、まずはそのことを真摯(しんし)に話し合うテーブルを用意すべきだろう。

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